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十八歳・ふたりの限りなく透明な季節  作者: 香月よう子
第三章・透明な二学期
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乙女たちのクリスマス(後編)

「でも、みんな、大学どこ受けるの?」

 宴の座も佳境に盛り上がってきた頃、ゆうが言った。この話題はやはり、避けられないとみえる。


「お杏はどこ受けるんだっけ?」

「私? 上茅じょうちの外国語学部・英米語学科よ。滑り止めに、東応女子とんじょ大と律響りっきょう大学」

「お杏の英語力なら合格間違いなしね!」

「でも、お杏の彼氏の一哉さん、久麿大の医学生なんでしょ? そしたら、一哉さんと離れ離れになっちゃうじゃない」

 ゆうが眉をひそめる。

「ああ、うちはつきあい長いから。遠距離で行くわ」

 さばけた様子でお杏が言う。

「でも、不安じゃないの?」

「言ってたらキリないし。絆を信じるのみよ」

「お杏、つよーい!」


「舞はどこ受けんの?」

「私? 保育大。将来、保育士さんになろうと思って」

「オコチャマがオコチャマ育てるってわけ?」

「どうゆう意味よ!」

 舞がぷうっと頬をふくらかす。


「ゆうは?」

「私は、久磨学園大の教育学部。体育の教師を目指しています。ちなみに合否判定はランクA」

 ゆうが胸を張った。

「ゆう、教師かあ。偉いわ」

 私は、人を育てる教師にだけは向いてないと昔から自分で思う。


「純はどうなの?」

「うん、大阪浪速大受ける。外国語のドイツ語。合否ランクは私もA」

「美結妃は?」 

「私、大学は受けないわ。県庁の公務員試験受けようと思って」

「えー! じゃあ、春からOL?!」

「社会人になっちゃうの!?」

 美結妃の一言に皆が驚いた。済陵生で大学に行かない進路を選ぶ生徒はほとんどいない。

「みんな、それぞれ道が分かれるのね」

 その何気な私の一言に、何だかみんながしんみりしてしまった。


「でも。私も純も休みには帰省するわよ。来年もこうして集まりましょうよ」

 場を気遣うお杏の言葉に、

「「「「さんせーい!!」」」」

 と、また皆の明るい声が揃った。



 ***



「舞のパジャマ、可愛い~! トナカイパジャマね」

「えへへ」

 舞のパジャマはトナカイの茶色の着ぐるみ。


「お杏のネグリジェ、色っぽーい! さすが済陵の「大人の女」だわ」

「えー、こんなの普通でしょ?」

 お杏はピンクのサテンのキャミワンピの上から同素材の七分袖の羽織り物を羽織っている。


「美結妃のパジャマがまた……意外……」

「超セクシー!」

「黒のベビードールって、どこで買ったの?」

「これは通販」

 美結妃が涼しい顔をしている。


「純のパジャマは色気も何にもないわね。赤い水玉柄フリースの長袖パジャマなんて、守屋君、そそらないんじゃない?」

「守屋君はカンケーないでしょ! それにあったかいのが一番。腰を冷やすと女は体に悪いのよ」

「ババクサ」

「ゆうなんか無印のスウェットじゃない!」


 お杏の部屋で、お杏のベッドにお杏と私、ローソファに舞、床の上に客用布団を敷いてゆうと美結妃が、皆で寝ながら話している。


「あー、今夜は楽しかったわね」

 しみじみと呟いた。

 本当にいい友達に恵まれて良かった。


 ……なんて思っていたのに。


「あら、まだオワリじゃないわ。純ちゃん。ここからが本番よ」

 舞が悪戯っぽく言ったのだ。そして、

「ミッドナイト・ガールズ・トーク開催宣言!」

 ゆうが寝転んだまま、右手を突き上げた。

「あ、やっぱり。あれで終わると思ってなかったわ」

 お杏が笑う。


「え、え。どういうこと?」

「だーから、純はネンネて言われるのよ。しっかりしてるくせに、そこらへん抜けてるんだから……」

 ゆうが大袈裟にジェスチャーする。


「純、守屋君とどこまでいったの?」

 美結妃がストレートに尋ねてきた。

「な、何……」

「キスくらいしたんでしょ?」

「それとも最後までいったあ?」

「そ、そんなこと言えるわけないじゃん!!」

「あー、てことはキスはしたんだ」

 舞が笑う。


「舞こそどうなのよ!?」

「私ぃ? 人並みよ」

「人並みって、何が人並みなのよ?」

「純ちゃんがしていることよ」

 私は頭が混乱してきた。


「まあまあ。純は初体験なんだから、あんまり言っちゃダメよ」

「お杏はどうなのよ?」

「私? 私は一哉さん一筋・三年なのよ。察しなさいよ」

 フフフとお杏が笑う。


「ねえねえ! 純の「ファースト・キス」の味って、やっぱり煙草の味だったの?」

「かっこいいわよね、彼のそういうとこ」

「そうそう。セクシーよね」

 もう私はクラクラきそうだ。

「で、純。つきあってどのくらいでキスしたの?」

 そのゆうの問いには、うっ!ときた。

 まさか……つきう前から押し倒されたなんて!

 口が裂けても言えるわけがない……。


「純って夏休みから彼とつきあってるのよね?」

「もう交際五ヶ月か」

「キスまで一ヶ月、初Hまで三ヶ月が標準コースって本当?」

 美結妃がまた尋ねてきた。

 確かに……それは或る意味、正解かも……。

 なんて、やっぱり言えるわけがない!


「ノ、ノーコメント……」

「あー、アヤシイ!」

 皆が一斉に声を上げる。


 そういう風に高校生活最後の「聖なる夜」は、楽しくも賑やかにしんしんと更けてゆくのだった……。


  ……アーメン。



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