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十八歳・ふたりの限りなく透明な季節  作者: 香月よう子
第三章・透明な二学期
34/44

十八歳のアニバーサリー(3) 最高のバースデー

「わああ……!」


 海・海・海……。

 真っ青な海……。

 目の前一杯に広がって。

 我慢できずに一人で駆け出す。砂浜に降りて、波打ち際に立つ。


 十一月の海────── 


 波が怖いくらいに高く。

 碧の色がより深く……。

 真夏の海岸とは裏腹にうらぶれていて、人っ子一人いない。勿論、泳ぎに来た訳じゃない。

 でも、とにかく目の前に「海」がある。波の音が聞こえる。

 中沢けいの「海を感じる時」

 その言葉タイトルがふと頭を掠めた。


 ああ……。最高……。


「満足した?」

 その時、背後から守屋君の声がした。

「神崎。夏休みの頃、ずっと海が見たい!海が見たいって、言ってただろ。よっぽど海が好きなんだなあって、思って。車かバイクで連れてきてやりたいとこだったけど、俺、まだ免許持ってないんだ。大学生になったら、免許取るからさ」

「充分よ……。私一人じゃこんな遠くの海、来れないもの。それに青春十八切符の旅、楽しかった!」

「来年も、来よう」

「うん……。二人でね」


 彼の腕に自分を預けた。彼は私の肩を抱いていてくれる。波風に晒されながら、それは優しい充たされた時間だった。


 ザザン…… ザザン……


 足下に押し寄せる波の音を聴きながら、

「本当に……有難う」

 噛みしめるように呟いた。


「─────これ、やるよ」

 守屋君は紺色ネイビーのブルゾンの胸ポケットから、小さな包みを取り出すと私に差し出した。

「開けていいの?」

「ああ」

「これ……」

「おめでとう。十八歳」


 それは、「J」というアルファベットにジルコニアのプチダイヤがちょこんとついた銀色のネックレスだった。


「可愛い……! アルファべモチーフ大好きなの」

「貸してみろよ。つけてやるから」

 もらったばかりのネックレスを彼に手渡すと少し髪をかきあげ、うなじを見せる。そんな自分の仕草にも内心ドキドキしている私をよそに、彼はすんなりそのネックレスを私の首にかけてくれた。

「嬉しい。大事にする……」

 胸元のネックレスに触れ、しみじみ呟いたその時、彼が私の顎を軽く掴んだ。

 え……? 何?!

 ふわり一瞬、口唇くちびるが重なり、そのまま抱き締められる。


 私の誕生日。

 守屋君の胸の中。波音が耳に優しく木霊する。


 最高の十八歳バースデー─────



 ***



「ねえ、守屋君。この後、守屋君の家、寄ってもいい?」

「え、お前こそいいのか?」

「うん。今日も遅くなるってママには言ってあるから、大丈夫」

 私は言った。

「このまま、もう少し守屋君と一緒にいたい……」

 帰りの電車の中で、行きとは違い、彼の隣の席に座って彼の肩にもたれかかりながら呟いていた。

「そんなこと言ったら、また襲うぞ」

「もうー、守屋君ってば!」

 彼の軽口に私は慌てて、身を離す。

「じゃあ、ケーキ買って帰ろうか。うちで誕生祝いしよう」

「うん!」


 私は、ワクワク胸をときめかせている。

 こんな誕生日を迎えられるなんて。去年までは考えたこともなかった。

カレ」と過ごす誕生日……。

 そんな日が私にも来るなんて。


 その時。

 私は、あることを密かに決意した。



***



「十八歳、おめでとう!」


「HAPPY BIRTHDAY to JUNKO」と書かれた白いマジパンプレートがのっているバースデーケーキを前に守屋君が私に言った。

 久麿に帰ってから、霜通りの「QUATORZカトルズJULLETジュイエ」で4号の小さな苺のホールケーキを買って、守屋君の家に行った。

 部屋の電気を消して、細長い蝋燭三本に灯りをともし、ふーっと一息でその灯りを消すと、パチパチパチと守屋君が拍手をしてくれた。


「有難う」

 私は満面の笑み。

 それから、ケーキを二つにカットした。飲み物は守屋君が淹れてくれたいつものブラック珈琲。苦みの効いたその味は、彼独特のもの。


「美味しい……!「JULLETジュイエ」のケーキは最高ね!」

「女ってケーキ、好きだよなあ」

 呆れたように守屋君が言う。

「あら、守屋君は嫌いなの?」

「そんなこともないぜ。神崎とつきあうようになって、甘いもんも美味いって思うようになったよ。俺の珈琲に合う本当に美味いケーキなら尚更ね」

「言うわね」

 そんな会話を交わしていた。



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