十八歳のアニバーサリー(1) サプライズ
「つまり、来週日曜の純の誕生日にサプライズしたいから、日曜日の私との約束はキャンセルしろって言われたわけね? 守屋君に」
お杏が話を要約した。
「うん……まあ、そう」
「呆れた! 随分な関白宣言じゃない! 女同士の約束を何だと思ってるのよ」
「守屋君がまさか、そこまで押しが強いタイプだとは思わなくて……」
私は軽い溜息をついた。
十一月某日の昼休み。
窓際の席でお弁当をつつきながら、お杏と話している。
「大体、そう言ってる段階でもう「サプライズ」でも何でもないってことに気付いてないんじゃない? 彼氏」
「そうよねえ。何考えてるんだか」
「でも、彼……純のこと。それだけ想ってる、てことよね」
と、お杏はそれまでの不機嫌さと雰囲気を変えた。
「純も女冥利に尽きるじゃない」
お杏は意味深な笑みを浮かべる。
「やだ、お杏。からかわないでよ!」
私は顔を紅くする。
「でも……サプライズって……ほんとに何するつもりなんだろう」
「何かプレゼントを用意してるとか。それとも、どこか連れて行ってくれるとか? 一日予定空けとけ、て言うくらいだから」
お杏はお弁当の卵焼きをつまながら、
「ま。彼を優先するしかないわね」
と首をすくめ、そして、大きく伸びをして言った。
「あーあ、純はいいわねえ。今が我が世の華よ、きっと。今を楽しまなきゃ! 私なんか、彼とデートしてても会話もなかったりするのよ、最近」
「え、一哉さんと? 嘘でしょ! 熱々じゃない」
お杏の彼・御崎一哉さんは名門久麿大・医学部生。お杏は一哉さんに首ったけで、街を歩けば必ず声をかけられるくらいモテるのに、浮気の一つもしたことがない。
「うちなんかもうつきあい三年じゃない。確かに仲は深まってると思うんだけど、何て言うのか新鮮味? 欠けるのよねえ……。マンネリていうの。白けるていうか」
お杏が大きな溜息をつく。
「でも、ないものねだりよ。私なんか守屋君とこれからどうなるんだろうて、不安でたまらないもの」
「不安?」
「そう。大学どうしよう。将来はどうなるんだろう、て、そんなこと考えてたら勉強も手につかないわ……」
私も大きな溜息をついた。
本当に考える。
将来のこと、自分の進路──────
なんとか東京の国立・東応大学を目指して頑張ってきたけれど、今のままの成績で現役合格を目指すならもう東応大は諦めて、第二志望の大阪浪速大学に目標を切り替え、勉強した方がいい。
それならば、早く守屋君にもそれを伝えるべき。彼も東京の大学を目指している。関西の大学なんて、視野にも入っていない。近いうちに、真剣に話さなければ……。
私はいつの間にかシリアスに考え込んでいた。
「純は考え過ぎよ。悪い癖よ。もっと気楽に生きなきゃ」
そう言って、お杏は私の手を軽く叩いてくれた。
「何にせよ、楽しみじゃない。誕生日」
お杏がまた、にまにまと笑っている。
「報告しなさいよ、全部!」
「もうー、お杏ってば」
私は笑みを零した。
***
放課後、守屋君と下校中、
「日曜な。午前10時、久麿駅の北改札口で待ってる」
そう彼は言った。
「何処に行くの?」
「秘密」
「ケチ」
「サプライズって言ってるだろ」
彼が軽く私の頭をこづいた。
「でも……本当に、何処に行くの?」
「神崎の行きたい所」
「私の?」
「そう」
彼は呟いた。
「心当たりあるだろ?」
「うーん……」
私はわかったようなわからない顔をした。
「やっぱりわかんない……!」
「ならサプライズでいいじゃん」
「気になるよー」
「お前の行きたいとこだってば」
話は堂々巡り。
「ともかく。寝過ごすなよ!」
守屋君はそう言って、私と行く道を違えた。
私は国道に続く道を歩きながら、「私の行きたい所」を考えている。
ドイツ……んなわけない。
東京ディズニーランド……。
久麿駅に午前10時だってば!
うーん……。




