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十八歳・ふたりの限りなく透明な季節  作者: 香月よう子
第三章・透明な二学期
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狼男に食べられしは魔女の耳(前編)

「わー、純! 可愛い~」

 咲良と優果が同時に嬌声を上げた。

「当たり前よ。私が純に一番似合うイメージで手作りしたんだから」

 お杏がしたり顔で満足そうに言った。

「な、なんか……恥ずかしい……」

 しかし、私は俯き加減で小さく呟く。

「何言ってんの、純。その魔女コス、純にぴったり!」

「そうそう。すごく可憐だわ」

 皆が口々に褒めそやす。

 制服からお杏お手製の黒い魔女ワンピに着替えた私は、短めの白いマントを羽織り、ポニテの上から、赤いテープリボンで装飾されたつば広の黒いとんがり三角帽子を深く被っている。


 今日は10月31日『ハロウィン』の日。

 放課後、午後6時から校庭で生徒会主催の『キャンプファイヤー』が開催されるのだ。


 この催しは済陵史上、初の試み。

 例年、済陵祭での非公認の打ち上げが教師の目に余り、今年は学校側が打ち上げ全面禁止を徹底したところ、当然それに対する生徒の反発は強かった。

 そこで、生徒会が教師と粘り強く掛け合った結果、ハロウィンにかこつけ、キャンプファイヤーのイベントが催されることになったという経緯である。


「でも、純。思った以上にスタイル良いのねー」

「そのウエスト! お杏と遜色ないんじゃない?」

「あら、私の方が3㎝細いわよ。私は58セン……」

「もー、お杏! そんなことばらさない!」


 私は慌ててお杏の言葉を遮った。


「それにしてもお杏はやっぱりさすが優雅ね。そのアラジンの王女コス、お杏らしい」

 お杏は髪をアップに結いあげ、濃い(くれない)のヴェールにゴールドティアラの髪飾りとネックレスを身につけている。ウエストはやや際どい(ライン)で形の良い小さなおへそをセクシーに見せ、その細腰で紅いアラビア風パンツを穿いたアラビアンナイトの王女様風コスプレは、なんとも言えず妖艶な美しさを漂わせている。


「優果のサンタクロースも可愛いわよ」

 優果は上半身が赤で下半身は緑色の超ミニスカワンピに赤いサンタ帽を被っている。

「園子はフェアリー、すごく園子っぽい」

「わ、私……。ちんちくりんだから……」

 背が低く体つきも小さい園子は魔法棒スティックを持ち、黄色い裾が膨らんだワンピ姿で、背中の四枚の白い羽根がいかにも妖精らしく可愛らしい。

「咲良はやけに厳かねえ」

「ハロコスにそれってありなの?」

「いーじゃん! キリスト教ってなんだかロマンチックじゃない」

 咲良は黒のシスター帽に黒いロングの礼服。手には本物の聖書を持って、カトリックのシスターになりきっている。

「まあまあ。咲良も似合ってるわよ」

  そう助け船を出したのは明希。明希はウエストから(バスト)にかけては黒い生地で白いパフスリーブ。ふんわりした赤いミモレ丈のサテンスカートの下に白のペチコートを覗かせ、真っ赤なマントの首元をリボン結びした赤ずきんのコスをしている。


 そうやって仲の良い女子五人組で盛り上がっていたけれど、

「そろそろ校庭に行こうか。点火式が始まるわよ」

「そうね。もう陽も落ちて暗くなってきたわね」

 北校舎二階の教室の窓から外を見ると、空は赤く染まった夕焼けが蒼い薄暮へと色を刻々と変えていくトワイライトタイム。


 そして、私達は各々個性的な思い思いのコスチュームで連れだって教室を後にした。



 ***



 キャンプファイヤーの準備は万全に整っていた。

 校庭中央には木材が大きく何段も真四角に組まれ、その中に焚き火に焼べる何十本もの太い薪が立てかけてある。

 校庭の一角にはテーブルが設置され、紙コップと紙皿、何種類かのソフトドリンクとポテチやクッキー、キャンディなどスナック菓子が多数用意されている。予め配布されているチケットを係に渡せば、生徒一人につきコップ一杯の飲み物と紙皿一枚のお菓子がもらえる手順だ。

 もう集まった生徒達が所々でグループになって、お喋りに興じている。


「もうそろそろ時間ね」

 お杏がそう言った時、アナウンスがあった。

「もうすぐ『点火式』を始めます。生徒の皆さんはファイヤーブロックから五メートル以上離れて、焚き火を囲んで輪になって下さい」

 生徒達が大きく組まれた焚き火を二重、三重に輪になって囲むと、いよいよ『火の司』役の生徒会長が開催宣言をした。


「今から済陵高校『第一回ハロウィン・キャンプファイヤー』を開催します」


 灯の点ったランプを持った『火の神』役の生徒会役員がゆっくりと火の周りを一周し、『栄火長』役の生徒の横につく。『火の守』役がランプから採火し、栄火長のトーチに点火すると、栄火長の挨拶が始まった。


「火は遠い昔から私達に、生きる喜びや勇気を与えてくれました。火は私達の生命でもあります。火を大切にすることは、自分を守ることにもなるのです。しかし、この偉大な火も、使う人の心により、人類を闘争と破壊へと導くことにもなります。火を大切にすることを忘れてはいけません。今、ここに燃える火は、ここに集う私達に、大きな勇気と自信を与えてくれるものと信じます」



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