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十八歳・ふたりの限りなく透明な季節  作者: 香月よう子
第三章・透明な二学期
24/44

助けた仔猫のエピソード(前半) ☆

 その日も私は守屋君と一緒に放課後、賑やかにお喋りを楽しみながら帰宅していた。

 いや、喋っているのは主に私で守屋君は時々、相槌を打ってくれるだけだけど、それでも以前に比べるとずっとよく喋ってくれる。

 そんな何気ないことにそこはかとない幸せを感じている私。

 こんなに幸せでいいのかしら……。

 なんて思いながら、二人で肩を並べて帰っている時のことだったのだ。


 いつもの児童公園の側を通ったその時。


「守屋君、待って」

「どうかしたのか?」

「しっ……!」

 私は、守屋君の声を遮った。

 近くから、何か小さなか細い声がする。

 私は、きょろきょろと辺りを見回した。

 みゃあ…みゃあ~……と、それは哀しそうな鳴き声が聞こえてくる。


「あれか」

 守屋君がぼそりと呟き、視線を遣ったその先には、

「あれ……!」

 公園に植えられている木の上に仔猫が登ったまま、降りられずに鳴いている姿があった。

 私は思わずその木の下に駆け寄った。

「お前。降りておいで」

 そう言いながら、両手を頭の上の木の枝に差し伸べた。

 けれど、私の身長ではとても届かない。

「神崎、よせよ。お前にどうしようもないだろ」

「だって! 放っておけないわ」

 ありったけつま先立ちになりながら尚、手を差し伸べるけど、やっぱり届きそうにない。

 仔猫は枝にしがみついたまま、それは心細そうにみゅうみゅう鳴くだけだった。



挿絵(By みてみん)



「しょうがねえな」

 ちっと舌打ちし、守屋君は枝の上へと両手を伸ばした。

 179㎝の長身の彼でも手が届くか届かないの距離。

「守屋君、もうちょっと……!」

 今にも枝から落ちてしまいそうな仔猫の様子にハラハラしながら、私はその場で固唾を飲んで守屋君と仔猫を見守っていた。

 すると、守屋君の右手がようやく仔猫に届いた。


 その瞬間。


「わっ……!!」

 ギリギリのところで守屋君はバランスを崩した!

「守屋君!!」

 守屋君の体が大きく傾き、仔猫が木の枝から落ちてきたのだ!!

「猫ちゃん……!」

 しかし、地面に派手に尻餅をついた守屋君のお腹の上に、仔猫は無事に抱かれていた。

「セーフ」

 守屋君がふーっと大きく息をつきながら、呟いた。

「凄い! ありがとう! 守屋君!!」

 仔猫はビックリしたように守屋君のお腹の上で動けずにいる。でも、大人しく彼の手に抱かれていた。


 二人で暫しじっと見つめていると、

「みゃあ~」

 ようやく仔猫が小さな声で鳴いた。

 それは愛らしい鳴き声だった。

 その声に恐る恐る茶色い頭を撫でると、また「にゃあ~」とひと鳴きする。

 その様子に緊張していた場が緩んだ。


「この子、すごく小さいね」

「ああ。それに痩せてる」

 この綺麗な三毛の仔猫は、生後何ヶ月?

 動物のことに疎い私にはよくわからないけれど、まだかなり小さいような気がする。

「なんでこんな木の上にいたのかしら」

「さあな。公園に来るガキどもが悪戯で面白がって木の上にあげたのかもな」

「そんな酷い!」

「俺に言うなよ」

 そんな会話を交わしている間にも、仔猫は「みゅう~」とか細い声で鳴く。


作中イラストは、茂木多弥さまより頂きました。


多弥さん、素敵なイラストをどうもありがとうございました!

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