助けた仔猫のエピソード(前半) ☆
その日も私は守屋君と一緒に放課後、賑やかにお喋りを楽しみながら帰宅していた。
いや、喋っているのは主に私で守屋君は時々、相槌を打ってくれるだけだけど、それでも以前に比べるとずっとよく喋ってくれる。
そんな何気ないことにそこはかとない幸せを感じている私。
こんなに幸せでいいのかしら……。
なんて思いながら、二人で肩を並べて帰っている時のことだったのだ。
いつもの児童公園の側を通ったその時。
「守屋君、待って」
「どうかしたのか?」
「しっ……!」
私は、守屋君の声を遮った。
近くから、何か小さなか細い声がする。
私は、きょろきょろと辺りを見回した。
みゃあ…みゃあ~……と、それは哀しそうな鳴き声が聞こえてくる。
「あれか」
守屋君がぼそりと呟き、視線を遣ったその先には、
「あれ……!」
公園に植えられている木の上に仔猫が登ったまま、降りられずに鳴いている姿があった。
私は思わずその木の下に駆け寄った。
「お前。降りておいで」
そう言いながら、両手を頭の上の木の枝に差し伸べた。
けれど、私の身長ではとても届かない。
「神崎、よせよ。お前にどうしようもないだろ」
「だって! 放っておけないわ」
ありったけつま先立ちになりながら尚、手を差し伸べるけど、やっぱり届きそうにない。
仔猫は枝にしがみついたまま、それは心細そうにみゅうみゅう鳴くだけだった。
「しょうがねえな」
ちっと舌打ちし、守屋君は枝の上へと両手を伸ばした。
179㎝の長身の彼でも手が届くか届かないの距離。
「守屋君、もうちょっと……!」
今にも枝から落ちてしまいそうな仔猫の様子にハラハラしながら、私はその場で固唾を飲んで守屋君と仔猫を見守っていた。
すると、守屋君の右手がようやく仔猫に届いた。
その瞬間。
「わっ……!!」
ギリギリのところで守屋君はバランスを崩した!
「守屋君!!」
守屋君の体が大きく傾き、仔猫が木の枝から落ちてきたのだ!!
「猫ちゃん……!」
しかし、地面に派手に尻餅をついた守屋君のお腹の上に、仔猫は無事に抱かれていた。
「セーフ」
守屋君がふーっと大きく息をつきながら、呟いた。
「凄い! ありがとう! 守屋君!!」
仔猫はビックリしたように守屋君のお腹の上で動けずにいる。でも、大人しく彼の手に抱かれていた。
二人で暫しじっと見つめていると、
「みゃあ~」
ようやく仔猫が小さな声で鳴いた。
それは愛らしい鳴き声だった。
その声に恐る恐る茶色い頭を撫でると、また「にゃあ~」とひと鳴きする。
その様子に緊張していた場が緩んだ。
「この子、すごく小さいね」
「ああ。それに痩せてる」
この綺麗な三毛の仔猫は、生後何ヶ月?
動物のことに疎い私にはよくわからないけれど、まだかなり小さいような気がする。
「なんでこんな木の上にいたのかしら」
「さあな。公園に来るガキどもが悪戯で面白がって木の上にあげたのかもな」
「そんな酷い!」
「俺に言うなよ」
そんな会話を交わしている間にも、仔猫は「みゅう~」とか細い声で鳴く。
作中イラストは、茂木多弥さまより頂きました。
多弥さん、素敵なイラストをどうもありがとうございました!




