HAPPY RAINY DAY 〜雨の日のふたり
雨の日が待ち遠しい
最近とみにそう思う
女心と秋の空
けっこう雨も降るけれど
やっぱり晴れの日が多い
「てるてる坊主」が雨を止ませてくれるなら
「てるてる坊主」を逆さに吊ってみようかな
「純、今日はご機嫌じゃない?」
全ての授業そして掃除も終わって、廊下側の私の隣の席の咲良がそう私に声をかけた。
「えー、そうかなあ」
「だって、朝からにやけてるもの。放課後、何かいいことでもあるの?」
「今日は、雨降りだからよ」
お杏が横から口を挟んだ。
「え、どういうこと?」
「守屋君がこの教室まで純をお迎えに来るのよ。彼、シャイだから、毎日一緒に帰るくせに、教室まで純を迎えに来ないじゃない。でも、さすがに雨降りの中、純を校門前に待たせるのは気が引けるらしくって、雨の日だけ、純を迎えに来るってわけ」
一気にお杏が喋ってしまった。
「本当は、毎日お迎えに来て欲しいのにねえ、純は」
にやりとお杏が笑う。
「純も苦労してるわけね」
気の毒、という顔を、咲良はした。
「でも、純。最近いつもにこにこ笑ってて、落ち込んでることないわよね。すっごい幸せそう。生き生きしてるもの。お肌も艶々でさ。それってやっぱり、守屋氏のおかげ?」
「決まってるじゃない。愛の力は偉大よ! あんなに情緒不安だった純が、最近ずっとどっしり安定してるんだからたいしたもんよ、守屋君の存在は」
「もー、お杏! 大袈裟なんだから」
「でも、まさか守屋君があんなに格好いいなんてねえ。髪型ちょっと変えただけですっかりいい男なんだもん。背も高くてすらっとしてるし、純、内心、鼻高々なんでしょー?」
「そ、そんなことないわよ」
「謙遜、謙遜」
「お杏が言うことないじゃない!」
そうやって放課後、教室で盛り上がっている時だった。
「あ、噂をすれば彼!」
その咲良の声に廊下を見ると、守屋君が廊下の隅に立っていた。
「あ、じゃあ私、行くね」
「ひゅーひゅー!」
咲良が煽る。
「もうー、また明日ね!」
「バイバイ!」
そうして、私は教室を後にした。
***
「お前達、ほんと姦しいなあ。廊下まで話し声が響いてたぜ」
「へえ。じゃあ、聞こえてたのね」
「何が」
「話の内容」
「そこまで知るかよ」
「なーんだ……」
にべもない彼の言葉に、私はちょっとがっかりする。
もし、「雨降りのお迎え」の話が耳に入ってたとしたら、ひょっとして私の気持ちを察して、「晴れ」の日でもお迎えに来てくれるんじゃないかなあ、なんて。
期待した私が馬鹿だった……。
それから……もうひとつ。私は考えを巡らせる。
自分が「格好いい」て噂されてるのを知ったら、どういう反応示すのかなあ、なんて。趣味悪いかしら。
でも。
中学時代はモテモテだったのよね、守屋君。
格好いいなんて言われ慣れてたのかな。
もしかして……。
「何、黙りこくってんの?」
「ベツに」
浮かない顔で答える。
「守屋君」
「何?」
「何でもない……」
高二の時のあの彼女、どうなったの?
昔おつきあいのあった女子達とはもう完全に切れてるの……?
わだかまりのような疑問と不安が押し寄せてくる。
でも、何も聞けるはずがない……。
「まあた、何か考え込んでんだろ。馬鹿だな」
彼は一言素っ気なくあしらうように、そう言った。
「何よー」
人の気も知らないで!
お気に入りの白地に赤い花柄の傘の柄を握り締めると、私は雨の中ぱっと駆け出した。黒い革のローファーが水溜りをはねて、白いソックスに小さな染みを作る。それは、私の心を侵食する波紋の象徴のよう。
後ろを振り返らない私の隣に、ストライドの長い彼は難なく並んだ。
けれど横を向く私に、彼はおもむろに彼は言ったのだ。
「相合い傘でもする?」
「え?!」
一瞬、耳を疑った。
「そういうの好きだろ、神崎は」
「で、でも。守屋君はそういうの嫌いでしょ?」
「神崎の機嫌直すためならいーよ」
そう言って、私から強引に傘を奪った。慌てて守屋君の深緑色の無地の大きな傘の中に入る。
けれど、大きいと言っても二人でさすにはやはり無理がある。
「やっぱり狭いわ」
「だから、神崎はしっかり傘の中に入っとけよ」
「で、でも。守屋君が濡れちゃう」
「俺は躰、丈夫だから。神崎は弱っちいんだから、風邪ひくなよ」
そう言って、傘を私の方へ一方的に寄せた。
細く降る雨が守屋君の右肩をぐっしょりと濡らす。彼が出来るだけ濡れないよう、彼の左肩に寄り添うようにして歩く。
なんだかドキドキする。彼の心臓の鼓動すら聞こえてきそうなほど、近い。
彼とはキスも重ねる仲なのに……。
それなのに、どこか非日常の空間──────
私達は暫し無言のまま、雨の中をふたり歩いていた。しかし、静かに彼が口を開いた。
「明日から。教室まで迎えに行ってやるよ」
え?!
守屋君、やっぱりあの会話聞こえてた……?!
「そんなに迎えに来て欲しかったんなら、言えば良かったじゃん」
「だって……守屋君。そういうの嫌いでしょ……」
「お前は何でも決めつけすぎ。話してみないとわかんないだろ」
低く、諭すような彼のテノール……。
「俺たち、誰に憚ることなくつきあってんだから」
穏やかに彼の囁きが耳元で優しく響く。
「神崎は、頭良くて、可愛くて、ちょっと打たれ弱いけどしっかり者の、俺の自慢の彼女だからな」
「守屋君……」
私は、ぎゅっと彼の左腕を両手で握った。
「大好き」
暖かい秋の雨。
しとしとと止むことなく降り




