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十八歳・ふたりの限りなく透明な季節  作者: 香月よう子
第二章・輝ける夏休み
18/44

嘘と眼鏡 ☆(眼鏡ラブ企画)

このお話は、2023年、高取和生さま主催「眼鏡ラブ企画」参加作品です。

(この部分だけで、お話は通じます。)

「ねえ、守屋君。どうして眼鏡かけてるの?」


 夏休みも終わりに近づいた頃。

 繁華街のカフェでデート中、突然そう問うた。


「え。そりゃ、決まってるだろ。目が悪いから」

「嘘。その眼鏡、ほとんど度が入ってない」

 守屋君は学校でも眼鏡を掛けている数少ない生徒の内の一人。ほとんどの子はコンタクトをしていて、眼鏡を掛けている生徒なんていやしない。ましてや彼の場合、掛けても掛けなくても変わらないような眼鏡なのに。


「……素顔だと。女の子寄ってきて困るから」

 一瞬、言葉に詰まった。

「ジョーダンだよ」

 そう言って笑い出す。

「わ、わかってるわ……!」



挿絵(By みてみん)



 けれど内心、動揺の色が隠せない。

 今の言葉が、本当にマジかジョークなのかわからなかったから。

 守屋君は。

 眼鏡を外すと素顔はなかなかの美形イケメン。そのことを私は知ってる。……()()()から。

 それなのに女子の目にあまり留まらないのは、やっぱり眼鏡のせい?

 私服の時と違って学校では、髪型も制服の着こなしも全くフツウだし……。


 違う。

 その時、何故かはっきりとそう思った。

 彼は学校では自分の存在を消している。

 存在を消す……自分を見せない。

 彼にとって、学校なんてどうでもいいんだ。

 彼は────── 


「何むくれてんの?」

「むくれてなんかないもん」

「女の子寄ってくると困る?」


 そう言ってまだクックと笑っている。

 守屋君って意地悪だ。

 本当に最近わかり始めた。

 優しいくせに時々、突然、顔が変わる。

 まるで私を困らせて喜んでいるみたいに。

 彼はもしかして二重人格者なんじゃないかしら。

 或いは、私を虐めて喜んでるエ…S……?!


 でも。


「怒った?」

 ほら、元に戻った。

 いつもの守屋君の声。穏やかで優しい。


 その時。

 テーブルの横を黒い蝶ネクタイのウエイターが通った時、彼が呼び止めると、チョコパフェとエスプレッソをオーダーした。


「私、パフェなんて頼んでない……!」

「好きなんだろ? パフェ」

「好きだけど……。なんで知ってるの?」


 私、彼の前でパフェ食べたことまだ一度もないのに。

 しかも、チョコパはパフェの中でも私の一番好きなパフェ。


「あー、好きそうな顔してるもん」

「何、それえ?!」

 私は驚きと抗議の声をあげたけど、守屋君は涼しい顔をしている。

「それで機嫌直してよ」


 やっぱり敵わない……!

 守屋君には────── 



 ***



 カフェを出て帰途へつく途中、街で一番大きい中央公園の近くまで来た時。


「あら……?」

 私はふと天を仰いだ。

「雨か……」

 守屋君が呟く。

「こっち行くぞ。雨宿り出来る」


 守屋君が私の右手を握って足早に歩き出す。

 私はたったそれだけのことでドキドキするけれど、それより今は真夏の夕立の方が問題。

 あいにく折りたたみ傘も携帯していないのに、それはたちどころに激しい雨脚になり、私の服はたちまちびしょ濡れになった。


 公園内の小さな東屋の下まで来て、私は自分の濡れた服が気になった。

 雨で薄いTシャツの下のインナーが透けている。

 シフォンのロングスカートが脚にまとわりつく。

 雨の雫が私の服を濡らし、素肌を伝い落ちる。

 こんなのなんだか裸より恥ずかしい気がする……。


 俯き、暫し無言でいると、

「も、守屋く、ん……?!」

 突然、彼が俯いている私の顎を左手で掴み、上向かせた。

「そんな顔するな。欲情するだろ」

「よ、欲情って……!」


 彼は自由な右手でゆっくりと眼鏡を払った。

 薄く目を細めた彼の顔が間近に近づいてくる。

 口唇(くちびる)が、重なる。

 それはこの夏、もう何度となく繰り返してきた口づけ。

 なのに、まるで初めての口づけのように私の胸は昂ぶる。


 ようやく彼が私を解放すると、再び眼鏡をかけた。


「……っぱり、こっちの方がいいな」

 ぼそりと呟く。

「え……?」

「眼鏡かけてた方がお前の顔がよく見える」

「わ、私の顔なんて……。見たって仕方ないでしょ」

「そんなことないぜ。世界で一番可愛い」


 その言葉に真っ赤になった。


「……なんてな、ジョークさ」

 そうやってまたクックと笑いをかみ殺している。

 私は怒ればいいのか、このまま泣いていいのかわからなくなった。


「嘘だよ。本当に可愛いよ」


 そういつになく甘い声で囁く守屋君は、いつも通り眼鏡をかけている。

 そして、先ほどの激情の口づけが嘘のようにそっと優しく私を引き寄せ、抱き締めた。


 そんな彼の「素顔」を知っているのは、世界中で私。

 私一人だけ……。



作中イラストは、茂木多弥さまに頂きました。


多弥さん、素敵なイラストをどうもありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] これはもう!! ドキドキドキドキドキドキものです(#^.^#)
[良い点] もう、好きです(笑) こんなシチュを学生時代にちょっとでも体験してみたかった、が詰まってますね。 公園の東屋でふたりで雨宿りとか、アレやコレ♡ 脳内は、汐の音さまの素敵眼鏡守屋くんと可憐純…
[良い点] 萌えと! キュンと! ハグやらキスやら眼鏡やら!!!! 何度ひとを転がせば気が済むのですかお二人さん!! (ほめてる) S最高ですよね、S。 優しいんですよ、これがまた……あぁ。罪深い…
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