砂塵の園2
「接触した……ですか?」
聞き返した俺に木梨さんは一つ頷いて続ける。
「はい。テストプレーヤーは数日前にスカーフェローを訪れた際、酒場で他のプレーヤーに声をかけているファントムの姿を目撃し、その際にPKを持ちかけていたと聞いています。彼が興味を持って声をかけてみると、『悪いがギュンターという名前かニックネームの奴だけなんだ』と言われたとのことで、ならニックネームをかえればいいかと聞いた際にはそれでいいと言ったと。流石に彼も胡散臭く思ってそれ以上近づかなかったようですが」
ケーニスの奴も――もしかしたら井出も――その方法で勧誘したのだろうか。
取りあえず、次の行先はスカーフェローか、或いは先程鐘楼で聞いたキーロか。
エストブールからはどちらにも行けるし、環状街道沿いに進めばそのどちらの町も繋がっている。
先にどちらかに行って、それからもう片方に回ろうか。だがそれでは時間がかかりすぎる。時系列から言って恐らくスカーフェローからキーロに移動したのだろうから、まだいる可能性のあるキーロからか。
だが同時に思う。
先程の仮説を採用すれば、奴らはどこにでもいる可能性があるという事になる。つまりキーロにもスカーフェローにも、当然ここエストブールにも、だ。
「うーん……」
考えがまとまらない。
一つ思い浮かんだ案があったが、それを言葉にしたのは横にいたクオだった。
「ひとつ提案があります」
俺と小川さんと木梨さんとイオ、八つの目が彼女に向く。
「私は元々単独での試験も行っていました。ですので、私とデンチ達の二手に分かれてそれぞれを担当してみては?」
多分それが一番手っ取り早いだろう。
「俺はそれでいいけど、クオは良いのか?」
「はい。私は元々北部地域での試験も予定されていましたので、そちら方面なら今後も協力可能かと」
なら決まりだ。
とは言え、念のためもう一度ウィンドウを覗き込む。
「――ということで、いかがでしょう」
木梨さんが縦に首を振った。
「私どもとしても、それがいいかと」
許可は下りた。なら今後の方針はそれで決まりだ。
「――ですが、その前にエストブールでの調査を行った方がいいでしょう。キーロやスカーフェローに向かったのなら、ここを経由している可能性はあります」
「そうだな。ならまずはこの辺りの宿屋と冒険者ギルド、それと鍛冶屋やアイテム屋も可能なら確認してくれ」
そこで一度切ってイオに目をやると、彼女も異論はなさそうだ。
「中央の十字で別れて、俺とイオが南側、クオが北側でどうだ」
「分かりました」
「良いと思います」
満場一致。
ここでやることは決まった。
「では、今後も宜しくお願い致します。こちらでも引き続き調査を行います。何か分かりましたら都度ご連絡させて頂きますので」
そう申し出てくれた木梨さんにウィンドウ越しに頭を下げる。
「よろしくお願いします。では、調査を続けます」
通信終了。
それを合図に今度はクオが先頭に立って人通りの多いこの通りを北に進み始めた。
エストブールは王国中部の交通の要衝だ。
そしてそうたらしめているのが、この町の中心にある大きな十字路――というか、この町自体十字路の周りに宿屋や各種施設が集まってきて出来たような町だ。
環状街道が全て集まってくる結節点であるこの町は、必然プレーヤーもNPCも多く訪れ、そうした客を当て込んだ各種施設も複数存在する。十字路から東に進めばすぐに到着するワイガとは大違いだ。
そしてそのごった返す中央の十字路に辿り着いた俺達は、周囲の雑踏に飲み込まれないよう、道の端で集まって再度確認を行う。
「よし、じゃあここから北がクオだな。よろしく頼む」
「了解しました――」
間髪入れずにそう返してから、彼女は正面にそびえ立つ巨大な鐘楼を見上げる。
セランティア城にあった同じものよりも新しいだろうその白亜の鐘楼は、高さこそ大した高さではないものの、この町のシンボルとして存在している。
「終了時はあそこの下でいかがですか?」
「よし。そうしよう」
十字路の真ん中に建てられたそれを利用し、十字路に進入する際は、馬車は全て右折のみと定められ、これによってごった返す十字路をロータリー化しある程度交通渋滞を解消する役目を担わされているそうだ。
その中心となる鐘楼は周囲を植え込みで囲まれており、一階部分は吹き抜けになっていて、ぽつぽつと人の姿が見える。
「では、私はこれで」
「よろしくお願いしますね。クオ」
ロータリーの流れに乗って、器用に人混みを縫って進んでいくクオ。俺達から彼女が見えなくなるのにそう時間はかからなかった。
「それじゃあ、私達も始めましょう」
「ああ。まずは――」
イオの声に答えながら、首を後ろに捻る。
最初の目的地は冒険者ギルド。場所は――今立っている場所の真後ろ。
喫茶店のようにカラカラ音を立てる扉をくぐり、ケーニスの時と同様に聞き込み開始。
イオがファントムとギュンターの出で立ちをウィンドウに映して見せ、俺が聞き込みをする役回り。
ギルドの受付――見たことない。
ついでに尋ねた、ここ最近誰かを監視している組織或いは頻繁にどこかに連絡を出している者はいないか――思い当たる者はいない。
ギルドを後にして次へ。鐘楼より南には宿屋が三軒と鍛冶屋が一軒。
だが結果は外れだ。
宿屋『陽気な狩人』亭――どちらも初めて見る顔。連絡は誰もがしているから一々覚えていない。
宿屋『金色のキツネ』亭――どちらの質問も似たような反応。
宿屋『踊る野良猫』亭――全く同じ。
併設されている酒場にいる商人にも聞いてみたが同じような答え。
鍛冶屋の親父――ファン……誰だって?以下同文。
「ここではない……という事ですかね」
背後から規則的に聞こえてくるハンマーの音から離れるように集合地点に向かいながら、イオがぽつりと呟いた。
「まあ、当たればラッキー程度に考えよう。どの道本命はキーロかスカーフェローだ」
人と人の間をすり抜けて再び十字路へ。
この連中の中にもしかしたら――と思ったが、とても道行くすべての顔をチェックする事は出来ない。
それでも一度は周りを確認し、やはり空振りに終わった事を確かめないと気が済まないのは、自分でも空振りを悔しがっているという事だろうか。
再び戻ってきた十字路。幸い今は馬車が通っていない為、道の横断は簡単だ。
鐘楼の足下、植え込みの前にクオはもう待っていた。
「どうでしたか?そっちは」
「宿屋一軒とアイテム屋一軒、それに酒場二軒をまわったものの、有力な情報なし」
冒険者ギルド、宿屋四軒、鍛冶屋一軒、アイテム屋一軒、酒場二軒。この町でプレーヤーが用を足す施設はすべて空振り。
「そうですか……」
「やっぱり、手分けしてキーロとスカーフェローに当たろうか」
まあ、ここにはいないというのが分かっただけでも良しとしよう。後は情報通りに探っていくしかなさそうだ。
「では、先程の話通り私は北へ、デンチとイオで西へ、ということでよろしいですか?」
クオの目がこちらに向く。
キーロはここより西、砂漠地帯の真ん中にあるオアシスの町。
スカーフェローは北の山脈を越えた先にある大きな港町だ。
どちらもこの十字路のそれぞれの道の先にある。
「よし、それで行こう」
それで決まり。一言で全ては動き出した。
俺とイオは横に並んでクオと向かい合う。クオの方もその意味は理解しているようだ。
先に口を開いたのはクオの方だった。
「それではここで。何かあったらすぐご連絡します」
「ああ。よろしく。ありがとう」
「よろしくお願いしますね」
言葉を交わし、それから笑顔が続く。
「こちらこそ、試験への協力に感謝します。デンチ。そして、これからもよろしく」
微笑と共に差し出された手。
握り返したそれは、確かに温かくて柔らかかった。
俺達は二手に分かれ、それぞれの道を進む。
クオは先程手分けした時と同じく、するすると北側の緩やかな上り坂になっている街道に消えて行った。
一方のこちら。鐘楼から左に折れて西に向かう道は、先程聞き込みに訪れた宿屋『金色のキツネ』亭を越えたあたりから緩やかな下り坂になっている。
それまでは交互に行きかっていた人影も、デフォルメ化された狐の絵が描かれた看板を越えると中心部に向かう方が多くなってくる。
この先にあるのは中央砂漠。
ただただ見渡す限りの砂だけが広がる世界だ。
その茶色とも黄色とも言えないパノラマが町のゲートの向こうに広がっていた。
(つづく)
投稿大変遅くなってしまい申し訳ございません。
次回は本日夜の投稿を予定しております。




