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003 そんな顔で僕をにらまないでくれー。

 僕たちは三年C組にカバンを置いて、始業式のために体育館に集められた。校長先生の長話には、ほとほと疲れる。よくもまあ、毎年、同じ話を繰り返すことができたものだ。校長先生!残念ですけど先生のお話はだれも聞いてませんから。そろそろ、おしまいにしてください。


「・・・、であるからにして我が校は、始業式の後、皆さんがそれぞれが抱いている、今年一年の目標や決意、夢など、大切な思いを自らの口で発表する機会を設けているのです。『学校の屋上から全校生徒に向かって叫ぶ会』は我が東山中学校の伝統行事です。恥ずかしがらずにお大きな声で叫びましょう!」


 しまった、完全に忘れていた。小心者の僕には狂気とも思える伝統行事を忘れるなんて、考えただけでお腹が痛い。額に脂汗がにじみ出る。このまま保健室に消え去りたい。


 去年の僕はこの伝統行事で大失態をやらかしたのだ。極度の緊張が僕を襲った。そして、つい叫んでしまった言葉が『と、トイレに行きたいです』だった。先生方は固まり、生徒たちは大爆笑。思い出すだけで顔から火が出そうだ。


「飯坂くん。去年のキミはかっこよかったです。おかげで、暗くて汚くて臭かった学校中のトイレが改装されたんですから。シャワートイレが完備されている中学校なんて、この辺じゃ東山中だけです。今年の飯坂くんはどんな提案をしてくれるんですかね。楽しみです」


「星崎くん。それは先生方の勘違いから生じた、単なる誤解の産物です。僕に期待しないでください」


「誤解だろうと何だろうと現に学校が快適になったのは事実です。先生方は、飯坂くんが学校のトイレでイジメられているんじゃないかって恐怖したようです。屋上から叫ぶくらいだから県の教育委員会に報告でもされたら大変だと相当あせったらしいですよ。慌てて緊急職員会議を招集した上、イジメの温床であるトイレをきれいにすることを決めたらしいです」


「星崎くん。星崎くんは、何でそんなに先生方の内部事情に詳しいのですか?」


「そりゃー、まあ。去年の春過ぎまでは新任の川村ゆり先生とお付き合いをしていましたから。あっ、もう別れましたけど」


 恐ろしいことをサラリと言ってのける。中学生ですよ、僕たち。僕の中の星崎くんの危険度ランクは一気に上昇した。女子と男子が別々に集められていて助かった。こんな話は工藤美菜くどう みなさんにも、高宮恵華たかみや けいかさんにも絶対に聞かれたくない。


「星崎くん。そういう秘め事はあまり言って回らない方が・・・」


「親友の飯坂くんにしか話しませんよ」


「あのー。言いにくいのですが僕たち何時から親友になったのですか」


「キミが学園のアイドル、高宮恵華さんとお知り合いだと分かった時点からです」


「やはり、そうでしたか。なら、僕が高宮さんと大したお知り合いでなかったら、親友モードは解除してもらえますか」


「たぶん無理です」


「はいっ?」


「今に分かります」


 星崎くんは僕を不安に陥れる。彼の爽やかな笑顔の奥に隠された悪魔の顔が見えたような気がする。恐ろしい。僕がいったい何をしたと言うのだ。


 そうこうしている内に女子は体育館を出て、屋上へと向かった。僕たち男子はグラウンドに並ばされる。こうして、恐怖の『学校の屋上から全校生徒に向かって叫ぶ会』なるものが始まった。


『私は清凛女子学園に合格します!』


『私の夢は看護師です!』


『わっ、私はかわいいお嫁さんになりたいでーす!』


『私は高跳びで県大会を目指すぞー!』


『ボクは向島まで泳いで渡りまーす!』


『私は大食い女王になりてー!』


『高くん聞いている。私は絶対、高くんと同じ高校に行くよー!』


『金松堂のいちご大福、百個食べてーぞ!』


『今年こそダイエットするぞー!』


 東山中学校の屋上から女子たちが代わる代わる叫んだ。その度に拍手やブーイング、応援のメッセージやヤジが男子たちから飛んだ。


 あっ、美菜さんの番だ。屋上に立つ美菜さん。黒くてきれいな髪が風になびいている。やっぱり美しい。心臓がドキドキする。美菜さんは少し戸惑ってから恥ずかしそうに声を上げた。


『しっ、身長の伸びが止まりますように!』


 どっと笑いが巻き起こる。・・・。美菜さん!切実な思いはわかりますが、神社じゃないんですよ。でも、猫背で訴えるそんな美菜さんが愛おしくて、僕は好きで好きでたまらない。


「飯坂くん。キミ、工藤美菜さんが好きなんですか?」


 星崎匠真が声をかけてくる。ぐっ。しまった。一番知られたくないヤツに、ふぬけた顔を見られた。星崎くんの洞察力の鋭さを忘れていた。


「そっ、そんなことないですよ。やだなー。星崎くん」


 取り繕うとするほど、返答がしどろもどろになってしまう。これじゃあバレバレなのね。顔が熱くてたまらない。どうにか逃げ出す方法はないものか。


「いいんじゃないかな。凸凹コンビだけとお似合いだと思うよ。工藤さんって地味だけど、けっこう可愛いし」


 くそっ。余裕の上から目線で簡単に言うんじゃない。そりゃー、星崎くんみたいにイケメンでスポーツ万能、勉強もトップレベル、おまけに背が高ければ、女の子なんて引く手数多て あまたかも知れないけど。第一、その美菜さんが好きなのはお前なんだよ。あーもう、殺してやりたい。


飯坂洋太いいさか ようたくーん』


 屋上から、誰かが僕の名前をフルネームで呼んだ。上を見上げると、学園のアイドル、高宮恵華さんが僕の方を見下ろして手を振っていた。そして彼女は全校生徒の前で叫んだ。


『私は飯坂洋太くんの彼女になりたいでーす!』


 えっ、ええー。何がどうなってんの。意味がわからない!僕を取り囲む男子たちの敵意がむき出しの視線の数々。ど、ど、ど、どうしよう。落ち着けみんな。話せばわかる。こ、こ、これは何かの間違いだ。はたまたジョーク。ほら、聞こえるだろ。彼女の声『うそぴょーん』な、なっ。そうだろ。違う、空耳?聞こえない。やめてくれー。みんな。そんな顔で僕をにらまないでくれー。

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