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この世界は…?

まいった…浅はかだった。

異世界に飛ばされてまぁ何とか情報を集めれば帰れるヒントなど得られると思っていたが、完全にミスった。

この世界では、俺は住む所無し、知り合い無し、無一文無し、無し無しだらけ。


今持ってる持ち物は

・財布(日本屈指の偉人達もこの世界では影響力無し)

・スマホ(当然ながら圏外、電池も半分以下だ…)

・時計(頑丈、防水仕様、だが、この世界の時間の流れとはズレている)

・リュック(以下のものを入れている)

・着替え(仕事服、やや汗臭い)

・チョコレート(勤務中のおやつ、食いかけ。これがライフラインになりそうだ。遭難中か?)

・仕事用筆記用具

・ノート


「うーむ…心細いぞ」

次のイベントに進むキーアイテムも無ければ、やくそうも買えないから


「もう暗くなってきている。

持っているのはチョコだけか…とりあえずこれを食べて腹を持たせるしかないな」


食べ掛けだ。唯一の食料だがもったいぶってもしょうがない。軽快に口に放り込み一口で無くなる。美味しいが、ますます腹が減ってしまった。

人通りはまだ多いがあたりはすっかり夜だ。

あちこちの建物から光が漏れている。

あちらからは大きな笑い声が聞こえる。こちらの世界でいう居酒屋といった所だろう。

そこから食欲を増進させる匂いが漏れて来る。


「腹に背は抱えられない。やるしかないな…」

この世界は突然ながら、自動販売機などない。辺りも暗くなっている。もう少し早く気付くべきだったと思ったが、後の祭りだ。


「下を向〜いて、あ〜るこ〜う♪

小銭を見つけられるように〜♪」


下手くそな替え歌を歌いながら、落ちている小銭を探し始めた。

やれやれ、非常にみっともないが何もしないよりはマシだ。この世界で使える金を手にする為にはまずはこれしかない。仕事もないしな…


「ん?仕事、仕事か!」


この世界でも仕事はアルバイトなどはあるだろう。でないと経済が成り立たない。出来れば今すぐにでも元の世界に帰りたいところだが、情報を得つつ、アルバイトで金銭を稼ぐしかないな。このままでは飢え死にしてしまうし…


「よし!明日は仕事を探してみよう」


この世界での目標が出来た。いや目標とは言えないかも知れないが、何も目的を持たず、模索するよりは何か明確な行動理由があった方が動き易い。

そうするうちに、ゴミ置場の近くに、古びたコインを見つけた。


「やったー!見つけたぜ!この世界来て初めてのトレジャーハント!」


ダンジョン奥深く潜って、一番レアな宝箱を見つけた様な気分になった、が、たかがコイン一枚。この世界では10円玉と同じ価値だそうだ。


「2時間以上、必死に探し回って10円か。

いや、この世界で言えば10センドか」


全く労働と報酬がバランス良くない。

ブラック企業もビックリな労働対価だ。

急に疲労感が襲ってきた。そういえば睡眠時間も全然足りていない。


「そろそろ夜も遅くなってきたな、人も少なくなってきた。」


明日の目的は出来た。だが、今日はどうする?辺りはすっかり夜だ。


「泊まる所もないし、こりゃあ今夜は野宿になるかな…」


異世界に飛ばされての初夜がワイルドな野宿である。見ず知らずの民家に入り、タンスやツボを図々しく調べるわけにもいかず、宿屋に行こうにもこの世界に使える通貨がない。


「この夜じゃ、外のモンスターを倒そうにも強くなってそうだし」


最近のゲームでは朝と夜が設定されてあり、夜には強いモンスターが出現する様になるのが鉄板である。


「ていうか、そもそもモンスターなんかいるのか?いや、いるか。ここの住人みんなモンスターみたいなものだし、それは失礼か…」


どうするかな…とにかく今日の宿泊場所を探さないと。こんな人通りの激しいところでは横になれないし、このあたりは治安が悪そうだからあまり変な所には居られない。


現実世界を当てはめていく…


「そうだ!公園だ!」


公園っぽいところを探してそこを宿にしよう。ブランコなどの遊具は無さそうだし、屋根付きのトイレなどの建物は期待できないがここよりマシだろう。


道端の人に近くに公園がないかと尋ね、教えてもらった道順通りに向かった。


公園に着いた。遊具などは無く、殆ど整備されていない原っぱだったが、何とか横にはなれそうだ。

「まいったな。完全に無一文のホームレスだ。そのままじゃ元の世界に戻る前に、この世界で生き伸びるのが難関だ」


呟きながら、空を見上げる。

沙羅はいま何をしているだろう。時間の進み方は現実世界と一緒なのか?心配しているだろうな。時間を無駄には出来ない状況だ。打開策を早く見つけなければ…

とにかくこの世界で通用する貨幣を手に入れないといけない。元の世界に戻る前にこの世界で生き残れないと話しにならなくなってしまう。

ユウキは星空を見上げながら色々考えた。この星の中の一つに地球はあるのだろうか?それとも別の次元の世界に飛ばされてしまったのか?さっきの焼き鳥みたいな食べ物食べたかったな。何の肉だろう。明日のシフト入れそうにないんだが、大丈夫かな。現実世界での事を思っているうちに瞼が重くなってきた。

あれこれと考えているうちに眠りに落ちた。

空腹を忘れ、身体が要求するがままに身を任せ、意識を消失させていった。


…何時間経っただろう。向こうからの騒がしさに気付き、眼を覚ましてしまった。

口論が聞こえる。4人ほどいかにもゴロツキといった身なりの汚い、半獣人が一人の少女を囲んでいる。明らかに仲良しグループがちょっとしたことで、お互い躍起になっているという感じではない。


ユウキは眼を擦りながら、その少女に眼を奪われた。

少女はこの場に相応しくない、高貴な印象と美を醸し出していた。

来ている服も中世王家の御嬢様が、従者と一緒に遠出するから、動き易く、あまり派手過ぎない様に仕立てられたと言ったところだが、それがかえって彼女の魅力を引き立たせる。物凄く綺麗に整ったショートヘアのボブに、暗闇を照らす様な明るく透き通った銀髪。大きな青い瞳の上には意志の強そうな眉毛が、囲んでいる半獣人を睨んでいる。対面するゴロツキとは怒れるマリア様と田舎の農民と言ったところである。


「あなた達、アレクサンドロス10番街の労働者がお父様のロスフェラー商会を襲ったと言う事は調べがついているのよ。何か心当たりがあるなら白状しなさい?」


4人に囲まれているのにもかかわらず、高圧的に話す。


「へっ!知らねぇな。そんな2番街の方になんて俺らには用は無いからな!」


リーダー格が返答する。


「あんた達、さすが10番街労働者、頭悪いわね。何故数ある商会の中から2番街の商会であるの知ってるの?完全にクロだわね…10番街労働ギルドに連行するわ。大人しく言うこと聞きなさい。」


可憐な少女が悪人4人をしょっぴくつもりだ。客観的に見ると、大の大人達が子供のおままごとに付き合わされているようだ。

この世界に来て、トラブル続きでクタクタだが、正義感が身体を動かす。

一人の可憐な少女を凶悪な獣人どもが蹂躙していくのはユウキはとても静観する事は出来ない。立ち上がり、駆けつけていくその時だった。


「…仕方ないわね、それじゃ強制的に大人しくなってもらいましょうか。

全員、凍りなさい。アイスストーム!」


少女の周りが青白く閃光した矢先、竜巻の様に強風が発生した。大きく取り巻いている竜巻は一つ一つ小さい宝石の様なものが光っている。その風は骨に染みるほど冷たい。良く目を凝らすと一つ一つの粒は氷になっている。名前の通り、冷気系の魔法だ。言葉で喋った事が物質化している。これってアルルだけの魔法じゃ無かったんだと、ユウキは昔やっていた対戦パズルゲームのセリフを思い出していた。



少女は容赦なく追い討ちをかける様に問い詰めている。


「さぁ、白状しなさい。このまま凍らせてしょっぴいていくわよ。」


「わ、分かった…全部話すから魔法を解いてくれ…」


「正直に話しなさいよ?」


少女が片手を振りかざす。あたりの青い光がすーっと消えて行き、暗い街灯が照らす元の空間に戻った。


「真相を知ってる仲間がいる、そいつを呼び出すから少し待ってくれるか?」


リーダー格の半獣人がそう、懇願する。魔法の威力を知ってからか、先程の高圧的な態度は無く、媚びへつらっている。それもそのはず、一番苦手な〝寒さ〟で攻撃されたらたまったものではない。何人かを使いに行かせ、その真相を知る仲間を呼んでくるそうだ。その間に半獣人が少女にぺこぺこしている。


「こりゃあ、助けなんていらないな。」

成り行きを見ていたユウキはそう呟くと空腹を思い出したかの様に腹を抱えながら、横になった。他人の心配をしている場合ではない。我が身の心配をしなければ…


…しばらくした後、あたりがざわざわしてきたと思いきや、先程の半獣人が沢山、公園に集まってきた。

30人程いるだろうか。多くの半獣人で少女は取り囲まれてしまう。


「? 一人じゃないの?こんなに仲間を呼んで何のつもり?」


少女はそう問いかける。


リーダー格の半獣人は態度を豹変させ、最初の高圧的な態度に戻った。


「ふはは!これだけに囲まれたら、得意の魔法で一掃することは出来ないだろう!捕まえて二番街のお偉いさん方に身代金でも要求するかな!大人しくしな。」


リーダー格は高らかに笑いながら、仲間達に命じて少女を取り囲んでいく。


「あなた、騙したのね?」

不安と怒りを感情を交えながら少女がそう答える。


「今頃気付きやがったか!遅いぜ、これだけの数だ。話によれば、今日一日ここいらを探ってるらしいな。他のゴロツキ共にも魔法をチラつかせて情報を聞き出していたんだろう?これだけの人数相手に魔力が持つかな?」


取り巻きの半獣人が少女に近づいていく。


「舐められたものね。卑怯者には手加減しないわ。」

少女がそう呟き、少女が両手で杖をかざす。


「お望みとあれば、全員凍らせてあげるわ!」


少女の身体が青白く光り輝く。


大気に満ちる精霊よ、冷気となりて凍てつくせ!アイスエイジ!!」


少女の周りから青い竜巻が発生し、吹雪が広がる。吹雪が次々と半獣人達を飲み込んでいく。周りにいた半獣人達は残る事無く、全身を凍らせていった。

ユウキも氷点下まで下がってるのではないかという気温に身体を震わせていた。

一部始終を遠く見ていたおかげが吹雪に巻き込まれる事無く済んだ。


「…!ハァ!ハァ!ざっと…こんな…ものよ…!」


大量に魔力を消費したせいか少女は肩で大きく息をし、杖にもたれかかっていた。


「…すごい…」


ユウキは呆然と立ち尽くしながら呟いた。

初めて見る魔法だが、ここまで威力があるとは。何よりこの少女の魔力というものはこの大人数を纏めて凍らせる程、あるのにも驚いた。


「…ハァ!ハァ!ハァ!魔力を…使い…過ぎたわ…」


「…ハァ!ハァ!…もう…ダメ…」


少女は杖にもたれかけながら倒れてそうになっている。

ユウキは直ぐに駆けつけた。


「…ハァ!…あっ…」


倒れかけた少女をユウキは受け止めた。


「おいっ!大丈夫かっ!?しっかりしろ!?」


腕の中で少女は、大量の汗をかき、肩で息をしている。ユウキの問いかけに反応しない。

大きな声で何度問いかけても、起きる気配はない…

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