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喫茶アトリ/JACK+ 番外編  作者: sungen
2018年 JACK+番外編
9/24

【新春特別 アンダー番外編】闘う理由


「今夜はカレーだって話だ」「よっしゃ」

たまたま通りかかった速水は、すれ違い様、ダンサー達が会話しているのを聞いた。


速水は目隠し手錠のまま立ち止まった。

ガスマスクに引っ張られたが、また立ち止まる。


献立は運営が勝手に決めるので、地下のダンサー達に決定権は無い。

アンダーに来てまだ二ケ月。速水はまだカレーを食べたことがないが、速水がこの話題に出会うのは二度目だった。

…もしかすると、上位チームや、あちこちの「アンダー」ではちょくちょくカレーが提供されているのかもしれない…。


「おい。止まるな」

ガスマスクが速水を急かす。

速水は丁度、ステージから帰る所だ。

「…チッ」

速水は舌打ちして、歩きながら聞き耳を立てた。


アンダーの食事は、以前は全てアメリカっぽい料理だったが、近頃は別国籍の料理も出る。

後はよく聞き取れなかったが、ダンサー達は、薄いパンをちぎって…早く食いてぇ、とか言っていたので、本格的なインドカレーのようだ。

「…チキンが美味いんだ…」

チキンという単語も聞こえた。

…チキンも入っているらしい。

速水はそれが『カレー』なら、もうとにかく何でもいいから食べたいと思った。


■ ■ ■


「…カレーが食べたい。がっつり、皿に入れて、一気にかきこみたい」

四人部屋に戻り、速水は言った。ホームシックになりそうだ。


速水はテーブルに突っ伏し、端末で献立画面を確認した。

当然、今夜も肉だった。

…もちろん速水は朝にも献立を確認していた。急に変更される訳は無い。


「やっぱり肉か。あー、せめて米が食いたい。茶碗に入ってるヤツ。明日はまたムニエル―?ここの魚は時間経ってて微妙だし、フライはコショウでからいし、オニオンいつも生焼けだし……」

速水は料理の仕方について文句を付けた。


「この際、インドカレーでも何でも良い!カレーが食べたい…!」

昨日も今日も、毎日朝から晩まで肉肉肉肉。芋芋イモ。

実際には朝は軽食だが、速水はそんな気がしている。


「…カレーが食べたい」

結局、そこに行き着く。


「って言ってもな。ウチには来ないだろ?目一杯食えるだけマシだ」

レオンが言った。あまり興味はないらしい。

「私は辛いのは苦手なの」

ベスも言う。

「えー。良いじゃん!俺は食べてみたいな。パンをカレーに?浸すんだろ?」

ノアが言った。

「…結構、流行ってるみたいだし、そのうち来るかも」

速水は言った。


扉がノックされ、夕食が運ばれてきた。

献立通り、肉だった。


「カレーが食べたいな」

いつも通りの夕食を食べつつ、速水は一人ごちた。


■ ■ ■



―翌日の夕食を見て。ついに速水はキレた。


静かに立ち上がり。

「エリックを出せ!!この豚野郎共!!!!」

叫び扉をバンバンと蹴飛ばす。

この献立は三日前と一緒だ。もちろん端末で見て分かっていたが、最近の手抜き感は酷い。

『コレでも食っとけ!この豚野郎共!後はプロテインで補給だ!』と言われているようで。


「やってられるか!!」

速水は思いつく限りの罵声を浴びせた。


「カレーがいい!!!!!」

速水は叫んだ。

エリックが駆けつけてきた。


「エリック、カレー!!!!!」


「は?……カレー?…がどうかしましたか」

エリックが言った。

「…肉に飽きた。これじゃ太るか痩せる」

ここ一日。速水のフォークはあまり進んでいない。

ここ一日、食べたのはライスとパン、サラダのみだ。


エリックは申し訳なさそうな顔をした。

「あ…。…すみません。献立は、専門のスタッフが作るので、分からないんです」

「だよな。そいつに言っとけ。豚の餌はもうゴメンだってな!」

速水は地獄に落ちろと親指で示した。


「おい。ハヤミ、お前食い物に文句つけるなよ。ここで腹一杯食べられるだけでハッピーなんだぞ」

レオンが呆れた様子で正論を言った。速水はレオンをどぎつい目で睨んだ。

「そうだけど!レオン。やっぱりダンサーは体が資本だし。…と言うか、レオンの味覚、変じゃないのか?」

「そんなことは無い。お前が我儘なんだよ。と言うかお前、この前は『シャワーがぬるい!!』とか言ってキレただろ」

「あれは!三十分待って、冷水しか出なかったんだ…!」

速水は椅子に座り、ため息を付いた。


「…ねえ。ハヤミ?ずっと思ってたけど。あなた、ちょっと贅沢すぎじゃない?」

ベスにも言われてしまった。彼女は静かに速水を睨んでいる。かなり怒っているようだ。

「…」

速水は黙り込んだ。

ノアは速水とベス、レオンを順番に見てはらはらしていた。


「、……ゴメン」

速水はうつむいて、仕方なくいつものメニューを食べ始めた。


四人は食事を再開した。


そこで、ふとノアが口を開いた。

「…ねえ、ハヤミ。これってそんなに不味いの?…俺、ハヤミの味覚がわかんない」


「……えっ?」

唐突にい速水はノアをまじまじと見た。


――ん?

と、速水は少しだけ眉を動かした。


「……冷め切らないうちに食べようぜ」

ノアが笑った。


速水は無言で冷めた芋を口に入れて、カチャ、と食器を置く。

芯が残っているが、こってりとした味付けで、スッカリ馴染んだ味だ。まずくは無い。


「……。…そうだな。……確かに、まずくない。旨い」

速水は言った物の、あまり満足はできなかった。


■ ■ ■


「……贅沢か……」

食事後、速水はベットに寝転んで、少し考えてみた。

……大分大人気ない事を言ったと思う。


確かに、食べられるだけで幸せだ。

ノアはさりげなく喧嘩になるのを止めてくれた。

……苦労している分……ノアはとても大人だ。


自分でも、かなり贅沢な方だと思う。

けど、それでも。


――速水はやり方を変える気はない。

今、ここでは。

…もし本当にどうしようもない事なら、あきらめる。

貧困とか、そういうことなら。


けれど外には世界が広がっていて。

ノアを理由にしてはいけないけど…。


「ハァ。隼人の作ったカレーが食べたい…」

「―ってまたハヤト?」

ぼやいた速水は、カーテンの外からノアに言われた。


■ ■ ■


溜息を付きながら、さらに待つ事十日。

…ついにその日が来た。

カレーとナン食べたノアは「…これ…、超うまい!」と絶賛した。

レオンも、ベスも絶賛している。速水も大満足の味だった。

これは噂になるのも頷ける。


エリックが微笑んだ。

「運営の方針が変わるそうで…食事に関しては、順位が上がれば希望も出せるそうですよ」

「!!」

速水はエリックを見た。


アンダー初期、速水達はカレーのために順位を上げたと言っても過言では無い――?


〈おわり〉

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