表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/107

第66話 勤勉さが足りなくていまいちアゲきれない

66


 果樹園を襲った緋蜂(ヒバチ)を駆除した翌日の朝、俺達は次の町へ出発するため金と荷物を回収しにフルクトスの町へと戻ってきた。


 ガストンと一味は一緒について帰ってきたが、他の冒険者達は今日もまだ集落に残っている。

 命は拾ったが稼ぎ無しの大赤字のままでは帰れないということなので、畑の東側で獲り残してきた巣の位置を教えてやった。大きさはそれほどでもなかったから、あの人数で協力すれば危険はないだろう。経験者も多い。


 南門には大勢の人々が並び、順に町へと入っていく。

 服装からして、この行列の多くは近隣の村々からの農民だろう。薪束を背負った者も多く、毛織物や手仕事の売り物と思われる品を積んだ荷車もちらほら見える。


 俺達は列に並ぶところを見つけて走り寄ってきた衛兵に先導され、それらの人々を横目に一足先に門の中へと入ることができた。




「……グルコス商会のノリス様より、お見えになられたらすぐにお連れするように言付かっております。ご同行願えますか?」


 ……この衛兵、列を動かしたり、周りの者とのやりとりを見ても下っ端ではないっぽい。それなりの権限を持ってるということは領主の正規兵だろうに、たかだか商人に対してその物言いなんだな。

 ふと後ろにいるガストンに振り向くと、得意げに胸を張っている。盗人まがいのチンピラ冒険者のくせに衛兵を前にしても堂々としてるのな。別にお前は俺の仲間じゃあないぞ。


 ノリスか……。ガストンの世話になってる商人で、大聖堂の司教様ともベッタリってやつだろ? 昨日の、あの荷車の食料を目いっぱい売りつけてきたのもそいつで間違いないな。


「……あー。商人様? 領主様でなくて?」


「はい」


「……あの。すみませんが旅を急ぎますので、お断りさせていただきます。申し訳ないです」


「えっ! あっ、そんな! 食料組合(ギルド)の大手グルコス商会ですよ!?」


「に、兄さん。マジすか!? 悪い話じゃないすよ!」


 なんだよ。偉い商人様が声をかけてくださったらうまい儲け話だってか? 絶対めんどくさい話だよ。ここじゃあ悪さをしたわけでもないし、極力そういう人には会いたくない。後の予定が詰まってんだ。


「ガストン。悪い、今日のうちには発たないといけないんだ。あ、集落の追加食料もそこの店でいいからついでに伝言で頼むわ。行って伝えといてくれ。じゃあな」


 衛兵なのに商人に使われている男はちょっと泣きそうだが知らん。断られるとは思ってなかったって顔だな。しかしそもそもがおかしいだろ。俺の案内してないで門番の仕事をちゃんとしろよ。

 ガストンに昨夜の宴会で飲み食いした食料の追加代金、大銀貨一枚を渡し、一味にそれぞれ声をかけてさっと別れる。


「早めに町を出たほうがいいかもね」


 クロもそう思うか。同感だ。金に汚そうな司教様とか絶対会いたくない。宿屋で荷物を取ったら隣の町か村への距離と方角はギルドでさっと調べよう。




「おお。あんた達無事だったか?」


「おやぁ! よかったぁ!」


 最初に泊まって荷物を預けた宿屋の一階、酒場の扉を開けると店主と女将さんが出迎えてくれた。


「果樹園に行ってたんだってねぇ? 昨日はその南から、緋蜂の大群がやってくるって話が出てさぁ。一時は町中大騒ぎだったんだけど、あんたらどうもなかったのかい?」


 夫婦そろって心配そうな顔をしていたが、俺達は二人ともケガの一つもなく無事だと伝えると嬉しそうに顔をほころばせた。


 店主達が聞いた話によれば、昨日の昼過ぎに果樹園から獣人の女が修道士の手紙を持ってきた。慌ててた割にはきちんとした文書だったので、正式な緊急の伝令として取り扱われたらしい。

 すぐに領主、大聖堂など町の有力者とギルドへも危機が伝えられ、領主の軍から町の守備隊が大勢南へと走った。この宿屋は町の北のほうにあるので騒ぎ自体は南のそれほどでもなかったが、店の近くの通りを走る領主兵や冒険者の慌ただしさは目に入り、最近では珍しい光景だったとか。


「結局、町の壁までは緋蜂は来なかったらしくてねえ。奴隷の作り話とか見間違いだったんじゃないかって、夜に店に来た兵隊さん達不満たらたらだったんだよお」


「まあ、妄言なんかであんなに大勢の兵士を動かすわけはねえから、実際はかなりヤバかったはずだ。俺らはあんた達の仕業じゃないかと、ぴんと来たがな」


「……ええ、まあ。緋蜂の大群が出たので、果樹園の護衛の人達を手伝いました。数はかなりのモノでしたが、何とか森で食い止めることはできましたよ」


「やっぱりかい! すごいねえ! どうしよう、あたしゃ、そんなお偉い魔法使い様に会うのは初めてだよ。ウチに泊めたってのは自慢話になるね、アンタ!」


「おいおい、よさねえか。小娘じゃあるまいしみっともねえ」


 ふふっ。嬉しそうな奥さんの笑顔は悪い気分じゃない。おや、そういえば娘さんの姿がないな。


「ああ、あいつはカトルの家だ。歩けるようになったんで送ってって世話を焼いてやがる」


「腕もほとんど元通りになったよ! ちゃあんと動く! まったくニーナのせいで他所様の子の腕を切り落とすようなことになったら、あたしらどんな償いをすりゃいいもんか、悩んだよぉ! ほんっとあんたのおかげだ!」


 よかった。見立て通りに熱も下がってくれたか。


「今は二人部屋も空いている。今晩は腕によりをかけてたっぷりもてなすからな」


「……あっ。それなんですが……」


 俺は自分達の旅が急ぎなことと、この二日で緋蜂の巣の駆除依頼を達成して予定の金を稼いだことを話し、今日のうちに東へ出発することを伝える。余計なことは言わなくていいだろう。


「……そうか。残念だ。事情があるなら無理も言えねえ」


「うんっとお礼をしたかったんだけどねぇ」


「エブールへ帰る時には必ずまた来ますよ。連れもここの料理気に入ってたみたいですし」


「そこは妻でしょ。芝居打ったの忘れんじゃないわよ」


 店主夫妻は深く追求することなく、クロのツッコミに笑ってくれた。

 この町でも奴隷を連れてても問題ないのなら、次来た時にはゆっくりちゃんと話をしよう。




 預けてあった荷物を受け取ってギルドへ向かう。今朝は果樹園の獣人達とともに、日の出に起きて動き出したので今も時間的にはまだ朝、さっき鳴ったのは一つの鐘だろう。冒険者ギルドが開くのもその時刻なので混み具合は想像がつく。路地から出たこの通りからして相当の人出だ。


 さっさと金を下ろしておさらばしたいが、女帝蜂(じょていばち)の件が事実と把握されていればそうはいかないだろうな。


「……うわ。うるさいし、(にお)いもひどいわね」


 案の定、ギルドのロビーも受付も人が一杯だった。おい、そんなとこで駄弁ってたら邪魔だ、依頼を受けないんだったらさっさと帰れよ。飛び込みの美味しい仕事でも狙ってんのか。


 人口の多いこのフルクトスの町のギルドがエブールと大きく違うところが、木札級の受付は建物自体が別で他の場所にあるということだ。

 なるほど。いくら立派な建物でも、鉄札より依頼数も冒険者もはるかに多い木札仕事を、同じくここ一ヶ所で捌くのは無理だろうなあ。


 ちなみにここの冒険者ギルドは安息日をしっかり休むらしい。そんなんで昨日のような緊急時は大丈夫なのか? エブールのはやってたぞ。


 衛兵が対応していて静かだった町の入り口と違い、押し合い罵り合いが当たり前のガヤガヤとやかましい行列に並ぶ。


 ……うーむ。朝の混み合う時間は本当に面倒だな。


 昨日の依頼の報告を長々とやってる奴らもいるし、あっちの荷物の出し入れにも複数の職員が対応している。貸倉庫と銀行もあるから、明日が休みだったらこうもなるか。整理券でも配ればいいのに。


 ちょっと期待したが、俺を見つけた職員が慌ててやって来て別室に呼ばれる、ということにはならなかった。

 ……まあ、みんな忙しいだろうし、昨日の今日ですぐ全員に完璧に共有されてるとは限らんわな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ