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第62話 魔法の習得(魔力付与)2

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「よし。クロこっちおいで」


「…………」


「大丈夫だよ姉ちゃん。蜂に刺されないから超ぉ便利だぜ! 坂で荷車を押すのもめっちゃ楽になるんだ!」


 果樹園の護衛である老魔法使いギズモンドさんから教わった魔力付与(まりょくふよ)

 適性の無い者でも他人から魔力を受け取って強化や防護の効果を得られるという優れモノだ。

 人間よりも高い身体能力を持つ獣人のクロがうまく使いこなせば、かなりの戦力アップが見込めるだろう。

 ……単純な接近戦、ドツキ合いなら確実に俺よりも強くなるな。


 爺さんからの座学で何パターンかの詠唱言語はマスターできた。クロに付与するにあたっては、まずはイメージしやすい単純な身体強化から試してみようか。


「――と唱えたら力が強くなるからな? そのつもりで想像してみろ。覚えられるまでは一応毎回説明してやるから」


「う、うん」


『我が魔力によって……その身、の力を増せ』


 クロの右手を取って魔力を流す。様子が観察できるからこうしてるけど、爺さんはネロの背中に手を当てていたな。そっちのほうがいいかもしれん。


 眉間のシワが魔力の流入を物語る。……お、クロの全身に俺の魔力が行き渡る。どうだ?


「…………うん。効いてる。……けど……こんなもん?」


 おや? 流してる魔力量は少なくもないんだけど、前に初めて診察した時よりはしっかり立ててるな。でも、強化も思ったほどできてない? 


「なんと!? いきなり成功するじゃと!? わしが手ほどきした奴らの中じゃ、さっきの説明がすぐに理解できる者も多くはなかったぞ」


 魔力治癒(まりょくちゆ)が使える下地はあるからな。成功はしなかったが、さっき爺さんが俺にかけた魔力の流し方も参考になった。


「……ちぃっ、半月は美味い飯が食えるつもりじゃったがのう」


 いやいや、この果樹園にそんなに長居はできませんからね。

 あと教師の道に進むべきじゃったか、とか言ってますけど教え方も別に上手くはなかったですからね?


 とにかく発動することはわかったので効果のほどを判定してみよう。実験としてクロの全力の右ストレートを、魔力付与無しと筋力五割増しの付与で受け比べる。もちろん受ける自分には身体強化有りだ。




「……俺自身が五割増しに筋力強化する魔力量でも、クロにかけると一割増し……ってところか?」


「ゴチャゴチャやってる時間で二回殴ったほうが早い気がするわ」


 うーん、単純に同じ魔力量で得られる効果は五分の一になんのか……。


 獣人の力が底上げできるんだから悪くはないが、準備にかかる時間と効果時間、消費魔力から考えると物足りない。伸ばすにはこれも要訓練か。


 こんなんばっかりだな! 今俺に宿題どんだけあるんだ? これはクロにも地道に協力してもらわんといかんなあ。


 ……あ。いいこと思いついた。




「よいしょぉっ! はいっ、俺の勝ちっ!」


「…………もう一回よ」


「へへっ! 懐かしいな。ここじゃあノマは小さいしナーサ姉ちゃんは外で遊んでくんないから、こういうのは久しぶりだっ」


 獣人でも子供の成長は人間と大きな違いはないみたいだ。中三女子と小四男子で相撲をとったら、栄養の十分でない男の子ではまず勝てまい。そこをひっくり返すことができるのが魔法の(わざ)だ。


 爺さんに強化してもらったネロは素の状態のクロを見事に圧倒している。


 クロは場数も踏んでるし、俺との模擬戦もやっている。こないだ死にかけたりもしているので動きはズブの素人ではない。しかし身体強化されたネロのスピードとパワーはその上を行っている。

 単純な比較はできないが、感知できる魔力量から判断すれば、俺が試しにクロを強化した時よりもかなり効率がいい。たぶんこれはネロが上手いんだろうな。


 俺の目論見に協力してくれた爺さんは魔力を消耗してへたり込んでいるが、少し休めば大丈夫だろう。


「ほい、ほいっと。ほっ」


「……くっ! ……やっ! とりゃぁっ!」


「!」


 あ。


「……はあっ! ……やった! あたしの勝ちっ!!」


「あーあ。負けちった。クロ姉ちゃんやっぱ強えな。すごいや」


 子供を組み伏せて一矢報いたと喜ぶクロ。途中で魔法が切れたのに言い訳しないで相手を褒めるネロ。

 これどっちが年上かわからんな。


「いやいや、ネロもその齢でならたいしたもんだよ。誰にでもかかるわけじゃない魔法なんだから、爺さんがいりゃあそれも込みでお前の実力だ。なあクロ?」


「…………もお。わかったわよ。魔法はずるいし好きじゃないけど……強くなれるんだったらあたしも頑張って練習するわ」


 ちょっと白々しかったか。まあ負けてる時の目は本気だったけどな。


「……今度またどんな無茶を命令されるかもわかんないしね」


 ネロによると慣れれば魔力の不快感はなくなるらしいから、練習して会得すればいいことずくめだ。強化に回復、防寒と色々と冒険者の仕事は楽になる。

 まあ、とりあえず今必要なのは蜂に刺されない防護効果だ。


「ふむ。そうじゃな。まあ小刀(ナイフ)の刃先を押し付けても、刺さらん程度であれば……ほとんどの緋蜂(ヒバチ)の針は防げるじゃろ」


 ……ほとんどってことはそうじゃないのもいるってことだよな。しかし、まずは一歩ずつだ。さっき習った蜂用の防護付与を試してみよう。最初は弱めだ。


『我が魔力によって、その身の……強靭さ、を増せ。針による……刺突、はお前を穿(うが)つことはない』


 詠唱は長くなるが、効果を限定することにより必要魔力量を抑えることができ、イメージしやすくなるので受け手の制御は比較的簡単になるらしい。

 魔力が十分に身体に馴染んだことを確認したクロは、自分のナイフを抜いて手の甲に突き立てる。


「…………へぇ。……面白いわね。刺さらないわこれ」


 おい、調子に乗るな。体重かけ過ぎると刺さるかもしれないし、横に刃を引くとたぶん斬れるからな。あと面白がってないで刺さらないとイメージしてろよ。効果が落ちるだろうが。


「あ。切れた。……こんなに短いんじゃ戦えないわよ?」


「いきなりたくさん魔力を流すと危ないだろう。じゃあお望みの本番用いくぞ」


 今の練習のリラックス状態と、実際の戦闘時に同じ魔力量で同じ効果が得られるとは考えにくい。それも加味した上で、戦闘に耐えうるなら四半刻――三十分程度は切れないように魔力を流さないとな。ほら。


「ひやッ! ……これは、ちょっと、しんどいかも」




 教わった魔力付与による防護魔法は、刺突、斬撃、打撃、耐熱、耐寒。

 クロもある程度要領を得たようで、一応全てが効果を発揮した。しかしイメージがしやすかったのか耐熱耐寒の効果はそこそこなものの、戦闘用の防護魔法のほうはまだまだ性能十分とは言いにくい。

 まあそれでも大量に飛んでくる緋蜂どもの針くらいは防げるはずだ。


「…………五つ全部できておるじゃと? この短時間で? ……ありえん」


 後はもう時間のある時に反復練習によって練度を高めていくしかない。


 よし、昼には少し早いが一区切りついたし、ちょうどいい頃合いだろう。手持ちの昼飯を食ったら蜂の巣を取りに行くとしよう。クロも刺される心配がなくなったから昨日より楽になるはずだ。


 しかしその時。


「爺ちゃん! 狼煙(のろし)だ! ニコルさんが呼んでる」


「おっと! いかん。ありゃ緊急用じゃ。二人とも一旦集落へ帰るぞ」


 ネロが北西にある集落上空に上がる狼煙を確認する。


 それは護衛であるギズモンドさんを呼び戻すためのもの。果樹園に魔物の襲来を報せるものだった。



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