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第59話 蜂の巣の駆除2

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「同時に行くぞ。合わせてやるから先に撃ってみよ、小僧」


「はい。行きます」


『……右手の魔力よ、盾となって熱を防ぎ、炎の(つぶて)となって飛べ!』


『炎の礫よ、--魔を捉えて焼け!』


 緋蜂(ヒバチ)の警戒範囲を避けて離れている今ここから、木の上の群れまでは直線距離にして約二十五メートル強。魔法攻撃の射程距離としては余裕だ。飛び交う蜂の数も多いので狙いをつけるのも難しくない。複数まとめて焼くことも可能だ。


「長いな。火勢も弱いぞ。そんなものか?」


 むぅ、俺の一発に対してギズモンドさんが放った炎の礫は五発だ。しかも大きい緋蜂から的確に追尾して炭クズと化した。俺の炎は爺さんのよりは弾が大きく複数を巻き込んだものの、焼け落ちた蜂には形がある。


 延焼による山火事が怖いのも確かにあるが、大木が立派過ぎるために(ばち)が当たりそうで火を射掛けるのに躊躇してしまっている。元日本人の性だ。

 しかしそれでも費やした魔力は爺さんのほうが少ないのは気になるな。空気中に礫を発生させて飛ばしているから耐熱魔法も要らんのか。


「ほぉら来たッ! 近いほうがやりやすかろう? 向かってくるのは任せるぞ!」


 攻撃を受けて一気に興奮状態になり、樹上を荒れ狂う赤い嵐の一部がこちらにもやって来る。

 爺さんは引き続き巣の近くの蜂を狙い、ネロは爺さんに近づく蜂を落とす構えを取る。


「こっちも任せなさい。あんたの背中はあたしが守るわ」


 すごい自信だな。張り合うのはいいが、お前も刺されるなよ?

 ……俺もちょっとでも手数を増やすために、策を変えよう。


『右手の魔力よ、水の礫となり、我に仇なす魔を砕け!』


「なんじゃと!?」


 火事を気にして微調整してる余裕は今はない。どうも俺の場合、火力を抑えようとすると弾速も落ちてしまう。

 じゃあ蜂を砕く速度でぶっ放せばいいんだよ! 耐熱魔法もいらんし!


 火に比べると水を作るのは魔力の消費量が大きい。蜂複数を燃やせる礫と、一匹を撃ち砕く水塊じゃあ魔力効率は段違いだがそうも言っていられない。とりあえずあの赤い死の嵐を何とかするのが先だ!






「……なんという魔力の無駄遣いじゃ。しかも一つ二つ刺されたじゃろう、おぬし平気なのか?」


「身体強化をかけてたので針は通ってません。顔に来た時はビビりましたけどね」


 大木の巣から俺達を襲いに飛んでくる緋蜂は、何とか全滅させられたようだ。

 クロとネロが叩き落し、周囲の草むらに無数に散らばっているモノは魔力反応を確認しながらきっちり焼いておく。油断して足を刺されたら目も当てられない。


「あれだけの水を撃ちつつ、身体強化も併用できるじゃと? ……あきれるのう。魔力容量にモノを言わせた、随分な力技じゃな」


「思ってたより危なかったですね。次はもっとうまくやります」


「……けろっとしおって。放出魔力の細かな調節は不得手なのも、そのせいか」


 潰れた蜂のフェロモンに反応し、巣の危機に戻ってくる兵隊蜂の数も落ち着いたようだ。さすがのクロも後方から不意を突かれて挟み撃ちに遭っては、自分の身を守るのが精一杯だった。


「……ごめん」


「気にすんな。余裕がなかった俺も悪い。お前が刺されるほうが大変だからいいんだよ」


 巣のある大木は目印にはわかりやすいので、最悪の場合は爺さんの判断で撤退も考えにあったが、まあ何とか被害ゼロだ。


「クロ姉ちゃんも爺ちゃんに魔法かけてもらえばいいのに」


「そりゃあ無理じゃ。これは誰にでもはかからん」


 ええっ? そうなのか?


 見た目的にはラタ村の神官テオドル様より年嵩(としかさ)に見える果樹園の護衛ギズモンドさん。先ほどの戦闘を見ても、先生の上をいく技術を持つ魔法使いかと思ったが。

 

 魔力というのは、火や風に変えて相手を害するのは簡単だが、そのものを内部的に作用させるのはかなり難しい。魔力持ちであろうとなかろうと、意思ある存在は他者の魔力に対する高い抵抗力を持つのだ。

 命のない物質や意思のない植物なら魔力伝導(まりょくでんどう)による操作は容易いが、人にそれを行使するためには高い制御技術が必要となる。


「小僧と娘であれば……あるいはな。……や、しかし。さっきのザマではなぁ」


「ギズモンドさん。その(わざ)……教えてもらうことはできませんか?」


「…………ふふん。わしの指導料は、高いぞ?」


 いやいや、もしもクロに俺と同じように身体強化が使えるんだったら、手持ちの現金全部でも惜しくはないです。






 陽が落ちた果樹園の畑道を、手に灯した魔力の炎を明かりにして集落へ戻る。


 時間がかかった分、鹿や兎、野鳥など獲れた獲物も大量だ。複数回収した緋蜂の巣とも合わせて荷物は多い。一台では載せきれないために往復させられたガストンの部下達は、荷車を引く足取りも重い。肉の解体処理もやらせたから、まあ疲れていないワケがないが。


「テメーらしゃんとしやがれ! ひっくり返しでもしたらタダじゃおかねえぞ」


「へ、へい。しっかし、こりゃマジでとんでもねえ稼ぎっすよ」


「煙で(いぶ)さずに取った巣なんざ初めて見ました……」


「しかもこの量。生きた幼虫がどんだけ取れるか想像もつかねえ」


 一般の農家や魔力の弱い冒険者達が緋蜂の巣を取る際には、安全のために小さいうちの巣を狙う。

 活動が低下する暗い時間に近づき、殺虫効果のある薬草や木の皮などを燃やして煙を起こし、兵隊蜂を無力化してから除去する。そのため幼虫も多くが煙で死んでしまい、素材として取引できる量は少なくなってしまうらしい。


「ガストン、俺とクロは集落に泊めてもらって明日も緋蜂退治やるから。今日の巣はこのまま組合(ギルド)へ持って行って処理してもらってくれ。生きてる蜂もまだいるかもしれんから、そのへん間違いなく伝えるんだぞ」


 荷車と一緒に大きい麻袋もいくつか借りられたので、蜂の巣は袋に入れてある。入る大きさにカチ割った時にも何匹か緋蜂が出てきたので、百パーセント安全でもない。

 ……他所者の俺がこんな危険物を闇夜に町に持ち込もうとすれば、門の衛兵からあらぬ疑いをかけられるかもしれない。二、三匹も要人の屋敷に放り込んでやれば大惨事だ。


「了解しやした。商人用の入場門なら組合(ギルド)の素材担当もおりますよ」


「……わかってるだろうけど、俺の名前できっちり届けとけよ? お前らにも少しは分け前やるから、いらんこと考えるんじゃねえぞ」


「も、もちろんっス! 兄さん方を怒らすような真似はしやせん!」




 ほどなく集落へ到着すると、暗がりの中にいくつか火の灯りが見える。

 先に帰って連絡をつけていたネロとともに、果樹園の責任者である修道士ニコルさんが俺達を出迎えてくれているようだ。


「おおぉ! たった今日一日でこれほどの巣を回収していただけるとは! これで我々も魔物に怯えずに畑仕事ができます!」


「明日もう一日駆除を行いたいのですが、今晩この集落の軒下をお借りしても?」


「はい! ネロから聞いております。礼拝堂のほうに部屋を用意させています」


 爺さんによると教会の信者達と獣人達では少し家屋が離れているらしい。


「あー。すまんが、明日の探索の確認があるでな。わしの家に泊める。せっかくの機会、一気に森の巣は減らしておきたいんじゃ」


「む、それは……。んー……、いや。仕方がありませんね。残念です。いろいろとお話をお聞きしたかったのですが」


 ふはは。それがイヤだから爺さんに無理を言ったのだ。


「ええ、それはまたの機会にでも。あと、ついでに自分達の夕食のために森で狩りをしたのですが……この獲物、一部は教会にお譲りします。今日、手伝ってくれた彼らにもかまいませんか?」


 確認すると、果樹園は教会の所有だが危険な森についてはそうでもないらしい。俺達が管理者のニコルさんに許可を取る必要はないが、獣人奴隷達が本分の農作業を離れて狩りに時間をかける事は、農繁期には認められてないとのことだ。


「おお、こんなにもいただけるのですか? 助かります! この時期は忙しくて鹿のような大物は獲っていられませんからね。彼らにも神の恵みを分けていただけるのはありがたいことです」


 懸念していた魔物退治の依頼が予想以上の成果だったことに加え、食料となる肉が手に入ったことも望外の喜びだったようだ。すこぶる機嫌のいいニコルさんは、ネロと爺さんが明日も畑仕事をせずに緋蜂駆除を手伝うことを咎めなかった。

 ……獣人達だけが苦しい生活を強いられているわけではないようだ。


 今日のところは解散となり、集落の荷車を使って巣を町へ運ぶガストン達には、明日の夕方までには返しに来るように指示をした。

 危険な蜂退治には足手まといにしかならんが、荷運びの人足としちゃまあまあだ。終わる頃に来るくらいが都合がいい。


 おっといかん、爺さんに払う授業料も積んで来させないとな。


「ではギズモンドさん、お客様のおもてなしをお願いいたします。獣人達にも協力させてください」


「わかっとる。わし一人じゃ無理じゃ」


 夕食に大量の獲物を獲ったことは、ネロから集落の他の獣人達にも伝わっているようだ。ニコルさんの許可次第だったが、調理の準備はしているらしい。


 しかし……五人とウチので六人か。荷車一つ程度じゃ足りるわけがねえな。



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