第49話 そして東方領域へ
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「……ご苦労だった。次からは呼び出される前に報告に来るんだぞ?」
「すみません……何分初めてなもので。クレールさん申し訳ないです。長々と全部まとめていただいて」
「こ、これが初仕事の報告……。桁が……」
「あっはっはっは! 何だこれ!? 真面目に書面になってるとウケるな! 三百はやっぱ盛りすぎだろ。ふはは! 俺の名前も載ってるし!」
代筆するギルド受付嬢クレールさんの書類を覗き込んで爆笑するエリックさん。そんなのが公文書として認められるのだろうか?
「一応、森に調査に入ってすでに裏は取ってある。止むを得ない状況だっただろうから大量の小鬼族の死体放置は不問にするが、あの森はしばらくの間注意が必要だ。……素材が取れるようになると喜ぶ奴らもいるがな」
ここは冒険者ギルドのトップの執務室だ。慣れてないからか領主館よりこっちのほうが妙に緊張する。
クロは当然同行を嫌がったが、一緒に領内で仕事をしたためギルド長への面通しは拒否できなかった。全く知らない人が二人もいるので完全に黙っている。
「うむ。獣人にしてはちょっと覇気が足りんが、エリックの言う通り素行にも問題はないようだ。おい、あれに今日の日付を入れてやってくれ」
ほどなくクロ用の鉄札の登録証を受け取る。
ちなみに鉄札の上はすぐに銀札らしいが、複数年の経験と相応しい人格、識見、貴顕の推薦が必要らしくそうそう一足飛びにもらえる物ではないらしい。持ってるとギルド長のように引退後に役職をもらうのに有利だとか。……どこも人間社会はコネ社会だな。
銀札の上は金札。こっちはさらにもらえなくて、言うなれば国民栄誉賞みたいなもんらしい。等級分け少なくないですかと聞いたら、昔はもっと刻んでいたらしいが管理側がクソ面倒臭いので簡潔になったそうだ。
「よかったなクロ。それがありゃ、店屋の扱いももうちっとマシになるぜ」
そうだな。奴隷環で押さえつけられてるだけじゃなくてギルド相手に取引してるってことだからな。話を通してくれたエリックさんに感謝だ。
「で、レイノルドよ。ここを離れるのか?」
「はい。コイツを心配してる人がいると思いますので。領主様の……部下の方から情報も得ました」
俺が口ごもったのを見て、ギルド長はクレールさんを退室させた。
「……かの腕利きの護衛のことは俺も知っている。立場上色々とな。ここだけの話だが、あいつが素性をひた隠しにしているのは……この町の獣人感情が良くないという理由だけじゃあない」
「……あッ! ひょっとして伯爵領に出るという奴隷商人を狙った盗賊か! 獣人の赤子を連れていると確実に襲われて子供のみを奪われるという……」
知っているのかエリックさん。村から出て来たばかりの俺はここより北の情報にはさらに疎い。
「ああ、もう最近じゃこの辺りを通って西へ運ぶような馬鹿はいない。ま、裏付けもない憶測だがな。領地違いでウチに依頼も来ないから深入りするつもりもない。俺も物も言えぬ子供を攫うのはあんまりだと思うしな」
東にある獣人の領域と国境を接しているため、大きな戦にはならなくとも小競り合いや奴隷の奪い合いが続き、紛争が絶えないという東方領域。返って戦地からは遥か遠く、海に面した平和で豊かな西方領域。
大戦が終わって三十年余り経つ今でも、この国は東に行くほど民衆の対獣人感情は良くないらしい。しかし離れている分、逆に西方では労働力や戦力として有用な獣人奴隷は人気があるのだとか。
「……坊主が向かうという獣人の郷は地図で言うとこの辺りです。もっとも郷自体はすでに人間に焼き討ちにされて全滅してるらしいですがね」
「……! ゴズフレズ侯爵領との国境じゃねえか……! レイノルド、悪いことは言わん。遠回りになっても迂回するんだ。クロを連れてここを通るのはマズい」
「経路はこれから考えますよ。もう無いのだったら急ぐ旅でもないです。探すのは郷長ですから」
おいいいい。マジか。情勢を考えたら近隣全部が鉄火場だろうとは思うけど。
まあ避けて通れば向こうから絡んでくる理由はないだろう。触らぬ神に祟り無しだ。細かくは道中で情報を拾いながら行けばいい。東へ近づけばここより噂もあるだろう。
「それがいい。ここは今でも獣人とやり合っている最前線だ。奴隷でもどうなるかわからん。気をつけろよ」
「……。クロ、坊主、残念だが俺はついていってやれねえ。オルビアの修行も途中だからな。発つ前にはエルミラ様の家も訪ねちゃくれねえか? 本人も一度は礼を言いたいってよ」
ああ。見舞いには行かないとだな。……あれだけ断ればもうエルミラさんも無理は言わないだろう。
「そうですね。もう一回エルミラさんにも挨拶をします。後、サイモンさんの店でエリックさんとの約束も果たさないと。剣一本ぐらいでは礼には到底足りませんが、あなたにもたくさん助けていただきました。ありがとうございました」
終わってみればタイミングは全部ギリギリだった。エリックさんがいなかったら事態は最悪の方向に転がっていただろう。
「よせよせ。お互い様だ。しかし剣のことを忘れてなかったのは嬉しいな。この後行こうぜ。もうすでにモノの目星はつけてあるんだ」
ふふふ。やれやれだな。それこそお互いウィルク様から報酬はたんまりもらっているのに。もうリサイクルじゃなくて上等の装備を買い換えられるだろうに。
「……あんた知恵が回るのにバカなのね」
あん? クロお前、俺に対してと周りとで何か喋り方違わねえか?
体調も完全に回復したようだし、二人で旅を続けるに当たってちょっとお前とは話し合うことが色々とあるな。それにお前も冒険者の資格取ったんなら食費は少しくらい協力しろよ?
「飯は食わせるって約束」
この野郎、無駄に物覚えがいいのな。生意気な上に賢いかよ!
こうして俺は最初の町エブールで一人目の仲間を見つけ、多くの味方と協力して領地に訪れた魔物の脅威を打ち払った。
……飯は大量に食うし、連れ歩くには周囲に気を使う面倒な大型犬のようなヤツだが、預かっている間は飼い主の責任は果たさねばなるまい。
これにて第一章完結です。章毎にヒロインを出していくつもりでしたがメインに全力を注ぎ過ぎて世界観と方向性が完全に彼女ありきになってしまいました。他のヒロインの霊圧が……。
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