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第36話 廃鉱山への道

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「……全部で二十三、か。(オス)の戦士ばかりだな。もう近くにはいねえんだよな?」


「はい。村の廃屋は全てクロと確認して回りましたが、こいつら以外はいません。周囲の魔力反応も無しです」


「……はーぁ。終わったかと思ったのになぁ」


「…………不味(マズ)いな」


 エリックさんのつぶやきには同感だ。ここにそれなりの数の(メス)や年寄り、子供が餓死でもしていればとりあえず任務はおしまいだった。

 そこそこの群れを発見して討伐完了。町に戻って状況を報告、いるかもしれない残党狩りはギルドと別の冒険者に任せることもできた。


 現状を見るにここ東の廃村は確実に巣ではない。別の場所に、まとまった数の、かなりのゴブリンがいる。そして季節は冬。となると……もうこれは峡谷の廃鉱山しかないだろう。


 もともと小さな村だったようだがさらに打ち捨てられて時が経っているため、使えるような建物は少ない。しかし広場の北には村の大きさに不釣り合いな館があり、これらのゴブリン達はそこをねぐらにしていたようだ。部屋数が多く、造りも他に比べてしっかりしているので当時の領主か、この村で利益を見込んだ商人に関係するものだろう。


「エリックさん。この村には食べる物がほとんどありません。あの建物にあったのもわずかな獣肉と残骸、食えるかどうかわからないような色の(キノコ)くらいです」


「うぇ。いくらお腹が空いてても小鬼族(ゴブリン)の餌は遠慮するわ……」


「……不味いが、だからこそ居場所を確認せずに引き返すわけにはいかねえ」


「ですね。廃鉱山がどんな場所で、どれくらいの数がいるのか。確認にだけ、行ってみますか。……たぶんまだ昼くらいですし、辿り着けずに陽が落ちても最悪ここまで戻れれば廃屋で野営することもできます」


 テントや鍋、食糧、着替えなどの荷物は森の手前の拠点に置いてきた。今持っているのは武器防具の装備とわずかな薬、三日程度の腰兵糧(こしびょうろう)だけだ。

 村なら水も近くにあるだろうし、状態は確認してないが井戸らしき物もあった。地下に水脈があるなら井戸が使えなくても魔法で地面を掘れば何とかなる。


「……規模のでかい巣となると、守りはこの程度じゃあねえぞ坊主」


「はい。でもその巣の防備を見ておかないと打開策も立てられません」


 今度こそ警戒もしてるだろう。しかし持ち帰るなら情報は詳細なほど役に立つ。


「わかった。坊主の言うことは間違ってねえ。新人を連れてくるにはとんでもない仕事になっちまったが、まあ見つかったとしてもお前らなら死にはしないだろう」


「全力で逃げるなら、一番ヤバいのはエリック」


 そうだな。退路がないわけじゃないから、獣人娘のクロの脚力はゴブリンどころじゃないし、俺だって試したことはないがフルマラソンくらいなら全力疾走できると思う。ま、荷物を諦めればおっさんを担いででもそこそこイケるだろう。


「はっはっは。その時はそれで頼むわ。命が拾えるなら十分だ」


 方針が決まればグズグズはしていられない。この二十を超える武装したゴブリンが戻らない、連絡がつかないことが巣に知られるのは時間の問題だろう。


 討伐証明として換金する右耳は切り取って回収し、死体は焼却。さらにもしも別のゴブリンが村へやってきたとしてもすぐには俺達の存在がバレないように、奴らの装備も戦闘の痕跡もできるだけ魔法で処理して片付ける。それらを済ませてから急いで東へと移動を開始した。




 森の中を三人が進む。村を離れれば再び暗く薄気味の悪い森が広がるが、足取りは軽い。廃村から東はゴブリンどもが道の手入れをしていたようだ。廃鉱山に巣があるのならこの道はそこまで繋がっていると考えて問題ないだろう。

 人間の作った街道のような丁寧な仕事ではないが、十分な広さがあって岩や草木の取り払われた道の歩きやすさはそれまでと全く違う。


 これなら迷うこともなさそうだし、かなりの速さで目的の廃鉱山へ辿り着くことができるだろう。


「しかし、結果は無傷の楽勝だったが、初めて坊主の新人らしいとこが見えたな」


 あ。スルーしてもらえるかと思ったが、さっきの反省会やるのね。


「すっごいびびってた。あたしは小鬼族(ゴブリン)よりそっちにびっくりした」


 コイツは落ち着いてたなあ。予想以上にメンタル強え。見直したわ。(とし)はそんなに違わないんだろうけど、踏んできた場数は俺よりも上ってことか。


「ちょっと数と武装に圧倒されましたね。魔力も必要以上に消耗したと思います」


「坊主の魔力量なら大したことじゃないのかもしれんが、それに甘えてたらこの先大変だと思うぞ? もっと手強い魔物もゴマンといるぜ。弱い敵でも数が多けりゃ長引くし、休む暇がないこともある」


 完全にエリックさんの言う通りだ。現に今も状況は継続している。この後も最悪の事態を想定すれば、先程の戦いは無駄が多すぎだ。もしも魔力切れなんてことになれば、逃げるどころか立つこともできなくなる。


「いい経験になりましたよ。二人とも助かりました。ありがとうございました」


「役に立ったってんなら働きには(むく)いてくれるわよね?」


「まだ終わってないからな? 無事に町に帰れたらだぞ」


「……やっぱり獣人は敵に回しちゃならねえなぁ。そんな短い小刀(ナイフ)で何匹狩ったんだ?」


「レノよりは多い。盾があるとラク。矢も怖くない」


 おっさんとクロもお互いの戦いぶりを振り返る。そう言えばおっさんに対しても口数が増えているな。

 さっきの戦闘時もうまく役割分担ができていたし、いいチームになってき、た。


 ……。


 来た。違和感なんて甘いことはもう言わない。……しかし。


「レノ? あっ」


「しっ。集中してるぜ」


「…………感知に引っかかる魔力反応は多数です」


 この道の状態。そして村で行われていた作業は。


「もう鉱山へ着くの? 思ったより近いのね」


「よし、すでに大勢いるだろうことはわかってんだ。道の状態もわかったし、地形や群れの状況を確認したら手を出さずに帰るぞ。こいつは領主様の案件だ。兵士も組合(ギルド)も総動員だよ。たった三人でやりあえるかよ」


「いえ……こちらへ近づいてきてます。数は百以上」



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