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第34話 ↓南の村から→東の廃村へ

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 領主様から依頼されたゴブリンの巣の探索のため、俺達はエブール領の東にあるという廃鉱山を目指すことにした。

 現段階では調査目的なのと、獣人事情がややこしいのでチームの人数は今の三人で良しとする。無茶をしなければ戦力的には不足はないだろう。


 昨日の昼、サイモンさんから仕上がった装備を受け取ってすぐにエブールの町を南へ出発し、順調に街道沿いのタブの村で一泊。

 事態の一刻も早い収拾を望む村長らの積極的な協力により、食糧などこの先の旅に必要な物は夜の内に用意してもらえたので、早朝からさらに東へ向かっている。


 タブ村に詰めていた領主様の兵士達とは、現状の情報共有も行った。三日前にも街道で顔を合わせたその兵士によると、村ではまだゴブリンを見た者は一人もいないらしい。村の自警団とも何度か周辺の警邏(けいら)に出たが、遭遇はおろか痕跡も見つかっていないとのことだ。


 ちなみに今タブ村に滞在している兵士は四人。ゴブリンの十や二十なら心配ないとエリックさんが言う。

 それを聞いた俺は、自分達三人のチームが領主ウィルク様の依頼で探索に動いていることを伝え、もしもの時には救援をお願いした。

 ……エルミラさんとの私的なコネも匂わせておいたので出来る限りのことはしてもらえるだろう。


 兵士達が不思議そうな顔をしていたので後でエリックさんに聞いてみたら、腕に自信のある冒険者にとっては領主兵というのは商売敵になるらしい。嫌味や喧嘩は当たり前で、ヤバそうなので助けてくださいなどと頼む奴はいないとのことだ。


 まあ、あの人達には舐められるかもしれんが俺のプライドなんてモノに物理的な防御力はない。死んだら終わりのこの商売、生き延びるためには安いものだ。


 兵士達にも細かく伝えた予定の通り、今はまず鉱山との中継地となっていた廃村を目的地に移動中だ。

 旅の冒険者などがごく(まれ)に東からタブ村を訪れることがあるらしく、道のようなものはかろうじて残っている。


 まあ道と言っても実際のところ、周囲は草木もまばらな荒れた岩だらけの小高い丘になっているため、比較的歩きやすい窪地(くぼち)をなぞって進んでいるだけだが。

 丘の間を縫うような道のため見通しは良くない。集団が行軍してたら前後に岩を落として火矢を射掛けるにはもってこいな感じだ。……俺に魔力智覚(まりょくちかく)がなかったら魔物を探して歩くのは怖過ぎる。


 ……鉱山の町とその途上にあったと言われる村。坑道は言わずもがな、廃村にも雨露を(しの)ぐ屋根でも残っていれば他所(よそ)から流れ着いたゴブリンが()みつく可能性はある。

 情報源である武具屋のサイモンさんによれば、彼の祖父が若い頃には住んでいた人達が村を捨てて離れたらしい。正確なことは不明だがもう何十年も前だろう。


 その村から東の森を抜けると鉱山のある峡谷前の町へたどり着くとのことだが、人のいない村周辺の環境は変わっているだろう。さすがにもう森の中の道は残っていないよなあ。




「……おい坊主。あいつ大丈夫か? 昨日もほとんど道は歩いてなかったぞ」


「広い所や高い所が好きなんでしょうかね? 一応はぐれないようには言ってありますよ。周囲の警戒も兼ねてますから」


 俺とエリックさんは普通に道を使って移動しているが、クロは一人丘の上を駆けていく。険しい岩場も少々の灌木(かんぼく)もお構いなしだ。

 昨日のエブールからタブへの、平地での移動距離もたぶん俺達の倍近くにはなってるだろう。まあ昼からの半日程度なので特に疲れも見えなかったし、どうも走りたいっぽいので好きにさせている。斥候にもなるし。


 仲間にした時は不安だった体力もこの二日でだいぶ回復しているようだ。あれだけ食って寝てるのだから、そうでなければ困る。


「……しかし全く出くわしませんね。実はこないだやっつけたのが全部で解決してたりしませんか?」


「いや。俺とオルビア以外に襲われた奴らは荷を全て持ち去られている。どこかに巣があるのは間違いねえ」


 そういや被害者は死体も残らなかったと言ってたっけ。


「ねえ。森が見えたけど」


「おわっ!? お前わざとだろ!」


 さっきまで向こうの岩の上にいただろうが。わざわざ気配殺してまで後ろに回り込んでくるなよ。


「クロ。あたりに村は見えねえか? 他に道は?」


「ない。人が歩けそうなところもここくらい」


 高い岩山から周囲を確認したクロの報告を受けてやはり廃村は森の中、もう少し先と判断する。サイモンさんからすでに聞いていた状況なので、昨日の内に立てた計画どおりに行動することになった。






「……よし。日本だったら、地震が怖いからもっと手をかけるんだけど……うん。こんなもんだろ」


 入口を小さくすれば暖かいんだけど火を()くから酸欠が怖いし、出入(ではい)りの利便性も考えないとな。


「おーおー! 上等じゃねえか。ちゃんと下の道からは死角だな。いい感じに目立たねえぞ」


「エリックは驚かないのね……」


「あ。二人ともお帰りなさい。どうでしたか?」


「ああ。タブの村長の話も、クロの鼻も確かだったよ。少し北に行けば小さいが川がある。向こうの岩の間からしばらく(くだ)って行かなきゃならねえけどな。三人分も()んでここまで上がってくるのはちっと仕事だが……水は大丈夫だ」


「クロに頼みましょう。濾過(ろか)煮沸(しゃふつ)は僕がやります。火も要りませんし」


「……。……こっちからは今通ってきた道と森が見えるわ」


 俺達は道から直接森へは入らず、脇に立つそこそこ大きな岩山に登った。登ったと言ってもせいぜい五メートル程度の高さだが。

 そこで適当な平らな場所を見つけて魔法で広さを整え、横穴を掘った。その間に二人は近くにあると聞いていた水場を探しに出ていた。


 荒地の岩山から見下ろす先には枯草の草原とざわめく大きな森が広がっている。高い場所で吹き付ける風はいっそう強く冷たい。見上げると薄曇(うすぐも)りの空は遠く東の山々へと流れていく。


「よぉし。この中なら寒さも全然違うな! ここが拠点だ。さすがだな坊主」


「これなら天幕(テント)いらなかったんじゃないの?」


 自分の目でも周囲の地形を確認したが、この先に廃村があって森からエブール領の街道へ向かうのなら、この道を通る可能性が高いだろう。

 同じ二足歩行でもゴブリンの身体能力は獣人よりも人間に近い。クロのように道なき道を駆け続けることはできない。奴らが道を使うとしたらこの位置なら安全に先手が取れる。

 もしもこの予想が見当違いだったとしても、どちらにせよ俺とエリックさんは道を中心に探索するのが効率的だから拠点は森の手前のここしかない。


「……坊主は小鬼族(ゴブリン)がいたら魔力でわかるんだったよな?」


「近くだけですけどね。とりあえずあの森から出てくる前にはわかると思います」


 ゴブリンの状態にもよるが、全力で集中すればだいたい半径一キロないくらいが今の魔力智覚(まりょくちかく)の射程だ。数や強さの把握は当然距離によって精度が変わる。


「十分広すぎだよ……。冒険者で魔力が見える奴なんて銀札でもほんの一部だぞ。一般人の俺達はふだん索敵も見張りも命がけだからな。この拠点といい、お前らと組んでると確実に身体が(なま)るな」


「……ここ普通に住めるわね。囲炉裏まであるし。あの箱何? お風呂?」


「おいおい。食糧や荷物の保管庫のつもりだよ。密閉できるからフタしとけば虫や獣に食われなくて済むぞ」


 この拠点に大荷物は置いておいて、軽装で森を探索するのだ。保管庫は岩を厚めの板状に削り出して組み合わせているから大きさ的にも浴槽に見えなくもない。

 ……ここでの探索が長引くようなら表に風呂を作ろうか。拠点は三人でギリギリの広さなので当然住めるわけがないが、材料が見つかれば寝台くらいは工夫したいところだ。


「……ホント、坊主は冒険者じゃない仕事の方が成功すると思うぞ」


「あはは。そうかもしれませんね。それでこれからどうします? エリックさん」


「予定は思ったより早く済んだが、さすがにこれから森を探索に入るのは危険だ。廃村行きは明日からにして、晩飯の準備にしよう。万が一があると不味いから全員で行動するぞ?」


「レノ、肉獲ろう! エリックに鍋にしてもらうの!」


「賛成だ。明日のために力つけないとな!」


 おっさんの料理の腕前は上等な酒場並みかそれ以上だった。猪とかやってもらいたいな。このへんには出ないかな?


「……そう言ってもらえるのは嬉しいが、坊主は小鬼族(ゴブリン)が近づいてないか注意しててくれよ? 頼むぞ?」



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