第27話 ギルドで! 依頼を受けて! 働け! 説明!!
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「あ! レイノルドさん! おはようございます。あちらの、一番奥の空いている窓口へどうぞ!」
冒険者ギルドを訪れると、昨日応対してくれたお姉さんが入口に近い受付にいた。俺を見つけてすぐに声をかけてくる。
来客に対応する長いカウンターはいくつかの窓口に分かれており、多くの人で大変な混雑ぶりだ。
昨夜の領主様の話と違って依頼を受ける人が沢山いるじゃないか、とも思ったが裕福ではない身形の者が多く、旅装の人間が少ないことで木札級の冒険者の存在を思い出した。
しかし、俺の想像が間違っていなければこの人達はもう冒険者というモノではないような気がする。
複数の職員が、口々に仕事を求める人だかりの山を捌いている。その中から同僚に断りを入れてお姉さんが窓口を移動する。なるほど、こっちが鉄札の窓口だったな。確か。
「初めてだとびっくりするでしょう? 来てくれてちょっと助かりました。この時間は大変なんです」
昨日もらった木製の登録証を返し、鉄の物を受け取る。やはり紐付きのそれはまんまドッグタグだ。俺の名前の下に町の名前と昨日の日付があり、複雑なギルドの紋章が彫り込まれている。
「失くさないでくださいね? 木札とは別物でそれなりに信用がありますから他人に悪用されますよ。もし登録証を拾ったらすぐに届けてくださいね」
免許証のように顔写真がついているわけじゃないから、俺のことを知らない人間にはコレを持っている奴が鉄札級冒険者のレイノルドということになる。
「今日は……組合長は?」
「……体調不良でお休みです。私、クレールがご説明させていただきます」
「あー。よろしくお伝えください」
お姉さんがちょっとヘコんでしまったが、俺のせいかもしれない。風邪かな?
「……この組合は冒険者の活動を支援しています。冒険者によって運営される冒険者のための同業者組合の一つです。民間の互助組織ですが、成り立ちには王国とも深い関わりがあります」
この辺は村で神官のテオドル様にも習ったところだ。昔、国王の先祖が大陸の過半を版図として国を興した時に、大陸中に散って魔物や敵対勢力の情報収集、戦の後方支援を担う傭兵達がいた。
建国後もそのまま王家の手足となって働き、国の発展に貢献したというその傭兵団。彼らが作ったネットワークが今の冒険者ギルドの母体になっているらしい。
「……えー。その様子ではご存知かとも思いますので、今は要点だけにしましょうか。鉄札以上の冒険者に求められる仕事は主に危険な魔物への対応です。国内の各領地、大きい町には大体ここのように組合がありますので依頼を受けられます」
うん。そうだろう。
「というより、力のある冒険者にはこちらから依頼を振りますので、冒険者組合にはこまめに顔を出してください。町を移動する際には必ず我々に一報をお願いします。逗留先を明らかにして連絡がつくようにしていただけるとなお良いです。これは国内どこの冒険者組合においてもです」
あーね。ゴブリンが大量に湧いたので倒してくれる人を募集! 待ってまーす! なんて悠長なことをやってたら旅人はみんな食われてしまうよね。
やりたくない時は面倒だけど、倒すことのできる奴に仕事が回ってくるのは仕方ないか。
「もちろん組合からの依頼はお願いですので、断っても特に罰則はありません。……冒険者組合はあくまでも互助組織、ですので」
……その言い方は、たぶん断ったらダメなやつですよね。困ってる人を助けない奴は、困った時に助けてもらえないというやつですよね。わかります。
まあできそうにない無茶は言ってこないだろう。あとちゃんとした事情がある時はわかってくれると信じたい。
「その組合からの依頼には課されませんが、ご自分で選んで受ける場合の依頼は、報酬から組合への手数料、領主様への税が引かれます。これは組合や領地によって率がまちまちですので確認してください。エブールでは五分五分の一割になっています」
安い。……のか?
「三月以上依頼を受けなかった場合も、登録証の維持手数料として組合指定の金額をいただきます。この町では、組合が負担している市壁の通行税などに充てられています」
あら。タダというワケではなかったか。それと他所じゃ冒険者登録してあっても通行税を取る町があるってことかな。
というかこのあたりの支払いって、領地とギルド毎の裁量で金額がかなり違うんだろうな。ちょっと考えただけでもいい財源だし。
……助け合うべき冒険者は搾取されてませんかね?
「利点としては、お荷物、現金、あなた宛のお手紙等を一定期間お預かりできます。他の場所への伝令、伝言、輸送は依頼扱いになるので有料です。お預かりしたものは町が戦や魔物の被害に遭う事もございますので、万が一の場合には現金以外は保障できませんのでご了承ください。お金は借りることもできます。商人の高利貸しよりは、かなりお得ですよ」
組合ならではの低金利の貸付といったところかな。銀行業務と無料での貸し倉庫もやってくれる、と。
けど、もし預けたまま魔物にやられちゃったりしたら……
「預かる際の、一定期間というのは?」
「預かった組合で最後にあなたの所在を確認してから最短で五年です。遺言等の特別な依頼が無い場合、期限を過ぎた物品は競売へ、現金は組合へ帰属しますので、町を移動される場合は全て引き上げていただくようお願いします。あ、お荷物はもちろん大きさの限度がありますからね?」
ふむ。無料なら貴重品に関しては、宿なんかで自分で管理するよりはマシかな? 現金は保証してくれるのはありがたいね。でも預けたまま忘れて五年経ってしまったらたぶん取り返せないんだろうな、これ。
……やっぱりギルドが一番儲かってるんじゃないだろうか。
「以上の説明を含む冒険者組合の利用に関する規程はいつでも閲覧が可能です。ご不明な点は窓口でご確認ください」
「……わかりました。やってみながらまた聞きに来ます」
「久しぶりに説明のしがいがありました。ところで、もう一つお話があるのですが……」
来た。断れないやつだ。
「ふふっ。やはりお話が早くて助かります」
お姉さんの話は当然、ゴブリンの群れの調査と討伐の依頼だった。今ギルドに集まっている依頼としては町を移動する商人や旅人の護衛も多いらしいが、昨日の試験で実力を評価された俺には護衛などとんでもないと、討伐の主力扱いだそうだ。
……過度な期待をされてもゴブリンの相手は、数によっては普通に死ねるんですが。一晩明けて冷静に考えると、ヤバイ仕事な気がしてきた。
しかしもうすでに領主様には大見得を切ってドヤ顔をかました後なのでやるしかない。ギルドからの依頼についても受諾し、まずは調査と報告を約束した。
「それではよろしくお願いいたします。がんばってくださいね」
俺が引き受けたことにホッとした様子のお姉さんは、笑顔で最初の人だかりの窓口へ戻っていった。
昼にはまだ時間があったのでホルダンさんの店へ行こうかと考えつつ、受付カウンターの反対側の壁にある依頼の掲示板を確認する。
ちなみに掲示板の上には時計らしきものがあった。初めて目にするが形は前世の物に似ている。六分割に色分けされた円盤に針が一本だけ今の時間を指し示している。たぶん技術的に魔道具だな。
横長の大きな掲示板は三つに区切られていて、左が木札の依頼、右が鉄札の依頼のスペースとなっているようだ。
真ん中には依頼でない、領主からのお触書やギルドの告知、町内の催し、お知らせから店の広告まで貼ってあり、ここが本当の意味の掲示板になっていた。ゴブリンの発生についても注意喚起が掲示されている。
なるほど、鉄札側には商隊、木こり、石工など町を離れて働く者達の護衛の募集が多い。もちろんゴブリンの調査、討伐も貼り出されている。
……へえ、獣肉の買取価格は食料ギルドが出してるんだな。薬草類や素材は職人ギルドが買い取るのか。
反対の木札側は依頼があまり残っていない。荷役、家畜の世話……、まだあるのはキツめの下働きや雑用ばかりだな。
あれだけ人が殺到してるのに残ってるのは報酬が割りに合わないという事か。このへんは職安と同じだなあ。
見てると何かやってみたくなるが、今のところは何よりも指名の依頼遂行が優先だ。妙に持ち上げられてはいるけど、自分はまだ経験のない新人だ。下手を打つと命も危ない。油断せずに準備が必要だ。
うん、まだ時間もある。……エリックさんが来ないうちにホルダンさんとの話を終わらせとこう。もう酒のツマミにはなりたくないし。




