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第107話 人が三人いれば派閥ができる

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 俺とクロが向かうゴズフレズ侯爵領への街道。伯爵領内の山あいにあるその崖道は、魔物討伐の余波で崩落し通行できない状態になっているという。

 交易都市トレドの冒険者ギルドでの侯爵家の情報収集ついでに、それを知った俺は街道の復旧作業の求人依頼を引き受けることにした。


 黙って付き添いをしていただけの女冒険者エミリーさんは嫌なら無理に参加する必要はない。護衛対象の聖女様御一行出発までの余暇を彼女がどのように過ごすかは、リーダーで先生でもあるアキュレイさんの指示次第だ。


 帰り道で俺達二人は浮浪者の群れに襲われたが、突然現れた手練れの冒険者集団によって暴徒は即座に制圧、捕縛された。

 その集団の紅一点、女性冒険者のエレナさんの言によれば、崖道の復旧工事依頼を引き受けた人間に危害を加えるなどして妨害を企てる者がいるという話だ。


 ……うーむ、なんつーかこの世界も、恨みつらみに痴情のもつれ、利害を力づくでどうにかしようという(いさか)いばっかりだな。

 魔物が沸いて獣人魔族までいるような大変な世界なんだから、人間同士くらいは仲良くしろよ……。




「というわけで、通れないみたいだからちょっと先の道で工事手伝ってくる。また迎えに戻ってくるからゆっくり休んどけ。お前、人間と協力してしんどい肉体労働とかやりたくないだろ」


「…………」


 やっぱりクロはまだ調子が戻ってないな。顔つきに元気がない。獣人にとってはアウェイのこの東方領域でストレスMAXな飯場仕事はかわいそうだ。


 トレド城壁内の上層地区、聖女派教会の大聖堂に戻ってきた俺は、エミリーさんの申し出によって同室だったアキュレイさんとの三人部屋は追い出された。

 クロも施療院の病室で看病の必要がない程度には回復し、こいつと二人でこの町に滞在する間の別部屋は貸してもらえたのでまあ想定内だ。


「アキュレイさんが美味いもん食いに連れてってくれるってさ。今なら金の心配もいらないから、たらふく食っちゃ寝してていいぞ」


 師匠が実際にそう言っていたわけではないが、エミリーさんが工事について来るなら確実にそうなるだろう。

 獣人をこの町で連れ歩くなら、ハメを外し過ぎることもあるまい。


「…………」


 ん? 飯の話にも喜ぶどころか、さらに表情が暗くなった気がする。

 そして無言のまま突き出される吸血鬼の魂入りの首飾り。


「お? どこに紛れ込んだかと思ってたらお前が持ってたのか」


 まあ、枕の下だ。鼻も利くし目が覚めたら気がつくか。


 …………あいつまさか余計なこと吹き込んだんじゃないだろうな。


(見くびるでないぞ(たわ)け者! そんな下衆の如き真似はせん! その辺の思慮分別はあるわい! ……お(ぬし)こそ目玉も頭骨(ずこつ)の中身も塵芥(ちりあくた)じゃのぉ。残念な小僧よ)


 うおぅ。そんな怒らんでも。

 俺だってそこまで言われる筋合いはない。クロの性格なんかは把握してるぞ。


「……心配しなくても大丈夫だよ。お前を置いていくわけじゃないから。金も荷物もトラヴィスさんに預けていく。その首飾りも、土木作業なんかに着けていけない大事な物だから持っていてくれ。中身の吸血鬼の女も悪さはしないでお前のことも護ってくれるってさ」


「…………」


「――左様。(わらわ)も人狼を部下に従えた身。そなたのこの群れにおいては新参であることも弁えておるつもりじゃ。……ましてや同じ女同士よ。仲良うしてたもれ?」


 あっ。こいつ喋った。


「…………わかったわ」


 あっ。返事した。


「ま、まあ、暇潰しの話し相手にもなるだろ。無くさないように大事に着けといてくれな?」


 …………あれ。これ持たせておくのは違う意味でマズいんじゃあないか?






 翌日。いくらか機嫌のマシになったように見えるクロにシグさんを任せ――いつの間にかどっちをどっちに任せているのか曖昧になってはいるが――再びエミリーさんと町へ買い物に出かけた。


 仕事は崩れた崖道を直す土木作業であり、ある程度必要なモノは拠点の村で揃うとのこと。だがそれを鵜呑みにして頼りきり、行った先の現場でコレがないアレが欲しい、話が違うぞ、なんてのは最も避けたい愚行だ。

 移動はギルドが手配した足の速い馬車らしいから、少々の荷物は用意していってもそれほど負担にはならない。崖崩れの原因が魔物でもあるから、あらゆる事態を想定した備えが必要だろう。


「……ふう。こんなに仕事の準備が捗るなんていつぶりかしら。……あんたなんかと意見が合うとわね。先生って、だいたいのことは叩き斬って解決できちゃうから色々と雑なのよねー」


 あー……。わかる気がする。そのぶんエミリーさんは事前に予測を立てて計画を練るタイプのようだ。やはり彼女ら二人はいいコンビと言える。

 しかしティナ司祭の旅が危なかったのは、実際アキュレイさんにも責任があるのかもしれない……。


「…………ねえ。なんか、つけられてない? またなの?」


「……ええ。いや、今度のはわかりやすいですが……」


 振り返ったと同時に通りの角に身を隠した男には見覚えがあった。


「昨日組合(ギルド)で受付嬢さんと揉めてた子供ですね。僕らに用があるみたいです」




 しょせんは素人の尾行。逆に取り押さえるのは簡単だった。


 買い忘れを追加すると言うエミリーさんの荷物を俺が引き受け、いったん別行動を取るフリをした彼女が通りの人混みを利用して背後に回る。


 あっさり観念した子供は俺達に頼みがあるという。


「なんでこんな人気のないとこに引っ張られるんです?」


「通りじゃ人目につくんだよ。俺にゃ知り合いも多いし」


「へえ。お願いがあるって人間の態度じゃあないわね。その知り合いとやらは何人連れてきてるのかしら?」


「ゆ、強請集(ゆすりたか)りじゃあねえよ! ちっ、もうこのへんでいいか。……俺はジミー。あんたら東の街道の工事に行くんだろ? 俺も連れてってくれよ!」


「……あー。そんなことだろうと思いましたよ。僕らは組合(ギルド)の依頼で行くんです。理由は知りませんが組合(ギルド)に断られてた君をなぜ連れて行く必要が?」


「俺はこう見えても土属性の魔力が使えるんだ。齢は大して変わらないようだけど鉄札持ってるあんたの部下でいいよ。仕事の手伝いをさせてくれよ。俺は冒険者になりたいんだ」


 事情を聞くと、彼の家は交易都市トレドでも名のある建築家の家で、父親も職人ギルドの幹部だという。しかし息子であるジミーはそんな家業に興味は全くなく、冒険者になって旅に出たいという夢を持っているらしい。

 まあ……よくある若気の至りだな。俺も他人のことは言えないが。


「お父さんが冒険者組合(ギルド)に圧力をかけて木札すら作れないか。どこの親も似たようなもんねー」


「現場で実績を作れば冒険者証を出さざるを得ないって……そんなにうまくいくんですかね」


「そこはほら、俺が木札冒険者だってあんたが騙されて(チーム)に雇ったっつって組合(ギルド)にゴネてくれれば。金は別にいらねえから俺の分の仕事の報酬は全部やるよ。こんな無茶は他所者にしか頼めないんだ」


 筋が通っているようで全くそんなことはない屁理屈だ。

 でも俺が腹を立てた芝居でもしてゴリ押せば、あのギルドなら木札を作る程度のことは聞き入れるかもしれないな。


「魔力があれば冒険者で成功するって簡単なもんでもないですよ。土属性なら天職でしょ。大人しく親の後を継げば安泰じゃないですか」


「いや。そこはあんたも似たようなもんだろ? 男なら世界中を旅して魔物を討伐して名を上げたいじゃんか。キレイな姉ちゃんを仲間にしたいじゃんか」


 おっと。意味深な視線で褒めているつもりか知らんが、それはエミリーさんには逆効果だ。跳ね返す彼女の視線が急速に冷える。


「……ダメね。私達も職人組合(ギルド)の有力者に睨まれるのはゴメンだわ。あなたの頼みは聞けない。諦めてさっさと帰りなさいな」


 俺はジミーの夢も理解できる派ではあるんだが、エミリーさんがばっさりノーを突き付けてしまった。


 まあ頼みを引き受けたところで、彼女の言う通りに面倒が増えるだけで得はそれほどないし、機嫌の悪くなったエミリーさんにわざわざ油を注ぐこともない。


 ……ふん。そんな風に「コイツ仲間の女に逆らえねえのかよダッせェ」みたいな目で見ても駄目だ。



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