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第105話 新たな依頼

105


 俺達の滞在する交易都市トレド、そこを領都とするブラウウェル伯爵領。

 この領地は東方領域の盟主であるゴズフレズ侯爵領をしのぐ勢いで発展しているらしい。


 見てきたところだけでも、領内は街道農地と広く開発整備され、他所の貴族領のような未踏の魔物の領域は少なかった。

 それらも常日頃より領主兵士や教会騎士によって巡回討伐されているので、領内の民は魔物に怯えることなく日々仕事に精を出すことができる。


 伯爵領に入ってからの平和な道中。女冒険者アキュレイさんに修道士トムさんという旅の経験豊富な大人と、若くとも司祭の地位についた優秀なトラヴィス様との雑談は俺の知識を深める貴重な機会となった。


 ……学びを経験と合わせて咀嚼してみれば。


 魔物は魔力を持つ生物であり、魔力は生物を介して魔素と状態を行き来する。

 そしてこの世界の魔物は俺の視点から見て今のところ二種類が存在する。


 すでに相対した熊や蜂、旅の途上でその存在を耳にした狼や鹿など、野生生物がその身に魔力を宿すモノ。

 ゴブリンや吸血鬼など前世の地球には存在しなかった異形のモノ。


 あとこの世界にはドラゴンもいるらしい。やはりこちらでも上位の存在と言える脅威だとか。


 そんな脅威が数多跋扈するこの世界でも、我ら人間種族が最大多数を占めて繁栄できているのは、魔物がいつでもどこにでも無限に沸くわけではないからだ。

 防護結界で魔力濃度を調整している都市はもちろん、そんな設備を置けない村や街道でも、何もないところに突然に魔物が出現して大騒ぎになる、なんてケースは稀という。

 

 それら魔物が生息し発見される場所というのは、主には人の住めない険しい自然かその近くばかりだ。


 専門の学者の研究によれば、そういう魔物の領域と呼ばれる自然の土地は魔素が溜まりやすい場所と考えられているらしい。溜まった魔素が生物やその他の要因に合わさって魔物を生む。生じたごく小さい魔物は他の生物の餌となり、魔力や魔素は食物連鎖に組み込まれる。


 その仕組みは命を奪う脅威には違いないが、同時にまた人間に魔物の素材という貴重な資源をももたらしているのだ。




「……まさか掲示板が木札の依頼で埋め尽くされているとは」


「鉄札冒険者への依頼って、この隅っこの一割くらいしかないわね」


 交易都市トレド、平民街にある冒険者ギルドの中で、俺と女冒険者エミリーさんは無数に依頼の紙が張り出された巨大な掲示板を眺めている。


 お互いのコンビの相棒は今現在、城壁内上層区の教会大聖堂で休息中だ。


「……交易都市なんだから、領地を跨いで遠方へ移動する商隊の護衛の需要が高いはずでは?」


「あー。平和なこのへんじゃ力量のある冒険者は少ないらしいから、護衛専門ならいちいち募集かけるより自分とこの商会でお抱えにするのが効率的よねえ……」


 すごいな。依頼はほとんどが木札で、荷役や御者、馬の世話の雑用、事務処理、文書代筆、炊事洗濯掃除その他諸々。武力を必要としない依頼ばっかりだな。全てにおいて魔力持ちはさらに大歓迎で報酬も悪くないぞ。


 ここトレド出発で他の町へ移動する旅の護衛なんか、予定外の事故で緊急の補充みたいなのがダメ元で数件あるだけだわ。


「まあ、ここまで来た他所からの護衛の冒険者も、私や先生みたいに帰り道も同行するのが当然と言えば当然の話。あなたみたいなのはアテにはできないわよね」


 そして当然だが、ブラウウェル伯爵領東部の侯爵領に近い地域は、魔物の危険が増すために冒険者よりも兵士騎士の管轄だろう。掲示板の大きくないスペースにも想定していた魔物討伐系の依頼は、すぐには見つからない。


 掲示板周辺や受付のカウンターで職を探すたくさんの人だかりも、力仕事向きで身体は小さくない奴が多いが、武のニオイはなさそうな一般人ばかりだ。




「――何ッでだよぉ!! これに土属性の魔力持ち募集って書いてあるだろ!!」


「だから、ダメだってばぁ。あんたに木札の冒険者証は出せないのよぉ」


「そんなこと言ってる場合じゃないだろっ! 東への街道の復旧は最優先だってえ領主様の意向も知ってんだぜ!」


「それはそうだけどぉ、あんたはもうここに来ちゃダメなの! 帰ってお家の仕事手伝いなさいな!」


 おお? ギルド受付カウンターのキレイなお姉さんと、若い男が大きな声で争う声が聞こえる。周りの多くの人間も止めるでなく苦笑いだ。


「ちくしょおッ! クロエのバカ! もう来ねえよッ!! ……ちっ、ンだよ! 邪魔だ。どけよ!」


 おっと。穏やかじゃないな。ぶつかってきたのはそっちだが。

 謝罪もなくロビーを駆け出していく男。


 見た目も態度も若いな。さして俺と齢が変わらん感じだ。


「あぁ! もおッ! あの子ったらぁ! すみませんお客様、組合(ギルド)にご用がおありでしたらお伺いしますのでこちらへどうぞぉ!」


 周りの連中も距離を取っていたので並んでいるわけではないようだ。

 俺達が他所者ということもわかるみたいで受付をゆずってくれた。


「こちらへは初めてですね。受付のクロエと申しますぅ。お持ちでしたら冒険者証をお願いいたします。…………えっ? 鉄札? しかも登録も最近で、出身地は、これどこ……?」


「ああ。ここへは旅の護衛で来ました。田舎な地元と違って大きな都市でびっくりしましたよ」


「はぇー。遠距離の護衛ってかなり実力と信用がないとなのに……。その若さならやはり魔力もお持ちなのかしらぁ。こちらでは宿をお探しですか?」


「ええっと。宿は大丈夫なんですけど、この伯爵領って魔物討伐の依頼ってないんですね」


「あぁ、ええそうです。ここでは魔物などの危ないことは、だいたい領主様の軍や教会の騎士団が片づけてくれますので。お仕事をお探しということは護衛の契約のほうは完了されたのですか? ……もしもお探しならちょうどご紹介できる案件がありますよぉ」


「ひょっとしてさっきのお話ですか?」


「っ!」


 先ほどの若い男とのやりとりを一通り聞かれていたと知った受付嬢は、恥ずかしそうにしつつも話を続けた。


 彼女の説明によると、ここ交易都市トレドから東のゴズフレズ侯爵領へと向かう街道、その領境の手前の山あいの崖道で、一週間ほど前に強力な魔物が出現。領主伯爵軍と教会の騎士団が合同で出向き、すでに討伐は完了したものの凄まじい戦闘の余波で広範囲に崖道が崩落して通行できない状態という。


「はらら。北へ向かう私達には関係ないけど、あなたには大問題ね」


 他人事だと思ってのほほんとするエミリーさん。

 マジか。土砂崩れの復旧なんて何ヶ月かかるんだ?


「その道はここトレドと東の侯爵領を繋ぐ主要街道のため、現在両方の領地から人を入れて復旧に努めています。魔力持ちや土木、建築の専門業者を投入していますのでそれほどはかからないと思いますが、魔力が使える作業員は絶賛募集中です。魔物が再び出現することが懸念されていて危険もあり、伯爵領からはなかなか人が集まらない様子なのです」

 

 教会騎士団は聖女ティナ司祭への対応があり、伯爵軍は類似の魔物の発生を領内で警戒しているらしい。伯爵領内の復旧作業なのに侯爵領からのほうが作業従事者が多いのは色々とマズいだろうな。


 ……よし、これは手伝っておくべきだろう。


 迂回して自分だけ東へ行くよりは、さっさと直してみんなが通れたほうがいい。その選択肢でゴズフレズ侯爵様の印象も悪くなることはないはずだ。


 しかし、作業現場に侯爵領の人間がいるのは少し気になるな。


「えーと、クロエさんでしたっけ。その仕事お引き受けしてもいいんですけど……ちょっと事情があって本名を伏せたいんですが」


「……え?」


 何かやらかして逃げてるのかという内心が透けて見える怪訝な目をする受付嬢。


「いや、罪になるようなことじゃないんです。バレたくない人に居所が知れるかもなぁみたいな。……あ、あちらの机にいる上司の方に判断を仰いでもらってもいいですか?」


 後ろの席にいる上級職員らしきおっさんは、さっき応接室でトラヴィス様からのギャラをもらった時に隅っこに並んでいた人だ。

 ギルド長にくっついていたから、ちょっと小金を掴ませればそれぐらい見て見ぬふりしてくれるだろう。



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