side:ドヴェルグ
まっすぐ、気持ちを精霊様に伝え、これからどう出るかと緊張が走ったその時。
「んぅ…?」
私の番が身じろいだ。
瞬間、威圧バリバリだったはずの5匹は水の壁の中へ消えた。
そのまま私の番と戯れだした。
「えー。完全こちら、放置ですね。」
エルオラがなんとも言えない声を出す。
「まぁ。愛し子だからな。こちらより、優先なのは精霊の性だから仕方のないことだろう。」
言葉は冷静を保ちつつ、首筋からの熱を持て余す。
(早く、近くに行きたい。)
(抱きしめたい。)
(私の番。)
(愛しい愛しい。)
思考がループしてくる。
どのくらい待たされたのだろう。
実際には10分といったところだったが、体感ではゆうに小1時間ほどに感じる。
焦れて焦れて仕方がない心をどうにかねじ伏せていると、のんびりと水の精霊が近寄って来た。
『るりのつがい?』
「はい。」
(るりという名前なのか。)
名前を知っただけで高鳴る心臓に落ち着けと自重する。
『るりは、きたばっかなの。』
(何処からなんだろうか。早く、直接合わせて欲しい。)
のんびりした水の精霊を問い詰めたいがグッと次の言葉を待つ。
『いま、せいつめいちゅー なの。るりが、うけいれたら、いいけどー。いやってなったら、きえてもらうからね。』
穏やかな口調なのに、背中に冷や汗が流れる。
隣のエルオラは既に滝の汗をかいている。
『るりをきずつける、ぜったい、ゆるさないよ。』
「勿論。傷つけることなど逆鱗に誓い行わない。無理強いなどもってのほか。丁重にもてなさせて欲しい。」
竜の最上の誓いを口にして、なんとか城へ来てもらえないかと思案する。
「先程、来たばかりだと伺ったが、今夜の宿などは?移り人は清潔を好むと言う。我が城で、寛いではどうであろうか?」
『むぅ。』
5匹は繋がっているので、どんな話になっているかは、大体伝わっている。
瑠璃の方も話がひと段落して、みんなが抱きしめられているのがシオンは面白くない。
瑠璃は、戸惑っている気持ちが強いようだが、番としての繋がりは強く意識しているようだ。
清潔なんて、5代精霊が揃っているこの状況で簡単なことだが、番を引き離すのは精神安静にも悪いものがあるし。
まぁ、自制心が強いこの竜王の城なら、瑠璃も落ち着けるかと考える。
『まぁ。るりしだいだよー』
『いこー。』
そう言うと、水の精霊はきびを返しスタスタと歩いて行ってしまう。
流石にこの強力な水の壁を越えるのは骨が折れると思ったが、するっと綺麗に光って消えた。
「さすが水の精霊様、なんと美しい精霊魔法。」
エリオラが呟く。
ドヴェルグも思ったが、それどころではなかった。
水の壁が無くなり、番を直に目にしたのだ。
鼓動が跳ね上がる。
(あぁ、長かった。会いたくてたまらなかった。)
300年、必死に探した。
けど、見つからなかった。
そこから100年、忙しいふりをして心に蓋をしてただ息をして来た。
400年待ち焦がれた存在。
バカの一つ覚えのように愛しいと言う言葉が溢れて溢れて止まらない。
駆け寄って腕の中に閉じ込めたいが、精霊の絶対零度が10個光ってる。
冷静に、2メートル手前で片膝をつき、愛を乞う姿勢をとるも、なかなか話すきっかけを貰えず、水の精霊に至っては、るりの膝の上で丸まってしまった。
(どうしたものか…)
「んっん。」
わざとらしいとは思いつつ、咳払いをし、話しかける。
「私はこの国の竜王で名をドヴェルグという。そちらの水の精霊様とのお話をお伝えしてもいいだろうか?」
目が合ってからと言うもの、1秒も逸らさずに見つめ返してくてる、美しい番に、心が歓喜で震えた。