side:ドヴェルグ
個体差はあるが1000年の時を生きる竜族。
人型を取れるようになると直ぐに行われる番探し。
首筋から肩に掛けて生じる番紋は様々であるが、番以外で同じ紋はひとつとして存在しない。
番に反応し、華開き、愛し合う心に反応し大きく開華する。
次々と番をみつけ、幸せそうに寄り添う仲間達。
それなのになぜか己の番はなかなか見つからなかった。
待ち焦がれ、大陸中300年必死に探していた。
そんな中での、王の崩御。
この時ばかりは、番探し中であっても竜国へ帰還しなければならない。
竜王国に生まれ、漆黒の竜体を待ち、誰よりも優れていた。
強いものが自然と上に立つ。
そんな俺が竜王になるのは当然の流れだった。
そこから100年余り。
目まぐるしく時が過ぎていった。
気の置けない親友のエルオラを宰相に、アーロンを騎士団長に据え、滞りなく務め上げてきた。
何も不満はなかった。
ただひとつを除いて。
周りで咲き誇っていく華を横目に政務があるから、忙しいからと興味がないふりをして気持ちに蓋をしてきた。
何かが足りない。
満たされない。
飢えが募る。
そんな心を抱え、只々苦しかった。
その日も何てことない1日が始まり、毎日積み上げられる書類に気合をいれて取り組んでいた時に、ふと感じた違和感。
なにか空間がねじれたような気がしたが、精霊が多いこの土地ではよくあることだ。
しかし、なぜか高まる鼓動に内心動揺したが、平静を装い執務を続けた。
「ドヴェルク様、しばし休息いたしましょう。」
(やはり挙動がおかしかったか…)
エルオラに休憩を促され、落ち着こうと頷いた。
ぱちんと精霊魔法が弾ける気配。
(この感じだと、竜王国の西側、獣王国との国境がある野原あたりだな....。)
とあたりをつけていた所で、激しい鼓動と、かっと熱くなっていく首筋に、気が付けば飛び立っていた。
「お待ちください!!!」
後でエルオラが叫んでいるが、もう止まることなど出来なかった。
エルオラは飛び立ってしまった王を追いかけながら念話を騎士団長へ飛ばす。
『アーロン!!精霊魔法が弾け、ドヴェルク様が飛び出していきました!!警備を固めておいてください!!』
『任しとけ!!』
直ぐに反応を返すアーロンに安心しつつ王を全力で追いかけることに集中した。
焦る心のままに、しばらく全力飛ぶと野原が見えてきた。
ただの野原だった場所に木が生えて、幹が水の膜で覆われている。
太陽を跳ね返し、揺れ、光る。
5大精霊がそろってこちらを見上げている緊迫した状況にも関わらず、その中で、眠っている少女に見惚れた。
高鳴る鼓動。
(彼女だ…私の…番い!)
少女から無理やり目をそらし、着地と同時に膝を折り、頭を垂れた。
「竜王のドヴェルグと申します。移り人の気配を感じ、参りました。精霊様がたの愛し子とは知らず、ご無礼をお許しください。」
『ばかじゃないみたいだな。』
ニヤリと闇を統べる精霊様が、地を統べる精霊様に問う。
『えぇ。 けさずにすみましたね。』
ニコッと笑いながらも、目が冷めている地の精霊様の言葉に背筋が凍る。
今度は、後に着地したエルオラに向かい、問われる。
『で?そっちのやつは?』
「はっ!申し遅れ大変申し訳ございません。宰相を務めて居ります。エルオラと申します。」
エルオラが震える声で答えた。
『そうですか。』
興が冷めた様に、ひと息いれ、地の精霊様から顔を上げるように促された。
その声に、顔を上げると彼女が見え首筋がまた熱を持った。
何の用だと問われる声に、まっすぐ、気持ちを精霊様に伝えた。
「こちらに向かう間に、私の番紋が華開きました。 そちらに眠られている方は、私の番です。」と。
精霊の鉤括弧が「」になってました。
ご指摘ありがとうございます。