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もりっと生やして貰った、りんごの木に寄りかかると瑠璃は、ピコピコと動く羽を見つめながら、これまでのことを考えていた。
(特にこれといって心残りもないし、家は弁護士さんがどうとでもしてくれるだろうし、家族は可愛い5匹しかいないし、一緒であれば何も問題ないな~…)
そんなことよりもこの陽気にうとうとし出していた。
(う〜っ折角この世界について説明して貰おうとしてるのに…いかんせん、風が気持ち良すぎる〜〜)
そんな瑠璃にクロウは苦笑し、
『るり、ねむいなら ちょっとやすんでも だいじょうぶだぞ。 おれたちがそばにいるからな。』と、笑った。
「う〜ん…でもぉ…」
といいながらも大きな欠伸をかみ殺す瑠璃。
『ええ、あんしんしてください。』
とミントまで言うもんだから、瑠璃はつい言葉に甘えることにした。
膝に寝ているシオンの暖かな重みと、蝶を追うことに飽きた、ローズとレモンがいつの間にか、左右の太ももにちょこんとアゴを乗せて眠っているこの状況は瑠璃にとって癒し以外の何物でもなかった。
「ごめん…ちょっと…ふぁ…だけ…」
そう呟くと瑠璃は気持ち良さそうに眠ってしまった。
『くろう、るりをここにつれてきて よかったんですか?』
すっかり寝入ってしまった瑠璃を愛おしく見つめながら問う。
『うん? みんと、おまえだって るりとしゃべりたかっただろ?』
『まぁ、それはひていしませんが…』
『それに、るりがあのせかいにいたって るりをしあわせにできるやつはいない。 だろ?』
『そうですね…。』
瑠璃が産まれた時、私たちも産まれた。
ずっとずっと待っていた。
こんなにも愛おしい存在。
瑠璃の親が亡くなった時、悔しく不甲斐なかった。
万物の根源といわれる私達なのに、あの世界では何も出来ず、伝えるすべを持たず、側にいることしか出来ない自分たちが。
ここでなら、持てる力を存分に使い、瑠璃を幸せに出来る。
そう思えた。
ぽかぽか陽気にクロウとミントも瑠璃に寄り添おうかと思った時、こちらに向かう気配に気づく。
『くろう』
ミントが呼ぶよりも早く、眉間にしわを寄せ空を睨むクロウ。
『ああ。 くるな。』
近づく気配に3匹も、瑠璃を起こさないように気をつけながらそっと起きあがり、クロウとミントに並ぶ。
『ぷぅ〜〜! せっかく るりとねんねしてたのに〜〜』
『ほんとだよ~~』
レモンとローズがご機嫌ななめに目をこする。
『シオン、たのんだ。』
『あい』
クロウがシオンに指示を出すと、シオンの尻尾が濃く光、煌く。
すると、瑠璃を覆うように遮断する水の膜が出来る。
『きましたよ。』
ミントの声と共に、羽音が聞こえ、すとんっと静に野原に降り立つ男達。
着地と同時に膝を折り、頭を垂れた。
「竜王のドヴェルグと申します。移り人の気配を感じ、参りました。精霊様がたの愛し子とは知らず、ご無礼をお許しください。」
さらりと、美しい黒髪が流れる。
『ばかじゃないみたいだな。』
ニヤリとクロウが笑いながらミントに問う。
『えぇ。 けさずにすみましたね。』
ニコッと笑いながらのミントの言葉に背筋が凍るドヴェルグ。
『で?そっちのやつは?』
「はっ!申し遅れ大変申し訳ございません。宰相を務めて居ります。エルオラと申します。」
ドヴェルグの後方に同じく頭を垂れていたエルオラが冷や汗をかきながら震える声で答えた。
『そうですか。 おもてをあげなさい。
それで? わたしたちになんのごようですか?』
ミントが意地悪く先を促し、ようやく顔を上げるドヴェルグ。
切長の瞳は金色で、なかなかの美丈夫であることが伺える。
艶やかな黒髪は強い竜の証とされている。
「こちらに向かう間に、私の番紋が華開きました。 そちらに眠られている方は、私の番です。」
まっすぐと向けられる瞳は瑠璃を見つめて揺れていた。