目覚
目が覚めたのは、見慣れた天井の部屋、つまりはいつもの部屋だった。つまり、元に戻ったのだ。枕元に、何だか紙がある。そこには、萩野さんからの文章が書かれていた。
『やはり、お前はいい機関士になる。いい機関士とは、決して停止目標を正しく止めたり、運転がうまい機関士ではない。信号を違えず、そして最小限の蒸気で最大の力を発揮させる。それがよい機関士だ。俺が見込んだ通りだ。お前はやりとげた。初めてにしては上出来だ。
追伸
ごめん、俺も健康な男だった。好奇心に負けた。』
そうか、ボクには素質があるのか。よし、頑張らねば。そして、この追伸。なんだかなぁ。これは、ボクが中途半端な存在だと意識させられる事だ。女でないと自覚し、男たらんとしてきたけど、不本意な形とはいえ、男の躯となったときにその生々しさに耐えられず、なんか変な気分だった。これが完全にどちらかに振れているなら、そうではなかったのではないか。起きたときのこの被服の乱れや、この手紙の追伸からわかるようなことをしたのではないか。そうだとするなら、ボクは相当中途半端な存在だ。結局、本物ではないのだ。男の本物ではないし、ましてや女でないと自覚している。ならボクは何だ。わからない。せめてボクがボクであり続けねばならない。もし、この中途半端のまま、ボクがボクを見失えば、その時ボクは本当に居なくなってしまう。
どうでもいいけどご飯食べよう。寮の食堂、閉まっちゃう。
私は私であり続けねばならぬ。わからなくなったら、本当に消えてしまう。それは私の実感。