目覚
夜行列車のあとの仮眠はなかなか楽しい。入れ換えのB6等の甲高い汽笛と、ジョイント音を夢うつつに聞きながらなのだから。
目が覚めて、妙な違和感を感じた。身体中が妙に重苦しく、痛い。重苦しいのは常日頃感じているものと違い、本当に重いというようなものだ。しかもこれまであまり感じたことがない、節々の痛みがついている。特に左の肘から肩にかけて。ゆっくり眼を開けてみる。目の前には見覚えがあるような、ないような少年とも少女ともとれる人物が寝ている。自分と、その周辺の機関区の乗務員は大抵知っているはずだから、新入りだろうか?そのわりにはくたびれた仕業服を着ている。煤と油に汚れた凄味のある仕業服だ。というか、この繕いあとは見覚えがある。というか、ボクのだ。鏡を極力見ないことと、鏡を見るのとは僅かに異なるから気づかなかったが、これは明らかにボクだ。じゃあ、ここに居るボクは?よく見れば、着ている服は古くなった制服を使い回した二種仕業服だ。仮眠明けの人向けの姿見を恐る恐る見れば、そこには、萩野機関士が居た。どうしていいか解らないうちに、目の前の『ボク』のまぶたがゆっくりと開く。
「んぁ、なんで、俺が目の前に居んだよ。」
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「つー事はだ、俺達の中身は入れ替わっちまったと。」
どっかりとあぐらをかいた『ボク』が、それを言う。中身は萩野機関士だ。
「戻れるかどうか、という心配より、先に帰りの仕業どうするか、だな。」
時計を見れば、帰りの仕業迄、あと一時間半もない。
「あー、くそ、小便してくらぁ」
待って、大丈夫だろうか。全くついていけない。
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「ええ、クソ。厄介だなーッ。出切った感がせんし、いちいち拭かにゃならん。めんどいな、もう。」
はい、女はそんなもんなんです。お分かりいただけたでしょうか。
「でだ。帰りの仕業、お前が運転しろ。罐焚きは俺がやる。」
「――?」
「あのな、その体は、俺のだ。腰痛めてるし、左肩壊してる。だから許さん。」
えーっ?