7話 五月 良子
7話 五月 良子
五月 良子ーーこいつは、健一と陰で僕がいつ死ぬか賭けていたあいつだ。
こいつは女子部のキャプテンをしていた。僕が到底話せることのできるの身分ではなかった。
かなり命令口調でときどき、
「おい、ここ汚いから雑巾で拭いとけ、能無し(バカ)でもそれくらいできるだろう」って僕に向かって言っていたけど
そこまでそいつのことを知っていたわけではなかった。
なのに僕のことを人一倍笑った。
女性が人をけなす時の笑い声は、案外心に突き刺さる。
あの独特な高い音。
それは色々な角度から自分のところに接近してくる。
言うなれば、
ナイフのようなものが僕の心めがけてつぎつぎと突き刺さるような感じだった。
目はもっとひどい。あの見捨てたかのような
「目」。
ある人は周りに合わせてキョロキョロしながら笑って、
また、
ある人は口を手で隠し、僕をあざ笑うと同時に、僕以外の人に恋愛感情を抱かせるかのように、可愛く見せようと努力する。
1石2鳥と言うのだろうか。
結構賢いと思った。
そして、女子の集合体の核部の
人間は本気で笑う。そっちの方がキチガイと思いたくなるほどだ。
人差し指で僕を射撃するかのように指を指して、僕をまず一瞬だけ睨む。
そして、笑い出す。
僕と目があった瞬間、それは激しくなり、
何人かがだんだんと近ずいて僕を取り囲む。つまり、僕は上下以外を向くと必ず目が合うのだ。だから僕は下を向いていた。
それを見て勝ったかのようにしてまた、
笑う。
それに共振して皆笑う。
こいつらはみんな、面白がることと、
可愛く見せようとしか考えていない。
心は闇より暗いのに
サツキは特に。
でも、そんな中、レイは違った。
レイは、僕が辛い時は、どんな時でも笑わない。
遠いところで泣いていたんだ。
問題は、奴をどう殺すか。
爆死と毒死以外で処理したいところだ。
確か奴の叔父は小さい自動車工場を経営してるはずだ。
調べてみると週末、
奴は必ず工場に訪れては工場内を歩き回る。
そして、珍しいものがあると立ち止まる。
奴は叔父が留守の時でも勝手に入って、
珍しいクルマやモノが無いか探していた。
工場は、特に鍵などはなく、容易入れた。
それが弱点だった。
ものを持ち上げるには滑車と頑丈なロープが必要だ。
滑車には大きく分けて定滑車と動滑車の2つがある。
動滑車には面白い性質がある。
持ち上げる力が半分になるのだ。
つまり、10キロのものを1メートル持ち上げるには、5キロの物を引っ張る力でロープを引っ張ればいい。でも、引っ張る長さは2倍つまり、2メートルになる。
仕事の原理ってやつだ。
つまり動滑車を5個使えば、約30分の一の力で、物体は持ち上がる。
ここは自動車工場、長くて頑丈なロープも滑車もすぐに見つかった。
クルマの重量が1トンとしてもだいたい30キロくらいの力で持ち上がる。
夜中、自動車工場に浸入して、自動車を動滑車5個とロープを使って工場の天井近くまで持ち上げた。
明日、朝早く奴が来るのはわかっていた。
定滑車はロープの方向を変えるためにある。つまり垂直になっているロープを地面まで引き、
定滑車で、地面と平行にする。
ロープを地面に20メートルくらい引っ張って端っこを軽く固定した。
ロープは地面から5センチメートルくらい浮いた状態で静止していた。
次の日、奴はやってきた。
奴の癖は、石とかと身の回りにあるものを蹴飛ばすことだ。
奴はロープを見て蹴飛ばした。
そうしたら、固定されていたロープが一気に外れ、中吊りにされていた車が奴の頭上に
ドッカーン!
そう、勝手に自ら死んでくれた。
いわゆる自殺。
しかも派手に。
奴が俺に望んだことをやり返した。
そう、人間の視界と思考というのはじつに狭い。
まず、人間というのは、真上をあまり見ない。
つまり車が上に中吊りでもきずかないものなのだ。
つぎに人間は自分に都合のいいように考える。
つまり、自然と自分はだいじょうぶだと思い込み易い。
そう、頭上に車が中吊り状態にあるなんて夢にも思わないだろう。
これが人間の弱点だ。
僕は、レイの家で朝食を食べながらテレビを見ていた。車が落ちる時の音はすごいからすぐにニュースになった。
奴は「工場、悲劇の事故」という名で
ヒロインになっていた。話によると首がへし折れていてもう何がなんだかわからない状態だったらしい。
「リク、一緒にロープが引いているトキ、
すごく楽しかったよ!」
レイが幸せそうな顔をしてそう声に出した。
僕も嬉しかった。
「僕もだよ、レイ。ところで後でさー、いや
今日映画見に行かない。
僕からのプレゼント。」
今日、
10月20日はレイの誕生日だった。
「ありがとう、私、こんなに幸せなの、生まれて初めてだよ。」
レイは泣きながら嬉しそうな目をしていた。