6話 九周 健一
6話 九周 健一
健一……僕の同期で、僕よりはるかにプレーがうまく、
より、主役らしい人間だ。
部活動に入っていた頃、
僕のことをいつも「ヘタクソ」と言っていて、
僕が一生懸命に練習しているときは、
みんなを呼んで、一緒にあざ笑い、
要らなくなると、
すぐに雑用に回らせた。
実は、
僕はレイに自殺を止めてもらう1週間前に、部活動を辞めていた。
身支度をするために。
でも、
健一はなかなか辞めさせてくれなかった。
「僕はもう……辞めさせていただきます。」僕は消えそうな健一に声で言った。
「辞めんじゃねーよ、お前だってうまくなれるかもしれねーじゃんか」健一が笑みを浮かべながら言った。
「そうだよ、やればきっとうまくなるよ」他の人も、面白がるかのように
そういった。
本当は、けなす相手がいなくなるのが嫌なのだろう。
嘘が下手だと思った。
僕は耳が良かった。
僕の周りが何をつぶやいているのかはっきりわかった。
だから、奴の陰口も容易に聞けた。
「あんなヘタクソ死ねばいいのに。でも、あいつのプレー、
バカバカしくてオモシレーからしばらく遊んでみるか。」
そんなことばっかり。
表でも、けなしていることはわかるが、裏ではもっとけなしている。
それが主役だ。
僕はそう思った。
僕は、どうにかして部活動を辞めた。
ま、こんなダメな脇役、無理やりでも
止める価値がないと思ったのだろう。
それにしてもなんかいつも後ろから見られているような感じがしていた。
部活動を辞めたので、僕は一人で早帰りをしていた。
みんな部活動をやっていたから、帰宅時間が異なっていたのだ。
でも独りのはずなのに、
やはり後ろから、つけられている気がした。
そんなことはどうでもよかった。
僕は、死ぬ方法を考えていた。
首を吊って死のう。
一応、僕は、ホームセンターで太いロープを買ってきて、鍵のない小さい倉庫の中にしまっておいた。
次の日、ぼくは、倉庫に行ってみると、不思議なことに、何故か昨日買ったロープだけがない。
盗まれたのだろうか?
ロープがないのなら首吊りはできないな。
僕はできるだけ長く苦しまないで死にたかった。
包丁では、間違ったところに刺すと
死ぬのに時間が掛かったり死にきれなかったりするからだめだ。
溺れて死ぬのは二人必要だからできない。
とすると、飛び降りることくらいしかないなか。
そう思った。そして、覚悟を決め、学校の屋上から飛び降りようとした。
健一たちが裏で「もし、あのクズが、飛び降り自殺したらみんなで死体…拝みに行こうぜ。
飛び降りは他の自殺方法より死体がグロいらしーからさ!」
「賛成〜、
あいつがいつ自殺するか賭けな〜い」って言っていたことを思い出した。
最後くらい、主役が満足できるようにしてやるよ。僕はそう思った。
みんなが教室を出て部活動に参加するまで教室で、じっとしていた。
そしてみんなが出て行ったところで、
僕は遺書を机の上に残し、屋上に向かった。
なんか誰かの足音が聞こえた。
さて、
ここから飛び降りれば終了だ。
これでいい。
これでもう健一たちの陰口を聞かなくて済む。
そう思うと気がラクになった。
やっと死ねる。
こんな脇役でごめんなさい。
気がつけば、涙が風に乗って流されていた。
僕は目をつむり前に重心を傾けた。
ここで、僕はレイに助けてもらったというわけだ。
まあ、僕と健一はそんな関係だ。
さて、どうやって奴を殺すか。
奴は夜遊びが好きだった。
奴は毎日必ずある路地裏を通るがその場所は、狭くて、ほとんどの人(土地勘がある人)でさえもわからない道だ。
僕は奴を尾行して初めて知った。
そこで、僕はその道に油をまいておいた。ヒ素入りのだ。
ヒ素は半導体などに使われている薬物で、毒だ。ヒ素は、最近では入手しやすくなった。
奴はその油で転んだ。その時、ヒ素入りの油に手をつけてしまった。
その後、奴は必ずコンビニで弁当を買い、食べる。
それは、奴の習慣だからすぐにわかった。
思惑通り奴は弁当を買い食いした。
奴は、絶対に食事のときは手を洗わない。
それは、学校生活でわかっていた。
奴は手に毒をつけたまま食事をしたのだ。
実にバカだ
健一は翌朝死体として見つかった。
原因は分からずお蔵入りとなった。
少なくとも、
僕とレイを疑えるものは誰もいなかった。
人間というのはじつに単純(パターン通り)だ。
まるで昨日をずっと繰り返しているかのようだ。
そう、健一のように
実にバカだ。
未来が読めるのだから。
人殺しなんか簡単だ。そう思った。