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CAT 第八話

第八話です。約2週間ぶりだと思いますが、お楽しみください





「おやおや、始まってしまいましたか♪」

「あぁ?どうした?ドリーマー」

「ドリーマーじゃありませんよぉ、夢乃は夢乃です!」

「……そんながっちり農牧業者みたいな恰好で牛の乳搾りながら言われてもなぁ」

「何を言っているんですか!?現地調達と言いましたから!はい♪どうぞ」

「あぁ、まあ……美味いからいいんだが……」

少々困った顔をしながら夢乃に渡された牛乳を口に含む。

(鈴村大我。彼がこの世界を引っ掻き回してくれる。

 そうしてくれれば、おのずと《この街の闇》も姿を出さずには入れないでしょう)


「なんだ?おめぇ、そんなにニヤニヤして」

「ん?夢乃はいつもニッコニコですよ♪『笑う門には福来たる』と言いますし。

 勇作も、大我ももっと笑ったほうがよろしいですよ♪」

「大きなお世話だ」

そういい勇作はコップに残った牛乳を勢いよく口に流し込んだ。

(さぁ、これが。この猫たちの争いの火種になる。化け猫を呼ぶ……火種になるはず)











「太郎!」

「ばうッ!」

「はっはぁ!犬っころが俺に勝てるか!」

「次郎!三郎!!」

太郎と呼ばれた大型の犬の突進を避けるも、残っていた二匹の前後からの突撃を避けることが出来なかった。


「ぐッ!」

俺は二匹を払いのけ、そのまま物部真希の方へ突撃する。

そこで俺が避けた太郎と呼ばれた犬がすかさず俺の前に立ちはだかる。

後ろから二匹も俺を追っている。立ち止まっている余裕はねぇ!


「どけぇ!犬っころ!」

「がうがうッ!」

俺の腕を犬が思いっきりかみつく。

牙が俺の腕に刺さり、血が出る。

「くっそ!」

後ろの二匹がさらにとびかかってくる。

俺はかみついて離れない太郎を思いっきり振るい、二匹にぶつける。

その勢いで俺の腕から犬が離れる。






「ひぃっ!」

俺がさらに距離を詰めることで座り込んでいる物部真希は怯えながら後ろで後ずさる。

俺は一気に彼女に距離を詰める。しかし、彼女を守っていた動物たちがそれをさせない。

背中に突然何かが刺さったような衝撃が走る。

雀だ。雀が俺に向かって突進してきたのだ。俺の背中に刺さった嘴で俺の肉を抉る。


「どきやがれ!」

俺は背中を思いっきり地面に叩きつける。

雀は下敷きになる前にその場から逃げる。

仰向けになって寝ころんでいる俺に三匹の犬が覆いかぶさるように襲い掛かってくる。

俺は身体を回転させてその場から移動、犬たちの爪が地面に刺さる。


「「「ぐるぅぅぅぅぅぅぅ」」」

三匹は俺を完全に殺すつもりで啼いていた。

こいつらは、多分。この物部真希って女を大事に思っている。

この怯えて身体を震わせている引きこもり女を大切に思っている。





「…………」

いつの間にか、俺の回りにはたくさんの犬共に囲まれていた。

「おいおい、この街にゃあこんなにも野良犬っていたのかよ……?」

強気で言うが、内心声が震える。

全員が全員俺を喰らう気満々だ。こりゃ不良共に囲まれていた時の方が優しかったぜ。


「おい……」

「ひぃっ!」

俺が女に向けて小さな声で声をかける。

彼女はまた怯えて後ずさる。


「てめぇ……なんで引きこもってやがる?」

「へ?」

「てめぇは、こんなに強い!自慢じゃねぇが俺はこの街じゃ名の知れた不良!鈴村大我様だぞ!?その俺様を、こんなに血まみれにして、ここまで追い込んで、お前は強い。本当に強い。俺が今まで出会ってきたどんな糞野郎共より強い。だったら……なんでもっと胸はんねぇ」


「へ?へぇ?」

俺の頭の中によぎったものがあった。

それは、まだCATになる前。気にくわない調子に乗った奴らをボコボコにして

いい気分で胸を張っていた自分の姿だった。まだCATに対してコンプレックスを抱いていなかった俺だ。

あの頃の俺が、この物部真希に襲われれば、どうなっただろう。結果は見える。瞬殺だ。瞬殺。

そう考えると、昔の自分と今のこいつを見てイライラしだした。

こいつみたいな強い奴がなんで胸張ってねぇで、俺にやられるような雑魚共が胸張ってんだ?


「おめぇは!そんな暗いとこにいる必要ねぇ!胸張って!堂々と街を闊歩すりゃいい!てめぇは強者だ!その辺で自分が強いと思い込んでやがる糞野郎が偉そうに歩いててめぇみたいな本当に強い奴がこそこそしてる理由が俺にゃあわかんねぇ!!」

そして俺は奴に向けて手を差し伸べる。


「物部真希!てめぇは外へ出ろ!おめぇが思ってるほど、世界は怖くねぇぞ」

少女はその男の言葉を聞きながら、長い前髪で遮られている視界で鈴村大我を見る。

(こ、この人……私を外に出そうとしてるの……?)






「いや……。怖い。外……怖い!」

その瞬間だった。

鈴村大我をかこっていた犬たちが、一斉に彼に襲い掛かった。

彼はその犬たちにどれだけ噛まれようがどれだけ引っかかれようが、どれだけ突進されようが闘うことをやめなかった。堂々としたその姿で、襲い掛かってくる敵を薙ぎ払っていた。




「おらおらおらおらぁ!もっとかかってこいや犬共ぉ!」

(何なの……この人……一体何なの?)

彼女の身体の震えが止まらない。

けれどそれは恐怖心だけではない……微かな《羨望》の感情がこみ上げてきていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……どうだ。犬っころ共!」

長い時間。男は倒れずに犬たちを払いのけた。

もぉ、太郎次郎三郎、その他大勢の犬は疲労で動けない。

目の前の男は傷だらけで、身体は自分のと犬達の血で真っ赤っかだ。

息も上がっている。それでも、物部真希に向けての歩みは止めない。

もう自分を守ってくれるものは何もない。目の前の男はこちらに向かって走ってくる。


「ひぃっ!や、やめ!」

自分のすぐ傍まで来た鈴村大我。

彼女は怯えて下を向いたまま震えていた。



「ひっひー」

鈴村大我はにんまりと笑った。

そして――――――――――――。


「いたっ!」

ぽこん。と物部真希を軽くチョップした。

「……ッシャー!物部真希に一撃喰らわせたぞこの野郎!どうだ!参ったか!?」

目の前で大仰な笑いをする男の様子に、物部真希は混乱していた。


「えっ……ま、参りました……」

力のない声が、鈴村大我の耳に届く。

すると彼はニイっと笑みを浮かべた。


「うっしゃー!この鈴村大我!!CAT一人目!!喧嘩に勝利したぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

腕を上げ、大声で叫んだ。すぐ傍にいた物部はその声の大きなに堪えきれず耳をふさぐ。








「……対象を発見。CAT『No.15』と確認。アイン、殲滅を開始します」

「「っ!?」」

最初に気づいたのは物部真希。

彼女の様子で鈴村大我も振り返る。

そこには……中に浮いた少女の姿。腕からナイフのようなものが装備されている。


「なんだ……てめぇ」










「っ!?ここにきて『奴』が!ジョー!何をしている」

『どうした五十鈴。何かあったのか』

「何かどころの騒ぎじゃない鈴村大我、物部真希の元に『奴』が現れた!」

『なんだと!?』

「今お前の身体についている奴をどうにかして現場に向かえ!このままでは……間に合わなくなる!」

『そんなことを言われても……こいつのこの鉄縄は―――――』

『なら、俺が取ってやろうか?』

通信から、ジョー以外の声。


「貴様……っ!?」

『ども、ジョーが声拾ってくれてるよな?怪盗セブンのご登場だ』

「なぜ貴様がここに」

『なぁに、優雅に飛んでいたら変なもん引きずって歩いてるジョーがいたからさ。よっと』

そう話ながら、通信で何かが切れる音がした。


「……切れたのか?」

『あぁ、鉄格子をも切れる優れものナイフ♪

 そんかわり交換条件だ。これから来る奴に嘘の情報を教えてくれ。んじゃ』

そういって、通信からセブンの声は聞こえなくなる。


『な、なんだったんだ……』

「とにかく好都合だ。すぐに大我を救出に向かえ!」

『了解』









「お前!」

「あぁ?なんだ?」

ジョーは、突然多くの警察官に声をかけられる。

腹から鉄縄が出ている少女をそっと見えない所に蹴り飛ばした。

「怪盗セブンがこちらに走ってきたと思うのだが……」

「あ、あぁ!奴なら俺とぶつかってきやがったんだ!文句言ってやろうと思ったんだがそのまま奴はそっちの右へと曲がっていきやがった!ったく今度あったらボコボコにしてやるぜ」

「ありがとう。感謝する!」

そうして警察官の軍団は右に曲がる。


「……本当は左だがな。こちらも急がなければ」

そしてジョーは走りだす。鈴村大我のいる場所まで。
















「ん?なんだろ……人の……気配?」

1人の少年が路地裏に入っていく。

何か、気配を感じて。その奥へと歩く。すると、あるものを見つける。

「っ!?こ、これって!?」

目の前には腹部が避けている少女。しかしそれを少女と呼ぶにはあまりにも奇怪だった。

腹部からはみ出ているものは血管ではなく。似ても似つかない鉄の縄だったのだから。


「……。再起動、再起動。損傷過大。自己修復機能。起動」

そういうと少女の身体は光に包まれて裂けていた腹部も、全てもとに戻っていく。

けれど、それから少女は一歩も動くことも、その瞼を開くこともなかった。


「と、とにかく……どこか安静に出来る場所へ」

少女は彼女を背におぶって、その路地裏から移動する。











「対象。CAT『No.15』弱い。弱い。弱い。……弱すぎる!弱すぎるよぉ!」

機械的な声から一変、突然人間のような口調に代わる。

彼女の足元には血を流して倒れている鈴村大我。

そしてそんな彼を見て怯えている、物部真希の姿だった。


「くっ、くそが……」

そして少年は、そのまま瞼をそっと閉じた。

次回で一応一章目と呼ばれる部分は終わりになる……かな?


次回も是非見ていただければありがたいです。

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