97話 シルエ=ストックフォードVSライ=エン
新暦1348年 ガレリア大陸 アルゼン帝国南東部 コロムロ
歓声があがる中、ライ=エンとシルエ=ストックフォードが登場してきた。
観客席に戻ったトキは面白気に試合を見つめる。
「トキの予想ではどっちが勝つと思う?」
「ん~7-3でライ=エンの勝ちかな」
ケオランの問いにこれまでの戦いぶりから予想を答えた。
見せていない手があるならわからないだろうがと付け足す。
「シルエ=ストックフォードは雷魔法をどう対処するんだろ?」
「発動する前になんとかするしかないんじゃないかしら?彼女の装甲では防御は無理でしょう」
「俺なら槍を投げるくらいしか手の施しようがないぜ」
ケオランの言葉を聞いて体がブルっと震えた。
過去の記憶が蘇ったのだ。
(久々に思い出したな。リアと母さんの最後を……)
トキの心中に気づくこともなく、3人はこれから始まる試合のことでいっぱいだった。
3人もライ=エンの勝利を予想しているようだ。
トキも頭を振って現在のことを考える。
(過去は変わらない。今は試合だ。ライ=エンの雷魔法を分析しなきゃな)
自分が負ける可能性があるとすれば彼くらいだからだ。
相手を見据えて集中しているライ=エンに対し、シルエ=ストックフォードは軽く伸びをしてリラックスしている。
そして、試合開始の合図がされた。
両者ともに魔法を発動し始める。
シルエの方が早いが、両脚の装甲を纏った段階でライが空中にかざした右手を振り下ろした。
(あまい!)
ズドーーーーン
トキの予想通り雷魔法は凄まじい威力を発揮したが、制御がまだ完全ではないのであろう。
シルエの2m横辺りに飛来した。
だが、それは衝撃だけでシルエを吹っ飛ばす威力を持っていた。
状況がよく読めていない彼女の様子を見るに、まさかとは思うが雷魔法について知らなかったのではとトキは考えた。
「く~~~!なんなのよ!?」
そんな彼女をよそにライは次の魔法を発動準備にかかる。
(あっちゃ~やっぱ照準が甘いな。ま~初戦のはうまくいきすぎただけだし。次だ、次)
交流戦で披露しているライの雷魔法『直雷』は任意の空中に魔力を放出して雷へと変換し、方向性を持たせて動かすというものだ。
変換と同時に動かさなければ霧散してしまうため、照準するには時間が少なすぎてどうしても目標とはズレが生じてしまう。
任意ではあるものの、相手にとって防御しにくく、自分からも見えやすい前方の空中(目標の10m上空)が最もズレが少ないのだが、それでも最大で3mは外れてしまうのだ。
1m以内に収まるのは10回に3回程度である。
相手がかなり攻撃力のある魔法を使うということだけは理解したシルエは、魔法を発動しすぐさま立ち上がった。
「やってくれたわね!」
今度は右手に大きな盾が出現する。
(いやはや、無駄に才能があるな。固定型とはいえ、5つも展開するとは)
全身を隠せるほどの大きさで尖端が鋭く尖ったホームベースのような形で厚さもかなりありそうだ。
だいぶ重たそうではあるが、彼女はそれを頭上に掲げ前進し始めた。
そこへ雷魔法の二撃目が襲いかかる。
今度は直撃コースだ。
「ぐぅっ!!」
彼女はそれを耐え切った。
(あの体格で信じられないくらいタフだな。ん……?)
シルエは気合を入れてさらに前進を再開する。
(痛くないのか?いや……まさか治癒魔法も使えるのか?)
シルエの適正属性は土と水が飛び抜けており、他の属性は全く使えない。
剣魔十傑である祖母の背中を追って強さを求めた結果がこのスタイルだ。
体術を磨き、体を鍛え、治癒魔法によって倒れない拳闘士。
男に負けるパワーは装甲で攻撃、防御共に底上げし、それを支える体力を身につけた。
自分には派生の金属性の適正がなかったために幼少時より鍛えた力だった。
一方、攻めてはいるものの相手の防御が固い様子を見てライは迷っていた。
(どうするべきか……。このまま距離をとって遠くからチクチクやるか?盾のせいで構わずに前進してきてるし……。これ燃費悪いんだよな~。これ以上手の内晒すのは嫌だけど……)
派生属性は魔力消費量が多い。
これはまだ未熟なライの雷魔法にも言い当たる点で、直雷ならば7、8発程度しか発動することはできない。
悩んだ結果、ライは行動に出る。
その行動に観客が湧き上がった。
優位に試合を進めていたにもかかわらず、自分から相手に向かっていったのだ。
(盾をなんとかしないとズルズルいくような気がするんでね)
接近戦は望むところと、シルエも盾を正面に持ってきて構える。
すると、盾をライに向かって蹴り飛ばした。
「うぇ!?ぐぁ!!」
予想だにしない攻撃がライ=エンを直撃する。
「とりあえず一発は返したわよ。あと百発は蹴り飛ばしてやるけど、ねっ!!」
倒れ込んだライに飛び蹴りをする。
転がるようにそれを回避したライをシルエの追撃が襲いかかる。
シルエの攻撃はほとんどが蹴撃によるものだ。
それは一連の流れの中で繰り出しているようで途切れることはなく、まるで舞っているかのような連続技だ。
息付く間もない連続攻撃に、回避がやっとのライはどうにか反撃の糸口を見つけようと必死だった。
相手の体格からして威力はそうでもないかと思っていたが、風を切る音は鋭く、かすっただけでも皮膚が切れることから相手を甘く見ていたことを痛感していた。
装甲部分で蹴られればかなりのダメージを負ってしまうだろうと危険に感じ、直撃だけは避けようとしている。
(盾はなんとかなったのに。体術はあっちが上か。一撃でいい。視線が切れた瞬間に……)
「この!しつ、こい!てーのっ!!」
(くっ!今だ!)
シルエが立ち上がったライに左のハイキックをし、それを下に躱されるとそのまま右の回転廻し蹴りへと繋ぐ。
ライはそれを敢えて前進して胴体で受け止め、一瞬背を向け視野が途切れたシルエに雷魔法を放った。
バシィィィ
ドゴッ
「あぐぅっ!」
「ぐぁぁぁああ!」
ライは横に吹き飛び、シルエはその場でガクッと糸が切れたように膝をついた。
超至近距離から放たれた雷魔法は指向性を持たせないスタンガンのような魔法だ。
ライは近距離戦用のこの魔法を散雷と呼んでいた。
威力、射程ともに直雷にはかなり劣る。
とは言っても、すべての雷魔法に共通することだが、当たれば二次効果が生まれる。
「くっ……か、からだ、が……」
散雷によって体が痺れてしまい、思うように動かせなくなるのだ。
「いっつぅ~~~。これは効いた」
脇腹を抑えながらライが立ち上がり、シルエの方を見た。
「少しの間だけだけどうまく動けないだろ?どうする?降参するか?」
「だ、れが降参……って?」
「……わかった」
返答を聞いたライはすっと上空に手を伸ばす。
そして、狙いを定めて諦めの悪い相手に向かって直雷を発動する。
閃光と爆音が会場を包む。
決着がついたと、誰もが思った。
しかし、直撃したはずのシルエはまだ動けそうにしていた。
「まだ、まだ……。……たしは、たたか……る」
「ま、まじか……。なんつうタフなんだ……」
ライの二度目の直雷が被弾。
これによってようやくシルエは意識を失った。
「試合終了~!白熱した三回戦第三試合はライ=エン君が見事シルエ=ストックフォードさんを下しました!」
「ストックフォードさんもいい線いってたんですがね~。いや~どちらが勝ってもおかしくないいい試合でした」
倒れたまま係員によって運ばれていくシルエをトキはニヤニヤしながら見ていた。
(最後はいい声で鳴いて欲しかったな~。ゲロロ~!?って(笑。まぁ少しはライ=エンの手札を見せてくれたから拍手を送っとこうか)
この試合でいくつかわかったことがある。
ライ=エンの雷魔法は最初の魔法が最大威力であること。
おそらくあれを何発も打てるほど魔力がないこと。
やはり溜めが必要で4,5秒はかかること。
発動及び誘導には右手を使い、最後に見せた魔法も右手から発動させていたこと。
それによって大まかな目標は把握できると推察した。
(ぼさっとしてるか、あの麻痺攻撃を喰らわない限りは大丈夫そうだな)
対策は十分だと判断し、思考を打ち切る。
「あのしぶとさというか頑丈さはどういったワケだ?」
「有り得ないよね。普通かすっただけでも失神してしまいそうなんだけど」
「治癒魔法……かしら?」
ケオランたちの疑問ももっともだった。
「そうだとしたらかなり器用というか、根性があるというか。怪我してて自分に治癒魔法をかけるのって大変じゃね?」
「最後のは当たる瞬間か、その前から治癒してたからなのかな?強靭な精神力がないとできないだろうね」
「それ以外の魔法についても相当器用と言えるわよね。あれで年下っていうんだから、嫌になるわ」
どういった経緯であれだけの技術を身につけることができたのか、皆は不思議に思っていた。
(祖母っていう身近な壁を越えようとした結果、かね。まっ、努力はしたんだろうな)
その結果、周囲との隔たりを作ることになった。
皆、祖母の強さには憧れるだけで、自分ほど努力し現実的に目指すものはいなかったのだ。
ライバルと言える同世代の人間がいなかったことがシルエにとって最大の不幸と言えよう。
最初は皆に発破をかけていたシルエだが、いつまでたっても変わらないため、徐々に刺々しく当たるようになっていった。
周囲の状況はクロウリア魔法学園に入学してからも変わらなかった。
志は低く、ただ単位を取って卒業することに注力する生徒たち。
教師たちも授業に則した指導を重視し、作業のように繰り返す毎日。
強さを求めるシルエとは方向性が違っていた。
幼い頃とは違い、祖母も忙しくて手合わせする機会はほとんどなくなり、シルエが入学してからは特別扱いすることはせずに友達を作ることを勧めるようになった。
「私は友達が欲しいんじゃない!ばあちゃんみたいに強くなりたいの!」
孫が周囲から孤立していることを聞いていた祖母はシルエに独りきりの学生生活を送ってもらいたくはなかった。
だが、シルエは頑としてクラスに溶け込もうとはしなかった。
交流戦に出るように勧めたのも、シルエの実力が評価されただけではなく、現状を変えるきっかけになってくれればという願いもあった。
そして、結果はベスト16止まり。
自分が同世代では最強と信じて疑わなかったシルエは看護室で目を覚まし、涙を流していた。
悔しかった。
よりにもよって自分は適正がなかった派生属性の使い手に敗北。
自分はあれほど努力したにもかかわらず、依然として越えられない壁がシルエの前には立ちはだかっていた。
天才――そういった者には努力だけでは勝てれないのだと思い知った。
涙を隠すように腕で目を覆っていると、看護室を訪ねてきた者がいた。
「ストックフォード……」
「あ……」
それはクロウリア魔法学園の面々だった。
「ごめん、なさい……。大口叩いてたのに……負けてしまって……」
意気消沈していたシルエは素直に謝罪の言葉を口にした。
そのようなことを聞いたことがなかった一同は驚愕する。
「……いや、いい試合だった。諦めずに……よくやってくれた」
生徒会長のイーアン=ストリトスがシルエを労う。
他の生徒たちも次々に口を開いてはシルエの健闘を讃えた。
「お前に頼りっきりだった俺たち上級生が不甲斐なかった。すまない」
上級生たちが揃ってシルエに謝罪する。
「もう俺たちの交流戦は終わってしまったけれど、次回は上位を狙えれるように後輩の育成に努めよう。クロウリアは、こんなもんじゃないんだ。お前を見習って努力して、今度は勝てる強さを身に付けよう」
「……はい」
返事をしてシルエの目から拭っていた涙がまた溢れ出した。
女生徒たちがシルエに寄り添う。
交流戦が終わってからようやく、彼らはその心をひとつにすることができた。
大きな失敗を糧にして、クロウリア魔法学園はこれから立ち直ることになる。




