6話 修行のち妹
新暦1337年 ガレリア大陸 カルティア王国 ファウスタイン侯爵領 パイオニル村
さて、魔法についての続きだが、魔力の認識・操作については問題はない。
発動するには手をかざすのが良いとされており、魔力を手に必要分だけ集中させ、放出する。
そして、目的とする魔法を頭に思い描き、規模に適した魔力量を調整すればいい。
繰り返し発動することで、消費魔力量や発動時間は大幅に短縮されていく。
あとは適正次第、といった具合だ。
リリー指導のもと、各属性の適正判断に用いられる初期魔法を発動していった結果が次の通りだ。
風>闇>水>光>火>土
火、土はほぼ適正なし。
ちなみにリリーは水と光属性が得意で回復系魔法に長けているという。
風は攻撃魔法に長けているとされ、闇は隠密行動に使われるのが主らしい。
狩人としては結構いい線なんじゃないだろうか。
しかし、水属性が微妙で俺アイスマンができなさそうな結果にうなだれてしまった。
「トキは魔力量も多いと思うし、立派な魔法使いになれるわよ」
グスン。慰めてくれているのだろうか。
「ん?僕って魔力量多いの?」
「ええ、多分だけど。小さい頃から泣くたびに大きい魔力の放出がみられたから。誤って魔法が発動しないかヒヤヒヤだったのよ。それに今だって少しくらい魔法を使っても疲れることもないでしょう?」
(そっか、発動のキーとなる世の理への介入ってのがなかったからなんだな。でも、今でこそ普通に発動してるけど、ただ魔力を放出するのと何が違うんだろ?)
不思議に思い聞いてみた。
「ねえ、母さん。なんでそのときは魔法が発動しなかったの?なんで今は魔法が発動するの?」
「そこはうまく解明されていないのよ。魔法は魔力と頭に思い描くことが必要だから、ある程度自意識持つくらいまで成長して魔法を見たり教えたりすると、できる人はできる、みたいなのよね。トキはしっかりしているからこの年齢で教えているけど、赤ちゃんや危険性を理解できない年齢の子供には魔法を見せないようにするのは常識ではあるわね。事故を起こさないために」
「ふ~ん。」
(ファンタジーの一言で片付けたくないんだけど、魔力っていう未知の力が人間の脳とかに何らかの影響を与えてるのかな?)
「さて、じゃ~今後は風、闇、水の属性を集中的に練習していきましょう」
「は~い」
それから、魔法の修行が始まって1年がたった。
俺の一日はまず日の出とともに起床。
井戸から水を汲み上げ顔洗った後、村の中を10周ランニングする。
まだ村を出ることを許されていないためだが、これでも3kmくらいはあると思う。
4歳なのでかなりきついが、欠かさずしている。
その後に動的・静的ストレッチを行う。
最初は物珍しい様に村の人に見られていたが、もう日常風景だ。
これが終わったら汗を拭いて朝食などのリリーの手伝いをする。
午前中は座学、昼食と昼寝を挟んで午後は魔法の修行だ。
この世界には、ここガレリア大陸以外にも大陸があるそうだが、噂や伝承程度で事実かは定かでないらしい。
ガレリア大陸には現在5つの国があり、おおまかに北部にアルゼン帝国、西部にサルンガ共和国、北東部にタルム女王国、南東部にナルビス王国、南部にカルティア王国がある。
東南部の3カ国は同盟を結んで大国アルゼンとサルンガに対抗していて、小競り合いも頻発しているそうだ。
戦争とかほんと勘弁してほしい。
そして、ここパイオニル村はカルティア王国の南西に位置するファウスタイン侯爵領のさらに南西部にあたる。
サルンガ共和国に近いが、南北にわたるバドワイ山脈のおかげで他国の侵略の手からは遠い場所になっている。
「ここまでは復習ね。トキ、よく覚えているわね。じゃあ通貨についても復習するわよ」
「うん。通貨は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨で、白金貨のみ100枚、ほかはそれぞれ10枚で繰り上がるんだよね。うちみたいに3人家族だと1日におよそ銀貨3枚かからないくらい」
「……違うわ」
「えっ?あれ?間違った?銀貨5枚だっけ?」
「銀貨3枚弱であっているけど、明日からは3枚以上かかるかも……。生まれそうだから」
「…………」
「トキ。落ち着いてゆっくりでいいから産婆のおばあちゃんを呼んできてちょうだい」
リリーはそっとトキの肩に手を添えた。
フリーズ状態のトキは落ち着いてという言葉に無意識に思考を曲げた。
(落ち着いて。OK、アイスマンに俺はなる。Be Cool。ふー。よしっ!)
「チ○ッパァァァァアアアアアアアア!!」
トキは落ち着いていなかった。
その後駆けつけた産婆のおばあちゃんとロクス立ち会いの元、元気な声がゼペルルクス家に泣き響いた。
「トキ、ほら。あなたの妹よ。抱いてみる?」
リリーに抱えられた妹を大事に大事に支えた。
(軽い。けど暖かい)
「名前は?結局名前はどうしたの?」
「この子の名前はリアゼ。リアゼ=ゼペルルクスだ」
ロクスが破顔しながら答えた。
「リアゼ、かわいいリアゼ。お兄ちゃんが守るからな」
一同満面の笑みをこぼしながら、それを見守るのだった。
こうしてゼペルルクス家は4人となった。
確かな幸せがそこにはあった。