4話 自問自答
新暦1334年 ガレリア大陸 カルティア王国 ファウスタイン侯爵領 パイオニル村
天井を見上げる。
何故だろう、そして何度目だろう。
なんとなく言いたくないセリフが思い浮かんだ、ような気がする。
視界が徐々にはっきりしてきたおかげか、ここ数日で少しは思考も回るようになってきた。
しかし、疑問ばかりしか浮かばない。
(俺は誰で、ここはどこだ?)
そもそも一人称が「俺」だったのかも思い出せない。
意味不明な状況に置かれ、それに伴ってストレスが溜まるように胸辺りがモヤモヤしてくる。
これも何度目になることか、モヤモヤが大きくなり俺は泣き出してしまう。
泣くつもりはないのに、気持ちとは反対に体が勝手に反応する。
泣き声を上げていると、程なくして扉を開けて入ってきた人が俺を抱き上げあやし始めた。
(あぁ、この女性か……)
ここ数日、この女性に抱かれては安心感を覚えている自分がいる。
とにかくとして俺は今、赤ん坊になっているようだ。
落ち着いた俺がウトウトして眠りにつくと、その女性はそっとベッドに戻した。
最近はずっとこんな調子だ。
眠くては泣き、お腹が減っては泣き、漏らしては泣き、現状に腹が立っては泣く。
それに伴って胸のモヤモヤが大きくなると、感情も行動も全くコントロールできなくなる。
赤ん坊は泣くのが仕事だとはいうので仕方がないことなのか。
否。
このまま何も解決せずわからないことだらけの現状にはなぜか我慢ならなかった。
胸のモヤモヤが大きくなるとどうにもならなくなるので、常時からモヤモヤ気味なコレを抑えようとしてみた。
コレというのも、「胸の中にあるモノ」としてはっきり感じることができた。
うん、鬱陶しいのでもう「ヤツ」と呼ぼう。
ヤツは胸を中心深くからアメーバ状に動いており、少しちぎれては体のあちこちへ散っていっている。
アメーバ……いや、あまり深く考えてはダメだ。
また泣くハメになる。
(落ち着こう、be coolだ。I'm ice man.maybe……)
そんな風に集中しているとヤツが小さくなった。
アイスマン効果に驚きを隠せない。
しかし、残念ながらヤツは手強く、すぐにまた大きくなってしまう。
結果――
うん、また泣いてしまいました。
マミーごめんなさい。
深く息をつく。
こうして落ち着いた時は小さくなっている気になるあの子。
(アイムアイスマン、アイスマン、アイスマン)
落ち着いて、深呼吸を繰り返す。
この体では深呼吸をすることも難しい。
だが、必要なことだ。
アイスマンも必要なことだ。
なぜかそう思い、何日もそれを愚直に繰り返した。
ひと月ほどたっただろうか。
俺はクールで一人前のアイスマンになっていた。(ヤツを制御していた)
今では頭ではクールに、熱いホットショットを決めれるまでに成長していた。(漏らしても泣かなくなっていた)
さらに、ホットショット後の決めポーズもクールに決めれるまで飛躍していた。(両足を持ち上げられて秘部を拭かれる毎に枕は静かな涙で湿っていた)
最近では泣き叫ぶことも少なくなり、母親はそれが残念なのか、不安なのかといった表情をみせて話しかけてくるようになった。
言葉のほうは未だよくわからない。
何度も俺の方に向かって呼びかけることがあるので、それが呼び名ではあろうが……。
まあ、そんなこんなでだいぶ物事を落ち着いて考えれるようになったつい先日。
なぜ自分という自我が既にあるのか、という疑問について考えてみた。
無駄に知識というか、どこかにとっての常識的な見識を持った自分。
思い浮かんだのが転生、憑依。
そして思い出した、断片的な記憶――
俺には前世で家族がいた。
家族仲は異様によかった。
そして俺が16歳の時、家族――父、母、弟が事故で死んだ。
俺にはどうしようもなかった。
~たら、~れば、なんていっても意味はなかった。
高校から離れた幼馴染のあの子は、イジメにあって年間自殺者数3万人の内の一人に埋没した。
家族がいなくなってからも時々会いに来てくれていたあの子がどんな状況にあったのかなんて、俺は歯牙にもかけなかった。
絶望し、落胆し、思考も停止した俺は彼女と同じ中に埋没した。
あの時の俺の名前は鳴神一時。
もう会えない家族と幼馴染のことを思い出して、俺は静かに涙した。




