1話 無人の村
処女作です。長い目で見て頂ければ幸いです。
強くなろうとする主人公の(本人は希望していない)成り上がりストーリー。
1章導入編、2章過去編、3章旅立ち&修行編(ジジイ登場)、4章冒険者編、5・6章学園編、7章動乱編です。
新暦1339年 ガレリア大陸 カルティア王国 ファウスタイン侯爵領南西部
名も無き深い森、人が住み着きそうにもない深い森があった。
ガラガラと音を立てて進んでいる馬車が粗く、街道とも呼べぬ轍を走っている。
ここは危険な生物が蔓延る魔の森の近くであり、右手には草原が広がり、暗い不気味な森とは対象的に心地のよい風が吹いていた。
護衛であろう軍馬に乗った騎士達は周囲を、主には森の方向を警戒しつつ進んでいる。
といっても、森の奥深くならいざ知らず、森の外まで出てくる危険な生物はあまりいない。
目的の村まで残り半日といったところであろうか。
そんなことを思い浮かべていた護衛の一人が前方の道端で黒い物体を発見した。
まだ距離にして数100mは先ではあるが、確かに見慣れぬ何かがそこにある。
馬車一台に対して護衛の騎馬は8騎。
2列縦隊となって馬車を挟んでいる。
発見した護衛は護衛隊長たる自分の上官に確認をとり、先頭の2名で先行して偵察に出ることにした。
自分の愛馬を駆けて黒い物体に近づくと、護衛はそれが人間の子供であることに気づいた。
急いで馬から降り、子供に近づく。
うつ伏せに倒れていた5,6歳くらいと思われるその子供はボロボロになった黒い服を着ていたのだが、その黒さは血によって赤黒く変色したものだった。
「これは……」と若干の諦めが遮り、護衛はゆっくりと子供を抱き支えるように生死を確認する。
頭から先までくまなく黒く血で変色し、体中泥だらけであったが、綺麗に整えれば映えるであろう銀髪が顔に血でへばりつつも、少女とも少年ともとれる端正な顔立ちをしている。
子供の意識はなかったが、抱き支えられるとこぼすように声をもらした。
護衛は少し安堵し、怪我の有無を見てみる。
外傷はカスリ傷程度であり、どうやら変色していたのは返り血のようだった。
もう一人の護衛に報告に向かってもらい指示を待つ。
程なくして残りの護衛と馬車がやって来た。
馬車から降りてきたのは白を基調にしたコートをまとった男女。
年齢は見た目通りならば30歳前後といったところで、どこか落ち着いた上品さを醸し出した雰囲気がある。
男が子供を一瞥し、後ろに控える女へ何か告げようとすると、女はその前にすっと子供へと寄っていった。
子供の状態を見て女は顔に苦い表情を浮かべ、すぐにその子供の胸あたりに手を差し伸べる。
すると、女性の手から淡い光が溢れ、次第に子供は弱々しい呼吸を正常なそれへと戻していった。
皆はそれに安心を覚えつつも同じことを心に浮かべた。
(よかった。しかし、一体どうしてこんな場所で――)
嫌な予感が全員によぎる。
男は子供を馬車へと移させて女に介抱を任せつつ、目的の村を再び目指してその足を急がすことにした。
進む街道が左へと曲がり、その先に村が確認できた。
いや、その惨状が確認された。
踏み潰されたかのような周囲の畑、半数ほどの家屋は半壊しており、もう半数は焼け朽ちている。
そして、村のあちこちに残る血、血、血の跡。
その様子から村を襲った出来事の凄惨さが見てとれる。
護衛2人に慎重に探索を行うように指示し、男は見回した先――村を覆う柵の向こうの畑に刺さった長剣を見つけた瞬間、目を見開き思わず駆け出した。
護衛がその行動に驚いて声をかけるが男は止まらない。
女を囲いつつ男に続く。
男は血に染まった見覚えのあるその長剣を前にして立ち止まり、震えた手でその柄を握って、力が抜けたように膝をつきながら嗚咽を漏らした。
閑散としたその村にただその声は響き、虚しく散っていく。
後の報告書の最後にはこう記される。
パイオニル村の悲劇――
生存者一名 ゼペルルクス家長男 トキニア=ゼペルルクス
指摘・訂正・感想お待ちしております。