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その9


 それはふとした、疑問。





「え……?」


 逆に返された問いに、目を瞬かせる。どういうことだろう。

「お前は、なんで、そこまで変わった」

 学くんは、いきなり何を。

「私は、そんなに変わってないよ」

「嘘つけ」

 そしてなんでいきなり視線が尖って、声音も刺々しくなっているんだろう。何か、わたしの言葉が勘に障ったんだろうか。

「そんなカッコして、浮かれやがって。高校入ってから遊びまくってるのか。気楽なもんだな」

 何を、言っているんだろう。私の格好?

「えっと。どこか、変かな」

 荷物を抱えたまま、服装を見下ろす。ノースリーブのトップスにミニのボトム。至って普通の格好だ。それでも、今日は自分の誕生パーティーということもあって、いつもより少しお洒落目なのを選んだ。それでも、そんなに趣味の悪い色にはしてない。

 その思いで学くんを見上げると、眼鏡の奥の視線がちょっと揺れる。はっきりと目を合わそうとせず、それでもこちらにちらちらと投げかけられるそれは、どこを見てるんだろうか。

「変、ていうか、なんで――」

 そして、どうしてどんどん頬が赤くなっていってるんだろうか。

「なんで、そんなに肌、出してる」

(……はだ?)

 さっきから、学くんが意味不明だ。



 ぽかんとしたままの私。説明を求めようにも、当の学くんが挙動不審だ。さっきから目線が落ち着いてない。そして途中から、コトバも不思議になってる。

「どうして、そんなカッコなんだよ。中学んときは野暮ったいのしか着てなかったくせに、いきなりそんな、」

 頬骨の辺りがもう真っ赤だ。暑いんだろうか。

「き、……」

「き?」

 そして、一体何を言いたいんだろう。

「き、傷だらけじゃなくなったからって、脚丸出しで」

(傷だらけ? あし?)

 確かに昔と違ってあんまり転ばなくなったから、傷だらけではなくなったけど。中学のときは校則に従って、制服のスカートも膝下でおさめてたけど。今は特に注意されることも無いはずだ。普段着としての太腿丈のショートパンツ、そんなにおかしいだろうか。どもってる学くんも初めてだ。

「上だって、どうしてそんなの着てる。前は腕出したくないって言ってたくせに、どうして、そんな、か、……」

「か?」

「ッ、か、肩まで出して」

 袖なしカットソーがそんなに見るに堪えないんだろうか。確かに中学時代はぷにぷにしてた部分恥ずかしかったからノースリーブは避けてきたけど、定期的に運動するようになって多少締まってきたし、高校生の普段着としてそういう格好のひとは珍しくない。だから思い切って着てみたのだけど。

「似合わない、かな」

「似合うとか似合わないとかじゃなくて、どうしてそんな短いの着てるんだってことだよ」

 どういうことだろうか。

「そんなに、見せたいのか」

「見せたい……? え、そんなわけじゃないよ」

「じゃあ、なんで」

 初めてだ、学くんがこんなに苛立ってる声音なのは。それだけ動揺が大きいってことだろうか。それともお洒落な女の子を見慣れてる学くんにとって、ファッション的に赦せない箇所があるんだろうか。それとも小さい時から見知ってる妹分がいきなり露出度高めの服着てることが、兄貴分としてハシタナイと感じたんだろうか。

(多分、そういうことだろうな)

 察しがついたので、納得してもらうように軽く説明する。

「今日はちょっと暑かったから短いのにしちゃったんだけど。いつもはもっと長いの穿いてるよ。あと、上も新しく買ったばっかりの、着たかったの。丁度友達が誕生会してくれたから、お試しとして着てみただけ。だから、普段はこういう格好はしてないよ」

 だから、学くんが心配する必要は無いんだよ。その意を込めて見上げる。視線が合って、端正な目元はやっぱり赤くなった。かつてと違う学くんの態度、でもそのお陰でこちらの言葉は流されてない。きっとわかってくれてるはず。

 しかし、次いだ学くんの言葉は。

「だったら、すぐやめろ」

「え」

 理不尽、だった。

「みーの分際でそんなカッコ、十年早い。すぐ着替えろ」

「――……」

 ちょっと考えた。いくらなんでも、その言い方は無い。いきなり言われても着替えようも無い状況だし、何よりこっちは冷静に、学くんにわかってもらえるように説明したつもりなのに。

「ねえ、」

「な、なんだよ」

 首を傾げつつ、彼に問う。


「どうして学くんが、そんなこと私に命令するの?」


 眼鏡の奥の瞳が、凍りついたように固まった。



**


「学のヤツ、本命相手にずっとそういう態度取ってきたんだなー」

「うん、桐ちゃんって見かけによらずバ……不器用だったってことだねー」

「でもさ、やっぱ相手のコのせいもあるよな」

「どゆこと?」

「学に悪い意味でべったりだったことだよ。自分の意思とかぜんっぜん伝えないままでさ、学の思うとおりに振舞ってさ。そういう態度取られたら、誰だって調子に乗るだろ」

「うーん、そうかもね。献身タイプの女の子ならともかく、どーやらそうじゃなさそうだし? 又聞きだけど、無理に自分の気持ち押し殺してた感じ?」

「そゆこと。あのタイプのカップルってのは、二人が言いたいこと言い合わないと上手くいかねえんだぜ。これ経験談な」

「マジでー?」

「マジでー」


* *



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