表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

笑顔を手渡す日 ぜんぺん

あとから思いついたネタを思いついた順にアップするのが拙宅クオリティ。

というわけで、時期外れもはなばなしいバレンタインネタです。


 二月十三日。明日は特別な日だ。高校に入学してから、初めてのバレンタインデーとやらである。

「チョコでしょ、生クリームでしょ、グラニュー糖に水飴。あとなんだっけ」

「コンデンスミルクってメモってあるよ」

「そうだった。うし、これで完璧かな」

 これでも私は結構準備する派だ。今年も知り合いの男性陣並び、女性陣に配る分のお菓子を全部手作りするつもり。

「バレンタインデーに手作りスイーツを配る高校生、か」

 買い物メモ片手に、ふっと溜息をつく。

「……我ながら女子力の高さに眩暈がするぜ……」

「はいはい」

 親友は付き合い良く返事をしながら、ミルクの入ったパックをカートに入れてくれた。



 きっと他にも実践しているひとはいるであろう、手作りのお菓子づくり。それはちょっと前から続いてるバレンタインデーの習慣だ。中学校時代、数人の決まったグループでつるむことが多くなってから、その子たちと遊ぶときはちょっとしたことでお菓子を持ち寄ってわいわいするのがクセになった。そうするうち、誕生日だとかのプレゼント代わりにしたり、二月十四日には手作りのお菓子を友達同士で交換するようにもなったのだ。

 バレンタインは決してカップルだけの行事ではない。彼氏がいないコはいないなりに、楽しんでるのである。むなしいとか言っちゃいけない。

「美恵子、今年は何つくるの? わたしは生チョコ」

「ぬふふ、なんでしょーうか」

「あ、ズルい。わたし教えたのに」

 市販のものもいいけど、手作り感たっぷりの温かみはやっぱり他と替えがたい。あと甘いものを人目を気にせずしこたま食べられるのも、普段は料理あんまりしないくせに「あたしってもしかして家庭的なのかも」と勘違い出来るのも、女子の特権だと思う。痛いとか言っちゃいけない。

「買ったものから当ててみたまえ、萩村くん」

「う~~ん……チョコレートとお砂糖、生クリームでしょ。それだけだったら、見当つくんだけど。水飴が入ってるからなぁ」

「ぬふふ」

 休日の部活練習が終わったあと、香織と近所のスーパーで待ち合わせして、いつものように材料買出し。貧乏学生なんで家にあるものでなるべく済ませようと目論んではいるが、大量消費する場合足りなくなるものは流石にある。いつもよりちょっと変わったお菓子を作るときとか、普段はしない高い買い物も抵抗が少ない。製菓用生クリームとかね。

「えっと、ザッハトルテ? スポンジに水飴塗るとか」

「ぶー。それもイイけど大量生産できません。テンパリングとか無理無理無理」

「だよねー」

 配る人数は優に五十人を超える。親しい友達はもちろん、クラスメイトと部活仲間の分も含まれてるから。中学のときはさすがに学級分作ろうとは思わなかったのに、高校に入ってからなんとなく挑戦してみようと思えるようになった。男子も女子も関係なく仲良しな今のクラスが気に入ってるせいもある。

「ぬふふ、萩村くんの推理力も地に落ちたな」

「どうでもいいけど、その笑い方あんまりかわいくないよ」

「マジ? じゃあやめる」

 ただ、大量生産に余計な手間はかけられない。お上品なケーキとかはとてもじゃないけど無理だ。生チョコみたく細かく切り分けられる平たいブラウニーを焼く、という手もあるが、それは去年やった。マンネリを防ぐためにも、一風変わったものを作りたい。

「で、そろそろわかった?」

「なんだろ。わかんない」

 首を竦めた香織は、軽く微笑みながらチョコレートが大量に詰まった袋を両手で持ち直した。なんというか、可愛い女の子と買い物袋の組み合わせって……たまらん。

「明日に乞うご期待!」

「そっか。じゃあ楽しみにしてる」

 個人的な視覚感想は置いといて、今季は高校生としての初めてのバレンタインだ。気合は入ってる。

「まっかせといて」

「ふふ」

 親指を立てて頷くと、チョコレートみたいな親友の瞳が夕日に柔らかく綻んだ。



 というわけで、帰ってからは休む間も無くお菓子作りである。

「ええっと、まずは生クリームにチョコ」

 弱火で温めたクリームに、細かく刻んだチョコレートを混ぜ入れる。別鍋で水飴とグラニュー糖とコンデンスミルクを湯煎。砂糖が溶けてきたら中火にかける。

「煮立ってきたらバター、と」

 鍋肌にぷつぷつ糖分が散っているので、それを水刷毛で落としつつ、混ぜながらひたすら煮る。水分がある程度少なくなったところで火からおろして温めた牛乳を投入、また火にかけて沸騰させ、蒸気が収まったら先ほどの生チョコ(もどき)を加える。しばらく煮て、もういい加減いいだろーと思ったところで火からおろし、ペーパーを敷いた平たい型に流し入れた。

 待つことしばし。室温が低めなせいで、すぐに固まった。

「いーにおい」

 あの匂いがする。ちっちゃい箱を開けて、中からちっちゃい包みを取り出して、暑い日だとくっつく紙に苦労しながらぱりぱりと剥がしたあのときの匂い。

 そう。

「チョコキャラメルかんせーい」

 切り分けた端からくっつかないようにオブラートで包み、色とりどりのセロファンでくるめばハロウィンのキャンディみたいな見かけになる。

「うん、かわいい。……そいで、おいひい」

 ぬふふと笑い、百均で買った袋にがさこそ詰めていく。先ほど切り落とした端っこを味見として頬張ることも忘れない。チョコレートの香りとミルク飴みたいな濃厚な甘さがたまらん。

「さすがだねえ、私」にまにまと自画自賛しながら、はたと気づいた。そういやこの笑いは可愛くないんだっけ。

(バレンタインだし、義理とはいえ可愛い美恵子ちゃんで手渡さないとなー)

 そんなしょうもないことを考えつつ、どんどん新しいチョコキャラメルを作りつつ。私はやっぱり重要なことを失念していた。

 海外伝来の行事が他種多様化している昨今といえど、根本たるバレンタインデーの意義は忘れちゃいけない。本来は恋人たちのための行事、つまり一番優先して手渡すべきひとの分を、準備し忘れていたのだ。


 つまり、去年と今年では違う。今の自分は、彼氏もちだった。




よくありますよねー

夢中になりすぎて本来の目的を忘れるって

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ