第二話 それぞれの想い
伝説の楽園【シャンネラ】を探すため、リカントの村を旅立った2人は、
情報を集めるべく、医療の町シャイナにやってきたのであった。
――――――――――――シャイナ――――――――――――
ウィル「うわぁ、大きい建物がいっぱいだ~」
ジム「これが都会ってやつよ」
ウィル「すごいな~。ジム、あれはなに?」
白い外壁の大きな建物を指差す。
ジム「あれは病院だな」
ウィル「病院?」
ジム「怪我とか病気になった人があそこで治療するんだ」
ウィル「そうなんだ~、入ってみたいな」
ジム「やめとけやめとけ、ロクな所じゃないぞ」
ウィル「そうなの?」
ジム「そりゃあ、針刺されたり、マズーい薬飲まされたりだな」
ウィル「うぅ・・・いやだなぁ」
ジム「だろ?あんな所、普通の奴なら行きたがらないよ」
そんな話をしていると、2人の背後から少女が怒った様子で話しかけてくる。
少女「ちょっとあんたたち!」
ジム「なんだおまえ?」
少女「さっきから聞いてれば、なに?病院がどれだけ大切な場所か知りもしないでベラベラと」
ジム「俺が嘘言ってるっていうのかよ!」
少女「誤解を招くような説明するなって言ってんのよ!」
ジム「なんだとー!」
今にも喧嘩を始めそうな二人を体を張って止めようとするウィル。
ウィル「2人ともやめてよ~」
ジム「止めるなウィル!売られた喧嘩は買わなきゃ男じゃねぇ!」
少女「女相手に本気になって、なにが男よ!」
ウィル「あ~もう~」
騒ぎを聞きつけて、病院から出てきた1人の女性が喋りながら近づいてくる
女性「マリーやめなさい」
マリー「ミネアお姉ちゃん!」
ミネア「2人ともごめんなさいね。この子ったらすぐ喧嘩するんだから」
マリー「だって、あいつが病院が嫌な所みたいな事言ったのよ!?」
ミネア「だからって病院の前で大声出して喧嘩していいの?」
マリー「うっ・・・」
ミネア「喧嘩をするのは構わないけど、時と場所を選びなさい」
マリー「ごめんなさい」
2人のやりとりを見ていたジムも冷静になりマリーに謝る
ジム「あの、俺もちょっと言いすぎた、わりぃ」
ミネア「うふふ、わかってもらえればいいのよ。ね、マリー?」
マリー「あたしも、その、いきなり怒鳴ったりしてごめん」
ミネア「はい、一件落着~♪」
マリー「う~、・・・そうだわ!」
そこでマリーにあるアイデアが浮かぶ
ジム「うわ~、嫌な予感」
マリー「2人に病院がどういう所か、実際に体験してもらいましょうよ♪」
ウィル「えぇー!」
ミネア「あらあら、それはいいわね~」
ジム「うわぁぁ勘弁してくれぇぇ」
マリー「男なんだからぐだぐだ言ってんじゃないの」
ミネアに引きずられながら病院へ入る4人
――――――――――――――病院内――――――――――――――
ミネア「ここが薬を調合する部屋」
ウィル「うわ~、すごい数のビンだ」
ジム「薬は苦いからダメなんだよな~、俺」
マリー「良薬口に苦し、って言って苦い薬はよく効くのよ」
ミネア「そうね~、でも美味しいに越したことはないわねぇ」
ジム「いやー、お姉さんは話がわかるな~。マリーと違って」
マリー「あんたねぇ・・・」
ミネア「うふふ、次の部屋にいきましょう」
ミネア「ここが診察室よ」
ウィル「気味の悪いモノがいっぱいありますね」
マリー「これは人間の体の模型よ、頭蓋骨 骨盤 内臓」
ウィル「う~、そういうの苦手なんだ」
マリー「だらしないわねぇ」
ジム「お前が強すぎるんだっての」
マリー「なんですってー!?」
ミネア「はいはい、2人とも次の部屋にいきましょう」
ミネア「ここは薬草の栽培をしている部屋よ」
ウィル「なんだか、良い匂いがします」
ジム「ん?言われてみれば確かになんか甘い匂いが」
ミネア「あら~、よく気がついたわね~」
マリー「ここにある花は薬草にもなるけど、匂いを嗅ぐ事で心をリラックスさせる効果もあるの」
ウィル「う~ん、なんだか眠くなってきました」
ジム「どんだけリラックスしてんだよ・・・」
ミネア「うふふ、人によっては効き過ぎちゃう事もあるのよ~」
ウィル「すやすや・・・」
ジム「おいおい、本当に寝ちゃったよ」
ミネア「あらあら、しょうがない子ねぇ。マリー、お家に連れてってあげなさい」
マリー「わかったわ。ちょっと黒いの、その子を運びなさい」
ジム「わかったよ、ってか黒いのって言うな!俺の名前はジムだ。ついでにこいつはウィル」
マリー「じゃあ、ジム。ウィルを運んでちょうだい。家に案内するわ」
ジム「くそ~、ウィルの奴、幸せそうな顔しやがって~」
寝てしまったウィルを背負い、マリーの家に向かうジム
――――――――――――――マリーの家――――――――――――――
マリー「ただいま~」
ジム「お、お邪魔します」
マリーの母「あら、おかえりなさい。後ろの2人は?」
マリー「あー、色々あってね。ウィルって子が寝ちゃったから家に連れてきたのよ」
マリーの母「あらあら、それは大変ね。布団に寝かせてあげて」
ウィルを布団に寝かせてようやく解放されたジム
ジム「ぷはっー、死ぬかと思ったぜ」
マリー「オーバーね」
マリーの母「お茶くらいしかないけど、どうぞ~」
ジム「あ、どうも。いただきます」
マリー「そんな事あたしがやるから、お母さんは休んでていいよ」
マリーの母「大丈夫よこれくらい・・・ゴホッゴホッ」
マリー「ほらぁ!やっぱり無理するから・・・」
ジム「お母さん病気なのか?」
マリーの母「病気って言ってもそんな大した事・・・ゴホッゴホッ」
マリー「もう!お姉ちゃん呼んでくるから、じっとしててよ!」
母親の体調が悪くなり、姉を呼びに病院へ行くマリー。
マリーの母「ゴホッゴホッ・・・。せっかく遊びにきてくれたのに、ごめんなさいね」
ジム「いえ、そんな。俺達の方こそ、いきなり押しかけてしまってすいません」
マリーの母「うふふ、いいのよ・・・。私がこんな体だから子供達には苦労させてね」
深刻な面持ちで話すマリーの母親を見て、静かに耳を傾けるジム
マリーの母「特にマリーには同年代のお友達なんていないと思うの」
/「貴方達を連れて来た時ね、あの子すごく楽しそうな顔してたのよ」
/「だから、ついつい私まで嬉しくなっちゃってね・・・ゴホッゴホッ」
咳き込む母親の背中をそっとさするジム
ジム「事情はわかったよ。マリーの事を思うなら、無理しちゃダメだって」
マリーの母「うふふ、あなたは優しい子ね。よければマリーと仲良くしてあげて」
ウィル「う~ん」
ようやく起きるウィル
ジム「やっと起きたか~」
ウィル「あれ?ここは?」
ジム「マリーの家だよ。お前が病院で寝ちまったから、俺が運んできたんだぞ」
ウィル「うわぁ、ごめんジム」
ジム「へへへ、いいってことよ」
そこへミネアをつれて戻ってくるマリー
ミネア「あらあら、お母さん大丈夫~?」
マリーの母「すこし咳がでただけよ」
ミネア「私はお母さんの容態を見るから、あなた達はゆっくりしててね~」
そう言って奥の部屋に入るミネアとマリーの母
マリー「ジム、お母さんから何か聞いた?」
ジム「あぁ、少しな」
マリー「お母さんはなんて言ってたか知らないけど、変な誤解しないでよね」
ジム「ちょっとこい」
マリー「ちょ、ちょっとなによ!」
ウィル「どうしたのジム!まってよ~」
突然、マリーの腕をつかみ外へ連れ出すジム。訳もわからず後を追うウィル
――――――――――――マリーの家の前――――――――――――
マリー「いたた、痛いって、放してよ!」
ジム「おまえ、母親が自分の事どう思ってるか知ってるか?」
マリー「知らないわよ」
ジム「自分のせいで、お前と姉さんに苦労かけてるって、悲しそうに話してたよ」
マリー「・・・。だからなによ、あんたには関係ないでしょ!?」
ジム「いーや、関係ある。こちとら、お前と仲良くしてくれって頼まれてんだ」
マリー「あたしはあんたと仲良くしたくないし、するつもりもないわ。話はこれで終わり、じゃあね」
その場を立ち去ろうとするマリーを挑発するジム
ジム「そうやって逃げるのか?」
マリー「・・・」
ジム「いい加減に気づけよ!お前のそういう所が母親に心配かけてるんだろ!?」
マリー「あんたになにがわかるのよ!?あたしがどれだけ母さんの事心配して、世話してると思ってるの!?」
ジム「そりゃ、よくはわかんねぇよ。けど、一つだけわかる事がある。お前のやってる事は、ただの自己満足だ」
マリー「自己・・・満・・足?」
ジム「母親を心配してるだの、世話してるだの、言ってる事やってることは立派だ」
/「だがな、誰がいつお前にそんな事頼んだ?お前が母親の立場ならそんな事されてうれしいか?」
マリー「うっうぅ・・・うえええぇん」
ウィル「あわわわ」
突然、堰を切ったように泣き出すマリー。その姿を見てあたふたするウィル。
マリー「わたしだって・・・、ヒックヒック・・・、もう、どうしたらいいかわかんないんだもん・・・」
ジム「なにか事情があるなら話してみろよ、俺達にも協力できる事があるかもしれない」
/「それに、誰かに話すだけでもすっきりするもんだぜ?」
ウィル「うん、そうだよ。僕達に話してみてよ」
マリー「うっうっうぅ~、2人とも・・・」
ようやく泣き止んだマリーから事情を聞く2人
マリー「母さんが重い病気なのは知ってるでしょ?」
ジム「あぁ、でも治らない病気じゃないんだろ?」
マリー「うん、でも病気を治すために必要な薬草が、とても希少なモノなの」
ジム「なんて名前なんだ?」
マリー「オルナ草」
ジム「あー、わりぃ。わかんねぇや」
マリー「でしょ・・・」
ウィル「そのオルナ草って、お店とかには売ってないの?」
マリー「売ってるけど、買おうと思ったら家が3軒は建つわよ」
ジム「げぇ~!マジかよ・・・」
ウィル「とてもじゃないけどそんなお金ないね」
マリー「だ・か・ら、あたしもどうしたらいいかわかんないのよ・・・」
しばらく沈黙する3人。すると、ジムがオルナ草について尋ねる
ジム「オルナ草ってのはどういう所に生えてんだ?」
マリー「ん~、普通は険しい山なんかに生えるわね」
ジム「山か~」
ウィル「普通じゃない所って?」
マリー「あ~、これは噂なんだけどね、シャンネラって知ってる?」
ウィル「うん、これから行こうと思ってるんだ」
マリー「そこには沢山生えてるらしいのよね~」
ウィル「へぇ~」
マリー「・・・えっ?今なんて」
ウィル「へぇ~」
マリー「その前」
ウィル「これから行こうと思ってるんだ」
マリー「あんたそれ本気で言ってんの!?」
ジム「そいつが嘘つけるように見えるか~?」
マリー「見えないわね」
ウィル「えへへ」
ジム「おーい、褒めてねえぞ~」
マリー「あんた達、本気でシャンネラがあると思ってるの?」
ウィル「うん、もちろんだよ!」
ジム「なぁ、マリー。お前もこないか?」
マリー「はぁ?なんでそうなるのよ」
ジム「よく、考えてみろよ。この町にいたってオルナ草は手に入らない」
/「それに、あの様子だと・・・、そんなに時間はないんだろ?」
マリー「・・・」
ジム「まぁ、無理にとは言わないけどな。俺達が町にいる間に考えておいてくれ」
そう告げるとその場を後にするジム。
ウィル「マリー。ジムは口は悪いけど、本当はすごく優しいんだ。だから、その、ジムと仲良くしてね」
マリー「ふふふ、わかってるよ」
ウィル「えへへ、ならいいんだ」
ジム「おーい、ウィルー置いてくぞ~」
ウィル「待ってよジム~」
ジム「なに話してたんだ?」
ウィル「うーん、内緒」
ジム「なんだとー、このこの」
仲良さそうに喋りながら歩いていく2人の後ろ姿をじっと見つめるマリー
マリー「シャンネラか~・・・」
ミネア「あなたも行きたいんでしょ?」
マリー「わわ、お姉ちゃん!いつからそこに・・・」
ミネア「うふふ、ここはお家の前よ」
マリー「あー!って事は、お母さんにも聞かれたかな?」
ミネア「それはもうしっかりとね」
マリー「あちゃー」
ミネア「あなたがついて行きたい、って言うのなら、姉さんもお母さんも反対しないわよ」
マリー「本当?」
ミネア「えぇ。それにあの2人だけじゃ、怪我した時、大変よ~」
マリー「・・・そうだね。うん、私行ってくる!」
ミネア「じゃあ~はい、これ」
マリー「なにこれ?」
ミネア「着替えと~医療キットと~その他色々ね」
マリー「あたしが行くって、わかってたのね・・・」
ミネア「うふふ、早く追いかけないと2人を見失っちゃうわよ」
マリー「うん、お姉ちゃんありがとう!行ってきます!」
ミネア「そうそう、忘れてたわ。シャンネラに行くにはね、妖精の涙が必要よ」
マリー「妖精の涙?」
ミネア「えぇ、【妖精が涙を流す時、虹の橋は架かる】そういう言い伝えがあるわ」
マリー「わかったわ、伝えておくね」
こうしてマリーは2人の後を追いかける
マリー「2人とも待ちなさいよ~」
ジム「おっ、行く気になったか」
マリー「姉さんが行けって言うから仕方なくね」
ジム「素直じゃねーな~」
ウィル「あははは」
マリー「それで、シャンネラが何処にあるかわかってるの?」
ウィル「それがまだ【虹の彼方にある】という事しかわかってないんだ」
マリー「そんな事だろうと思ったわ。姉さんから伝言があるの」
姉に言われた通りに伝える
ウィル「妖精の涙か~」
ジム「この町にはこれ以上情報は無さそうだし、次はワンタイに向かうか~」
マリー「芸術の町ね」
ウィル「楽しみだな~」
こうしてマリーを仲間に迎えた3人は、次なる目的地ワンタイへ向かう。 第二話 完