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第七章

毎年1話ずつの更新だとして後2年くらいか……。

目標:年内完結

 どれほど歩いたろうか、しとしとと生温い雨が降ってきた。ただでさえ暗く歩きにくい山道が更に厳しい道のりになっている。

 バートは過去の日々を思い出していた。



   ~~~~~~~~~~~~~      ~~~~~~~~~~~   



 ――場末の医局。

 「ってな感じで帰る場所が無いんで、しばらく置いてくれ」

「突然訪ねてきたと思ったらなんなんだよお前らは……」

「行く当てが割とマジでここしかないんだ。頼む」

「お前はまだしも片割れ誰だよ……勝手に客間で寝やがってからに」

「親ゆ……幼馴染だ」

「何故言い直したし」

「いや俺なんかが親友なんて申し訳ないかな、って」

「仄暗い過去を背負うヒロインかお前は……」

「仕事の手伝いとかするし、バイトか何かで金は入れるからさ、お願いします」

フローリングの床に直に土下座するバートを矯めつ眇めつしていた男は、嘆息し口を開いた。

「ったく、仕方ない……おら、顔上げろ」

身を起こしたバートは神妙な表情で居住いを正す。

「御誂え向きに雨も降ってるし今から追い出すわけにもいかん。ある程度の貢献を期待してウチに置いてやる。お前と、さっきの若いのと」

「本当にありがとう、……ございます」

「取ってつけたように言うなや。皮肉にしか聞こえないんだよ……」

「ありがとう」



 故郷の町を出た二人が頼ったのはバートの親類だった。郊外で個人の医局をしているマクベル=コルソーンというこの男は渋りつつも彼らを受け入れ、なにくれとなく世話を焼いてくれた。事情は来たその夜に洗いざらい打ち明けており、サムの前では何も言わないが、バートのみの時はそれについての話をしていた。

 やはり信憑性に難ありらしく、それでもバートの両親にも町の教会にも全く応答が無いことからギリギリ信用はしているようであった。

 サムは父親が医師であるため医術の基礎的な素養があり、それを生かしマクベルの手伝いを買って出た。バートは医局から数キロ離れたバーベキュー・レストランでアルバイトをし、生活費を稼いでいた。



 そんなある日のこと。

 バイト先が盛況で少々帰りが遅くなったバートはとっぷりと暗くなった街道を走っていた。バイクだと燃料費が嵩むので自転車である。店自体は明け方近くまで開いているが、団体の客が解散し、次の客もそうそう来ないだろうということで遅い夕食を摂ったのち帰宅させてくれた。

 都会ならいざ知らず郊外である。やたら暗い。舗装されているとはいえ、路面が凹凸だらけなので常に注意していないと危ない。

「うん? 何だ」

ふと遠くの空に複数の機影が見えた。ヘリだろうか、こんな辺鄙な土地に何の用だろうか。……心なしか医局のあるあたりに滞空しているような気が…………。嫌な予感がする。


 突然、目の前に閃光が走った。急停止し、手をかざしながら前方を伺い見る。

「乗物から降りて跪け、両手は頭の上!」

物理的に苦情が来る程の大音量で命ぜられた。長物を持った黒い野戦服の集団が道の袖から出てくる。抵抗するべくもなく降参である。



 目隠し + 後ろ手に拘束されヘリで連れて行かれた先は、どこぞの建物内。ライフルを携えた男の弁によれば至近の軍基地だという。だがそんなことは(なんとなく)分かっている。

「どういう目的で連れてきて何の為に使う施設なのかを聞きたいのだが」

「割と物怖じしないな若いの」

「ビビっても仕方ないでしょう。あんたらより山犬の群れのほうが遥かに怖いわ」

「ほう」

沈黙、閑話休題。


 数分後、何やら物々しい集団が入室し、胸に階級章を付けた男が目の前に腰を下ろした。

「さて、我々の質問に素直に答えてくれたまえ。君のお友達とご家族は既にこちらの手中にある」

コーヒーらしき湯気の立つコップを差し出してくるが、生憎とこのクソ暑いのにホットを飲む気概は持ち合わせていない。そのまま伝えると非常に悲しそうな目をして自分で飲み始めた。

「ふぅ……。まず、君はこれを見たことがあるかね?」

と、持ってきたノーパソの画面を見せる。固定焦点の映像が流れているが、その中に最近見かけたばかりのあの異形が映っていた。ボイラー室らしき部屋の通路をのっそりと歩いている。

「先日、故郷で見ました。同一個体かは分かりません」

「うむ。5日前の深夜、巡回が不審な動体を発見、即報告を入れてきた。経路は不明だがものの見事に侵入されていたわけだ。ちなみにこいつの仕業か知らんが、基地内の何か所かの電灯が点かなくなった」

「いやそれは電気系統の問題でしょう。その後どうされたんです?」

訊き終える前にパソのカバーを閉められた。

「催涙弾を投げ込んで完全武装の兵士20人で突入し掃射をかけたが突破され逃走。狭所なので短機関銃でいったのが間違いだったようだ。弾幕をほぼ無傷で切り抜けた上、防弾ガラスの窓をぶち破って飛び出していったよ」

「わーお」

「奴、あるいは奴らの弱点はないのか? あと全体数は?」

「さぁ」

「いや『さぁ』って……」

「ただ遭遇したことがあるってだけなんで分かんないっす。というかあんたら、もとい軍・政府の方がよく知ってるんではないですかね」

「? 何故だ」

頭上に?マークを浮かべる男に苦笑を漏らし、気持ち穏やかに告げる。

「だって奴らを搬送してたと思われる軍用ヘリを見ましたもん」



 どうやら軍内部でも情報統制があるらしく、彼は本当に何も知らされてなかったようだ。上に電話してくると出て行ったきり帰ってこない。監視の為残ったライフル兵から貰った生温い(ホットを無理くり氷で冷やした感じの)ミルクをちびちび飲みながら待つこと数時間。若干意識が遠退いてきた頃、ようやく戻ってきた。

 別室に待機していたサムとマクベルと合流し、机と椅子しかない用途不明な白い部屋にて大量の書類を書かされた。要は極秘の軍事兵器J-cysと接触して生き残った者を貴重な被験者として監視下におく代わり、資金面での生活援助と当面の職の世話、そして緊急時の協力の約束を規定するものである。ただ例の階級章の男がボソリと耳打ちしたところによれば各人の書類の制約内容は異なるらしい。互いにその話は基本的に禁止とされているが誰の耳にも入らないところならば自由に話してもいい、ということだった。


 仕舞いに軍の者に送ってもらえることになったのだが……

「やぁやぁ若者たちよ。あとジジイ」

「パット、お前軍属なのかよ……。なんという偶然」

バートの友人だった。

「どうやら命を救ってやったのを忘れたらしいな……小僧」

更にはマクベルと因縁があるようだ。

「ハッこのヤブ医者が。バート、お前助手席な」

「あい」


 ――車中にて

「バート、これ持っとけ」

名刺を渡された。

「俺の連絡先と勤務地が書いてある。今後は事あるごとに連絡すると思う、少なくともほとぼりが冷めるまでは。とにかく軍や政府とお前らとの窓口は俺かさっきお前を尋問した奴になる。そういう風に上に話を取り付けて貰えた」

「ありがとう、かな? 礼言うべきか分からん」

「名も知らぬムキムキマッチョなおっさんがアサルトライフル持って抜き打ち尋問しに来るよかマシだろ」

「せ、せやな」

 暫しの無言。

「……そういや彼女さん、どうしてる?」

「俺、この仕事が終わったら結婚するんだ」

「へー」

「…………」



 医局に着いた時、静かに雨が降っていた。

「じゃ、色々大変だと思うけどまぁ頑張ってよ。で何かあったら電話かメールして」

「ああ。パトリック、彼女さん大切にするこった」

「ういうい。じゃあな」

そして彼は雨の中帰還していった。



   ~~~~~~~~~~~~~      ~~~~~~~~~~~   



 ――現在

 「元気かな、パット。あと嫁さん」

「これが終わったらゆっくり話せばいいじゃない」

「そうだな。お、頂上見えた」

頼りなく続く一本道の果て、山頂に光が見える。

「あのポツンとした赤い光何?」

「デルタがヘリできたときに俺が立てた誘導灯。ソーラーで夜の間だけ点灯する。あそこなら無線とか携帯の電波が届く。仕組みもとい理屈は分からん」


 案の定、山頂付近は開けており、非常に見晴らしがいい。良過ぎる。身を隠す余地が存在しない空間がそこにあった。峡谷へは崖を降りる道が厳しすぎる上、軍に拾って貰うのに障害が出そうなので却下。電波状態を調べバリ3であるのを確認し、友人に掛ける。


 援軍が来るまで生き延びるか、哀れJ-cysに切り裂かれるか、幕は落とされた。

ちょろっと人物紹介

・パトリック=ライボトニック……軍属。バートの古い馴染み。

  現在、妻ノーラとの間にハーシェルという息子がいる。


・階級章の男……軍属。パットの上官に当たる。

  呼び名はストレイズ中尉。

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