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ホワイトディ

以前某所に投稿していた作品です。


ちょこっとだけ内容変えました。


 この前生まれて初めてバレンタインにチョコレートをもらった。

 

 お母さんとお姉ちゃんからは貰った事があるけど、家族ではない女の子から貰うのは初めてだった。しかも、見た事もしゃべった事もない知らない子から。どうやら義理チョコではないらしい。快挙だ。

 だけど、バレンタインに家の前で貰ったのはいいけど、チョコをくれた子の友達に至っては何度もオレの名前を間違えていた。チョコをくれた子も実は間違えて覚えていたら嫌だな、とその時ぼんやりと考えたのを覚えている。チョコレートは上手かった。何か高そうな味がした。外国製だったのかもしれない。箱を捨てた後で裏を見れば分かったかもしれないな、と思いついたので謎のままだ。分かったからって自分じゃ買わないだろうから知らないままでいいけどね。


 女の子は2年5組の子だった。2月15日、さりげないフリをして学校中をうろついてやっと探し当てた。チョコレートにはメッセージカードがついていたけど「好きです」だけで名前が無かったからうろつかなければ誰だか分からなかったのだ。彼女は一体どこでオレの事を知ったんだろう。


 どんな子なんだろう。少し興味がわいて、それからしばらく5組にばかり気がいった。チョコレートを貰わなかったら、全然気にならなかったはずだ。自分のクラスだけで精一杯なのが学校生活だ。少なくともオレはそうだった。


「桜、ちょっと待ってー!筆箱教室に忘れてきたかも」

「私、先に席とっておくよ。ミカちゃん、まりも達と後からゆっくりおいで。あ…」

 廊下ですれ違う時、女の子は真っ赤な顔ですれ違った。ペコリと小さくお辞儀をされた。部活でもやっていたら、後輩にされていたのかもしれないすれ違いのお辞儀。何だか気恥ずかしかった。何だ、アレってこんなハズイもんだったわけ?


「あれ、今の平畑じゃん?お前知り合いだっけ?」

「あぁ、…うん。ちょっと」

「あいつって性格いいんだよなぁ。去年オレあいつと同じクラスだったんだけどさ、別に目立つやつじゃないんだけど、いつの間にか担任とかもあいつを頼りにしてんの」

「あぁ、小島事件?」

「そーそー」

 何でも小島って子が家庭の問題で登校拒否になりかけた時、平畑さんがとりなしたらしい。へぇ…そうなんだ。

「本人気がついてないけど、密かに先生からそういう問題児のいるクラスに入れられてるっぽいよな、あいつ。今年も金田ミカと一緒じゃん。あの金田が普通にクラスに溶け込む日が来るとはなぁ。奇跡じゃね」

「金田?」

 金田って、バレンタインの時オレの苗字間違えた子か。確かにうちの学校では珍しく茶髪だ。

「金田って、中1の時、すごかったんだぜ。あいつの兄ちゃん暴走族らしいし。去年途中からうちの中学に金髪の奴がいたの知らね?それが当時の金田」

「平畑ってとぼけた所があるからそういうの気にしないんだよな。だからいいんだろうな」

 金髪のヤツなんかいたか?さすがにそこまで目立つヤツなら記憶に残っててもおかしくないはずなのにさっぱり思い出せない。多分金髪がいたのに気がついてなかったんだな。見てないから記憶にないんだ。


 平畑さんの話はそれから何となく仲間内で出るようになった。岡山も筒井も別に彼女に特別な好意を持っているわけではないらしいのに彼女の話をしたいらしい。オレは別に女子の話をしたいと思う事がないので、ヤツらの気持ちはよく分からん。それにしてもよそのクラスの事までそんなに色々知ってるのは何でなんだ。オレが知らな過ぎるだけなのか。もう2年が終わろうとしているのにクラスの女子のフルネームを全部覚えてないオレは記憶力に問題があるんだろうか。オレ、どっか変なのかもしんない。もうちょっとで二年は終わるから今更すぎるからもういいけど、三年になったらクラス全員の名前を一学期のうちに覚えるように努力してみようかな。…出来れば。




 あっという間に2月も終わり、3月へと入った。ってことは、もうすぐチョコレートの返事をしなくちゃいけないわけだ。別に返事は3月14日にしなきゃいけない決まりはないんだろう。でも、正直1ヶ月間が開いてるのはありがたかった。オレだって女にまったく興味がないわけじゃない。興味が薄いだけだ。女子と話してると男同士だと問題ない会話でもめたりする。幸いオレはまだ経験ないけど、ちょっと言い合いになった時に泣く女とかマジで意味が分からなくて怖い。泣く程の事がどこにあるのか全く分からない。キーキー甲高い声も耳触りだし。

 返事か。中2で初カノって早すぎってわけでもないよな。うちの中学では付き合ってるヤツってあんまいないけど、全くいにわけじゃない。オレのよくつるんでる仲間にも一人彼女がいるし、そいつはいつも楽しそうだ。

 だけど、じゃ、平畑さんが好きかって聞かれても、微妙だ。しかし、全然付き合わないのももったいない気がする。一体オレのどこを好きなのか分からないけどこの先オレがもてることはないかもしれない。最初で最後のバレンタインチョコを有効活用しないのはどうなんだ。

 でも、こういう気持ちで付き合っても真っ赤になってた平畑さんに悪いよな。とりあえず、何かお返しだけはした方がいいんだろうなぁ。少なくともそれは道理だよな。




「なぁ、お姉ちゃん。ホワイトデーって何を返すのが普通なわけ?」

 オレの質問にお姉ちゃんはのけぞった。

「は?ヒデ、バレンタインもらってたの?」

「ただの興味だよ。聞いただけ」

 オレは誤魔化したけど、顔が赤くなったから、バレバレだった。聞いた事だけに答えてくれればいいのにさ。

「ふぅん。…そうだねぇ。ヒデくらいの中坊なら、クッキーとかでいいんじゃない?彼女にしたいコが相手なら、もっとちゃんとしたものがいいと思うけど。で、どんな子?」

「だから、違うって!」


 …結局白状させられた。


「…で、そんな風に、何か、性格いいらしい。オレは、…よく知らないんだけど」

「ふーん。で?ヒデくんってその子と付き合いたいんだ?」

 たまたま家に来ていたお姉ちゃんの友達までがなぜか話に入り込んできて、めちゃくちゃ恥ずかしい。オレは前からこの人の相手がちょっと苦手だった。じっと見られると緊張する。お姉ちゃんの友達の中では珍しくオレによく話しかけてくるからかもしれない。

「分かんない。別に好きじゃない。どっちでもいい」

と、素直に答えた。そうさ。年上相手に隠そうとしたって無駄なんだ。お姉ちゃんじゃなくてお母さんに聞いた方が恥ずかしくなかったかな。いや、お母さんに知られた方が絶対に面倒な事になったはず。うん。今のこの状態はマシな方だ。


「好きじゃない、か。…じゃ、とりあえず断った方が無難よねぇ」

 お姉ちゃんの友達が言った。

「何で?」

「だってさ、考えてみなよ。ヒデくんと同じクラスの男の子がその子を褒めてたんでしょ?普通そのくらいの時にクラスが違う女の話なんてわざわざする?その子達、サクラちゃんとやらを好きな可能性が高いよ。ヒデくんが修羅場ってもいいなら別だけどさぁ。リスクおかしてまで好きでもない子と付き合うことないじゃん」

「おー、なずな、大人な意見だねぇ。でも、それ超言えてる。

 ヒデ、とりあえず「オトモダチから」って言って適当にお返しを渡しておけば?それなら後から何とでもなるし」

 そういうもんか?

 それにしてもあいつらはやっぱりちょっとおかしかったのか。良かった。オレは普通だったらしい。そうだよな。男の名前を学年全員分知らないのによそのクラスの女子まで覚えてなんかないよな。話題にしたりもしないよな。


「お返しは後に残らない食べ物のみがいいだろうね。ま、若いうちは気が変わるのも早いから。ちょっと気まずくなってもすぐに違う子好きになったりするしねぇ」

「そういや、ナミの彼の二股事件はどうなったわけ?」

「あぁ、あれこそ修羅場ったらしいよ。大体あのツラで二股って死刑もんだよね、あの男。今度会ったらとりあえず歯が折れるまで殴ってやりたいなぁ」

「空手習ってた人間が言うと洒落にならないって、なずなが本気出せばあいつケリ一発で肋骨折れるでしょ」

「そう?まぁ、本気出せば折れるかな。アハハ」

「いいよ、折っちゃいなよ。あんなろくでもない男は一度でも二度でも痛い目を見るべきだよ。アハハ」

 お姉ちゃんの年になると、恋愛も冗談でしかないんだろうか…笑い話しなのか、それ。


 とりあえず食べ物かぁ。クッキーがいいんだろうな。お返しは近くのコンビニに売ってたのでそれを買った。

 ちょっとだけ「付き合う」って返事をする場合のプレゼントは何か気になった。でも、それは実際にあげる時に聞いた方がいいかもな。とりあえず今は必要ないし。今聞いておいても何年か後にはそれが流行らないモノだったら意味ないし。



 3月14日。朝、階段の所で待ち伏せして予定通りコンビニで買ったクッキーを平畑さんに渡した。何人かには見られただろうけどそれはしょうがない。手紙でわざわざ呼び出したりする方が恥ずかしい。クツ箱の所は人が多いから、階段が一番ベストなんだ。お返しをあげる予定ではあったから、オレはこの一月一通りを研究したんだ。

「友達でいいなら」って、オレが言うと、平畑さんは真っ赤になって何度も頷いた。


「じゃ」って言って、そのまま階段を上がって教室に行ったけど、正直あんな状態の子と友達付き合いをしなくちゃいけないのはしんどそうだった。会話も出来ないじゃん、あの調子じゃ。あのコもオレと友達になんかなって嬉しいんだろうか。女子の友達ってめんどくさそう。早まったかな、オレ。


 放課後「桜と仲良くしてね!」って金田って子にすれ違いざまに言われたけど、別にそんなのお前に頼まれることじゃないしってむかついた。だけど、いつかオレも歯が折れるまで殴りたい、と言われる事にはならないようにだけは気をつけようと思う。一人と付き合う事も満足に出来ないのに二股なんて高度なレベルにオレが到達するとは到底思えないけど注意はしておいた方がいい。

 とりあえず今のオレは付き合う事と友達の境界線もよく分からないガキなんだ。知らずに浮気ってヤツをやってしまう事があうかもしれない。それって最悪だな。



「もし、友達じゃ嫌って言われたらさ、とりあえず、今、他に気になってる子がいるから、とでも言っておきなよ。流されて付き合ってもお互い辛くなるからサ。

 他に気になってる子って誰って追求されたら、違う学校の子って言っておきな。ヒデくん、塾通ってるよね?そこにいる子って言っておけばいいよ。塾になら違う学校の子なんてはいて捨てるほどいるでしょ。「気になる」ってのは「好き」ってのとは微妙に違うから、それ以上は追求はされないと思うよ。好きなコには細かく聞きづらいと思うし」

「ハァ…。そういうもん?」

「別に私らの経験が全部ヒデくんの役に立つわけじゃないからあまり色々言っても悪いかもしれないけどね。ほんと、人を好きになるって大変だもん。

 私もヒデくんくらいの時に好きでもない子と付き合うことになって、大変だったんだ。私は他に本気で好きな人がいたのに別の告ってきた子と付き合ったから、今でもあの時の彼氏には悪い事したって思う。あの時は単に焼餅やかれたかったのかなって思う。そんなの意味ないのに。彼が好きなの私じゃなかったんだし。恋愛の駆け引き、超くだらない。

 出来れば同じ思いはして欲しくないんだよね。ヒデくんには今のところ好きな子いないんだから、付き合っちゃえば桜ちゃんを好きになる可能性もあるから微妙なんだけど。友達でいるうちに好きになったら今度はヒデくんから告っちゃいな。

 何か困った事があったらいつでも相談してねー」




 4月のクラス変えで、オレは平畑さんと同じクラスになり、その後彼女の印象がどんどん変わっていった、というのはまた別の話。





ヒデくんのお姉ちゃんの友達のなずなちゃんは「おむすび」のなずなちゃんです。博多弁を使わなくなってます。

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