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バレンタインディ

以前某所に投稿していた作品です。


ちょこっとだけ内容変えました。

 


 神様、お願いします。どうか、私に勇気を!!


「あれ、桜、超はやいじゃん」

「おはよー」

「おはよ。何か顔色悪くない?どうかした?」

「え?そう?別にどうもしないよ」


 ウソです。心臓どうにかなりそうです。バクバクしてます。


 親友ミカちゃんにもとうとう今日まで言えなかった、桜の初恋。バレンタイン当日の登校時間はいつもよりも超超早かったのです。実は朝5時には来てました。学校の正門も開いていない時間でした。朝練のバレー部の子が来るまでの1時間、植え込みの影に潜んでました。誰にも見つからなかったけど見つかってたらどうなっていたんでしょう。多分二度と学校に来られない程変人扱いされたに違いません。朝6時にならなきゃうちの学校の正門は開かないということすら今まで知りませんでした。今後の役に立つとも思えません。だってそんなに早く学校に来る用事なんて別に何も思いつかないからです。


 ミカちゃんは落ち着いたものです。バレンタインといっても、彼女には関係ありません。何しろ彼女にはすでに彼氏がいるからです。

「アキ(ミカちゃんの彼氏。かなりのイケメンだけど性格に難アリ。付き合うまでには色々あったし付き合ってる今も色々おきがち)にはチョコとかあげないの?」って、1週間前に聞いてみたら「アキってチョコ食べられないもん」という回答でした。チョコ以外でも手編みの何か、とか恋する乙女たるもの、プレゼントの選択はありそうなものですがミカちゃんの辞書にはなかった模様です。

 彼氏のアキにもついでに聞いてみたけど「オレ、別に行事って好きくないし。お返し考えるのも面倒だし。ミカからも貰わないんだから、他の子のなんか貰う必要ないよな。今年は断りやすくてラッキー」って返事だった。アキを好きな子は可哀想。色々報われなさすぎる。ミカちゃんの趣味は分からないです。顔が良ければそれでいいのでしょうか。世の中イケメンに甘すぎじゃないのでしょうか。



「平畑?」



「うわああああ!!」


 ガッシャーン!突然目の前にいた担任に驚いて、思いっきり大声で叫んだ上、机と椅子を蹴飛ばしてしまいました!!教科書、ノート、ペンケースが無残に辺りに散乱してます。隣の席の山根が「いてー!」と叫び足をさすっています。どうやら何かぶつけたらしいです。あ、私の椅子の足でしょうか。ゴメンなさい!

 教室は大爆笑。私はこれ以上はないってくらい真っ赤な顔です。うう、何でよりによって今日こんな目に合うんでしょう。これ以上刺激を与えたら心臓が止まるかもしれないというのに。

「ぼーっとしすぎだぞぉ、お前。…ハハァ、お前、バレンタインのチョコレートの事かぁ?先生は奥さんいるから本気チョコは受け取れないぞぉ」

 誰が先生にあげたりするか!!バカか!!って、いけない。頭の中の私の口が悪すぎです。緊張し続けると副作用で性格が悪くなってるんでしょうか。関係ないのかな。どうなのでしょう。

「何だ、具合悪いのか?」

 ミカちゃんにしても担任にしても、どうして私を病人扱いするのでしょう。あ、恋の病にかかってるから?って寒!!自分の脳内が怖いです。病院には行った方がいいのかもしれません。来年の受験は大丈夫なのでしょうか。私を受け入れてくれる高校なんて県内に存在するのでしょうか。何だか本当に恐ろしくなってきました。


「風邪かぁ?この時期、絶対に3年にはうつすなよ。公立が本命のヤツ多いんだから。末代まで恨まれるぞ。

 さぁて、教科書138ページ開いて。今日は14日だから、出席番号14番、英文読んでから、訳せ」

 机と椅子を起こし、教科書やらを拾って片付けました。隣の山根に口だけ動かして「ごめんね」って謝ると山根は気にするな、という風に頷いてくれました。地味だけど優しい人です、山根。

 教室の後ろで誰かが咳をしました。おぉ。本当に風邪ひきさんもいます。誰だか分からないですが風邪ですか。いっそ私も風邪でも引いてれば、今日学校休む言い訳になったのですね。どうしよう。やっぱりチョコレートなんて渡せません。せめて同じクラスだったら義理のフリできたけど、今まで話したことすらないのですから。何でうちの学校は1学年13クラスもあるのでしょう?少子化はいずこ。


 私は隣の隣のクラスの萩岡くんに片思いしていました。お互い帰宅部で、共通の友達もいない関係です。全く接点がないのです。何でそんな人を好きになったのかっていうと、きっかけは放課後の職員室でした。


 三か月前日直だった私が職員室に日誌を置きに行った時、国語の森先生の所にノートを提出に来ていたのが萩岡くんでした。森先生は童顔で、気さくな性格なので、男子は皆タメ口で話します。ものすごく先生っぽくない先生なのです。スーツよりも学ランの方が似合うかもしれません。

「おぉ、ノートか。サンキュー。あれ。少なくないか?何で?」

「女子のは今須藤さんが集めてるから、後でまた持ってくる。女子、被服の移動教室だったから、急いで集められなかった」

「何だ、後で一緒に持ってくりゃ良かったのに。何で男女別々に持ってきたりするんだ?」

「先生がさっき放課後すぐに持って来いって言ったんだろ?とりあえず男子のだけでも持って行けって谷が言うから」

「そうだっけ?」

「そうって…まぁ、…うん」


 ここで恋に落ちました。私のツボに、萩原くんの会話の間の取り方がぴたっとはまったのです。そこに駆け込んできた須藤さんと「オレが取りに行ったのに」というやり取りをしてる姿がまたかっこよかったのです。とにかく私はその時から萩岡くんにメロメロで、何とか接近してみようと努力はしたのですが、ことごとく失敗。何しろ萩岡くんのいる3組には私の友達が一人もいないのです。男子なら去年同じクラスだったヤツが何人かいましたが、それはこの場合役に立ちません。私はさりげなーく知り合いになりたかったのですから。




 うじうじ悩んでいるうちに放課後になってしましました。まずいデス!




 

 漫画のように朝のうちにクツ箱にチョコを入れるわけにも行きませんでした。チョコレートは私の鞄の中に入ってままです。大体クツ箱に食べ物を入れるって、それって日本のどこかで本気で行われている行為なのでしょうか?!「食べないで!」って言いたいくらいまずいモノを作った子がするのですか?食べ物をそんなところに入れるなんて正気じゃないと思われるのですが如何でしょう。食べて欲しいならクツ箱に食べ物は入れちゃいけないでしょう。少なくとも私は勝手に靴箱に入れられた食料を口に入れる勇気はありません。

 張り切って早朝登校したものの、登校時に待ち伏せして渡す勇気もなく、クツ箱に入れれるほど常識ハズレでもなく、机にこっそり入れておく、というスタンダードな方法をすっかり失念していた超マヌケな私は、今非常にピンチに立たされてました。ヤバイです。マズイです。


「桜、帰ろ?」

「う、うん」

 そこで、事態は急展開を見せました。鞄の内ポケットに隠していたチョコが、何でか飛び出してきていたのです。それをミカちゃんが見つけてしまいました。キャー!


「え、それってチョコ?!」

 誰に渡すんだ?と聞かれて、しぶしぶ「萩岡くん」と教えると、ミカちゃんは首をかしげました。

「…先輩?後輩?」

 いや、同学年ですが。そんなに彼は影が薄いのでしょうか…。2年3組、と小声で教えると、ミカちゃんの目は輝きました。

「よし、行こう!」

 ミカちゃんは私の手をがしっとつかみ、3組へとダッシュ。わ、待って。心の準備が!が、辿り着いた3組にはもう殆ど人が残っていません。走り損です。今までの人生で走って得をした、と思った経験もありませんけど。

「…どいつ?」

「…いない」

「いない?」

「もう帰ったのかも」

「住所知ってる?帰り道をつかまえよう」

「ムリだよ。まだ家知らない。帰る方向さえ分からないもん」

 それを聞くなり、ミカちゃんは私の手を再度つかみなおすと、職員室へとまたダッシュ。まっすぐ2学年担当の石田先生の所へ。手、痛いですぅ!!

「先生、先生!生徒の住所名簿見せて!」

「何、どうした?」

ミカちゃんの勢いはすごかったです。般若みたいでした。

「一大事なんだよ。ね、黙って3組、2の3の名簿見せて。悪徳業者に売ったりするわけじゃないんだから、いいじゃん。乙女の一大事なんだよ」

「ははぁん」

 石田先生はニヤって私の顔を見ました。もちろん私はゆでだこです。今日が何の日か知ってる先生にとって、いくらミカちゃんが質問したとしても利用目的は私の為だとバレバレです。何しろアキとミカちゃんが付き合ってることは全校生徒が知ってるのですから。

「本当はよそのクラスのとかは勝手に見せられないんだけどなぁ。おおぉっと、手がすべった。そして、オレは忙しいから1分だけあっちのゴミ箱へ、このゴミでも捨ててこよう」

 変な日本語を言いながら、国語教師の石田先生は去りました。ミカちゃんがガバっと名簿を開きました。

「何て名前って言ってったっけ?」

「萩岡くん!」

 ありました!柳3丁目2-14。

「何だ、アキの家の近くじゃん。よし、行こ」

 石田先生にありがとう、とミカちゃんは手を振り、私は頭を下げました。石田先生は何のことだろう?という下手な芝居を続けていました。大げさにすくめた肩はアメリカ人みたいです。石田先生はケツアゴだから、無理をすればアメリカ人に見えなくもないです。いや、見えないか。とにかくありがとうございます。


「それにしてもさぁ。何で教えてくれなかったわけ?桜にはアキの時に散々迷惑かけたんだから、言ってくれたらなんだってやったのに」

「…ゴメン、恥ずかしくて」

「でも、私が来たからにはもう大丈夫!絶対上手く行くよ!!」


 太鼓判を押してくれるミカちゃんの友情が嬉しかった反面、一人でしみじみ片思いを味わいたかったから私は黙っていたのかもしれないな、と思いました。ミカちゃんが加わっただけで、告白も何かコントみたいな雰囲気を感じました。お芝居っぽいっていうか。お芝居っていうよりも、お遊戯っていうか。ミカちゃんはとても熱い女の子なのです。彼女の熱さはどことなく芝居がかっているのです。


 さすが通いなれている道の近くだったからか、ミカちゃんのナビで簡単に萩岡君の家は見つかりました。

「あ、ここじゃん。もう帰ってるかな?呼び鈴押す?」


 私は首をぶんぶんと横に振りました。心の準備がまだです!

「心の準備ィ?そんなのいくら待っても出来ないって。まぁ、慣れだよ。桜って今まで告った事ないわけ?」

「ないよ!家族以外にチョコあげるのも初めてだもん」

「そっかぁ。でも、確かに私もアキに最初に告る時はそのまま死ぬかと思ったからなぁ。そりゃ緊張してもおかしくないよね」

 …ミカちゃんでもそうなんですか。なんか安心しました。そうですよね。普通、そうですよね!

「よし。とりあえず、家に帰ってるのかを調べよう。私が呼び出すよ。本人じゃなくて家の人が出てもそれなら問題ないでしょ。そうだ、アキの家の近くに小さい公園あるじゃん。そこで渡せば?」

「そんなところまで来てくれるかな?私の事、多分、ううん、絶対知らないよ?わざわざ来るかな?」

「あー、確かに微妙かも。でもさ、渡す時に隣に私がいたら恥ずかしくない?えっと萩岡くん?その人も返事しにくいかもだし」

「ね、知らない子からのチョコとかって、ものすごくきもくない?アキだったら、絶対もらわないじゃない?」

「アキを基準にしたらダメだよ。アキは人見知りだから、絶対知らない女からモノをもらったりしないもん。桜からだって受け取るかどうか微妙だよ、アイツ。アキって女を信用してないけど、友達も信用してるわけでもないからね。アキって友達の意味分かってないかもしれないし。

 大体今更じゃん、きもいか、とか。告白の時に知り合えばいいんだから気にしないの!

 ね、それってもしかして手作り?」

「手作りなんて知らない人からもらったもの、食べれるわけないじゃん。買ったよ、ちゃんと。ね、緊張してきた。もう絶対ムリだ。

 大体、家の前でこんなに騒いでいたら、もう帰ってきてたら絶対聞こえてるし。私なら居留守使う!

 や、やっぱり帰ろう!!よし、帰ろう!!」

「桜、落ち着いて!大丈夫だって。桜結構可愛いし、性格いいし、萩原くん?だって悪い気はしないよ!」

「萩岡だけど」


って、この声は…!!


 ミカちゃんと私はゴーゴンに見つめられた若者のように固まりました。まさに石です。怖くて振り返れません。萩岡くんの顔を知らないミカちゃんは彼の顔を知らなかったので、反応が遅れたらしいですが、この状況で彼が萩岡君だと気がつかない程おとぼけさんではありません。

「さ、桜!」

 そういえば、小学校の頃、一時期「ささくれ、さくら」って男子からからかわれていた時代もあったっけ。何でこんな時に思い出すんでしょう。心がささくれてるのかしら?その後「ささくれ」が「さくれ」に変わって結局「さくら」に戻るという、何だか意味の分からないあだ名の歴史が私の名前にはありました。

 って、そんなの今は思い出す必要ないんですぅぅ!!!


「こ、これ」

 本当は何か言う予定だったけど、頭が破裂しそうで、他に何も言えませんでした。ガタガタ震える手でチョコを差し出すのが精一杯。声も体も自分じゃないみたいです。

 萩岡君は一瞬戸惑った後、手を出して、チョコを受け取ってくれました。



 受け取ってくれたのです!!



「ありがとう!」

と、叫ぶと、私はさっきとは逆にミカちゃんの手をつかみ、駆け出しました。



「いいの?返事も聞かなくて。しかも、あげた方がお礼を言うなんてさぁ」

「いいの!受け取ってもらえて嬉しかったから。あぁ、今なら死んでもいい…」

「…それってさぁ、両思いになった時に取っておこうよ」



 バレンタインの神様。ありがとうございました。あなたのおかげでとても幸せです!!ビバ、片思い!こんなに嬉しい気持ちになれるなんて、女の子に生れて本当に良かった。お父さん、お母さん、生んで育ててくれてありがとう。あなた達の娘は今地球で一番幸せな人間になれました!


恋する乙女の脳内暴走。


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