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詩集

鎮魂歌

作者: ロースト

傀儡(にんぎょう)が謡う鎮魂歌


歌わなくちゃ、と思うの

でも、声は震えてうまく声がでない。

最後の歌なのに、うまく歌わせてくれない。

小さくて、震えて、発音もはっきりしない。

でも、それでも私は歌う。

もともと私は音痴だけど、今ならちゃんと歌えると思ったのに。

私の歌を好きだと、綺麗だと言ってくれた

あなたのための、鎮魂歌。

だって、あなたのためだから。

だから、私は最後までうたう。

歌は下手だし苦手だけど、今、この時だけは

あなたのために歌い上げる。

それは私の役目だから。

それが私とあなたの契約だもの。

でも、それ以上にこの人の魂を

私が、癒したい気持ちでうたう

おもいっきり、人目も憚らずに

あなたのくれた羽を広げ、精一杯

あなたを想い、鎮魂歌を歌い上げる。

あなたと過ごしたこの廃屋で。


私はあなたのために鎮魂歌を歌う、傀儡。

―――最後の1体 Singing Doll

私は機械で作られた、人形


あなたは私を作り、契約した者

私は何人も作られた機械仕掛けの天使たちの落ちこぼれ。

あなたは私のマスターでめったに話すことも出来ない雲の上の存在。

私は影で小さく歌っていたのを聞かれて、

あなたは歌が綺麗だと、私の歌を好きだと言った。

たった一度、あなたのために歌を謡った。

ただ、それだけの関係で、殆ど話したりもしなかった。

あなたは休む場所を探してた。

私の隣に、すごく身近にあなたはいた。

なのに、すこし、あなたを見てるのが辛くなった。


涙が、流れたような気がした。

呼吸をやめたその唇に、一つ、口付けを落とした。

それでも、あなたは変わらず眠り続ける。

永遠に醒めない夢を見続ける。

別に、白雪姫や茨姫のようになると、

そう思ってたわけじゃない。

でも、希望は持ってた。

あなたがまだ、生きていればって。

あなたが目覚めてくれればって。

もう一度、その目を見たかった。

そのまっすぐな、透明さを持つ無邪気な蒼。

もう一度、その笑顔を見たかった。

夢を追いかけて、いつでも楽しそうに笑う。

もう一度、その声を聞きたかった。

私の歌を綺麗だと、好きだといってくれたその声を、聞きたかった。

もうすぐ謡い終わる。

この時間も後もう少し。

私はこの後、オートに眠りに落ちる。

眠りながら次の起動を待つ。

次の契約者を待ち続ける。

そしてその間に設定はすべて

デリートされ、何もなくなる。

あなたの顔も、名前も、声も、時間も、

あなたといた、記憶すべてが削除される。

身体を抱き寄せる。

そして、謡い終わり、一言いう。

そして、時間が止まった。

  「―――ありがとう」


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