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第九章:浄化の檻、あるいは未完の物語

前書き

皆さま、お越しいただきありがとうございます。

「救世」を掲げて現れた聖女・歩花。彼女の力は本物です。彼女が手を振るだけで、瓦礫は消え、人々の争う心さえも「浄化」という名の下に消去されていく。一見すれば素晴らしい奇跡ですが、それは「生きた人間」の営みを否定するものでした。 第9章は、最強の聖女に対し、武器を捨てた俺がどう立ち向かうのか。不惑の男の、意地と屁理屈と、少しの物語の力。どうぞ、その結末を見守ってください。


1. 黄金の侵食

「……きれいすぎるだろ、これは」

俺は、足元から広がる黄金の波を見つめて呟いた。 歩花が放つ光に触れた箇所から、オークテリアの無骨な石畳は、一点の曇りもない白真珠のような輝きへと変貌していく。崩れかけていた時計塔は、天界の尖塔せんとうのような優美な姿へと勝手に組み替えられ、そこには傷跡一つ、汚れ一つ残っていない。

「見てください、タイガ様。これが本来あるべき世界の姿です。飢えも、病も、そして争いの種となる『個性』という名の歪みも、すべて均一な幸福へと昇華されます」

歩花の声は、どこまでも透き通っていた。 だが、俺は見た。光に包まれたオークの戦士たちが、さっきまで持っていた再建への「熱意」を失い、ただうっとりと空を見上げて立ち尽くす姿を。彼らの瞳からは、バルザス将軍を悼む涙も、未来を不安がる怯えも消えていた。 代わりに宿ったのは、何も考えなくていい「虚無の安寧」だ。

「……歩花。お前、こいつらから『心』を奪ってるんだぞ」 「いいえ、救っているのです。心があるから苦しむ。ならば、完璧なことわりで満たしてあげればいい。……貴方の創ったこの世界は、あまりにノイズが多すぎる」

歩花の背後に浮かぶ巨大な魔方陣が、さらに輝きを増す。 「お兄ちゃん、マズいよ! このままだとオークテリアだけじゃない、世界全体のシステムが彼女の『理想郷ユートピア』に書き換えられちゃう!」 キュアがマシンガンを構えるが、銃口は震えていた。 「……ダメだ、キュア。撃つな。彼女を殺せば、その瞬間に上書きされたデータが崩壊して、住人たちの魂も消える」

2. 45歳の抵抗:言霊の上書き

「スカル! ランドセルを出せ!」 俺は叫んだ。 「は、はい! でもタイガさん、僕の能力じゃ聖女の演算には勝てません!」 「勝たなくていい。……隙間を作るんだ。完璧な文章コードに、一文字だけ『誤字』を放り込む!」

俺は、歩花が展開する黄金の結界の中へと、あえて足を踏み入れた。 清浄な魔力が俺の存在を「不純物」として排除しようと、凄まじい圧力をかけてくる。45歳の胃が、今日一番の悲鳴を上げた。

「……歩花。お前は多くの世界を救ってきたと言ったな。だがな、完結した物語ほどつまらないものはないんだよ」

俺は、創造主としての権能を、全神経を集中させて「言葉」に変換した。 「俺は作家だ。読者が一番ワクワクするのは、主人公が泥にまみれ、悩み、間違え、それでも一歩踏み出す瞬間だ。お前の創る世界には、その『次の一行』がない!」

俺は地面に膝をつきながら、白紙のノートに掌を叩きつけた。 「スカル、コネクトしろ! 俺の記憶にある、最低で、最高な、人間の『ノイズ』を全部叩き込め!」

俺の脳内から溢れ出したのは、綺麗な魔法ではない。 前世で見た、仕事帰りのガード下の焼き鳥の匂い。締め切りに追われて叫ぶ編集者の怒声。失恋して泣き明かした夜の冷たさ。そして、オークテリアで見た、不器用な種族たちが手を取り合った瞬間の、あの泥臭い汗の臭いだ。

「……なっ……!? なのですか、この、不浄なデータは……!」 歩花の表情が初めて歪んだ。 黄金の輝きの中に、どす黒い、だが生命力に満ちた「物語のおり」が混ざり込んでいく。

完璧な白真珠の石畳に、一滴の醤油をこぼしたような、あるいは名作の末尾に落書きをされたような。 その「ノイズ」が、歩花の完璧な再創造の連鎖を、物理的に停止させた。

「……あ……」 光に当てられていた住人たちが、ハッとして我に返る。 彼らの瞳に、再び「悩み」と「熱」が戻ってきた。

3. 救世主への問いかけ

黄金の波動が霧散し、オークテリアに再び「不完全な日常」の色彩が戻る。 歩花は肩で息をしながら、信じられないという表情で俺を見つめていた。

「……なぜ……。なぜ、これほどまでに清らかな世界を拒むのですか。貴方は、彼らに一生、苦しみ続けろと言うのですか」

俺は、ふらつく足で立ち上がり、ポケットから最後の一本の『えびさビール』……ではない、スカルが慌てて差し出してきた冷たい水を一口飲んだ。 「苦しんでほしいわけじゃない。……ただ、それを乗り越える権利を、奪いたくないだけだ」

俺は、歩花の目の前まで歩み寄った。 「歩花。お前が救ってきた世界、本当に今、幸せか? 誰も泣いていないかもしれないが、誰も笑っていないんじゃないか?」

「……っ……」 歩花が言葉に詰まる。彼女の瞳に、初めて微かな「揺らぎ」が生じた。 「私は……間違っていません。私は、使命を……」

「わかってるよ。お前も、一生懸命なんだろうな。……だが、俺の世界ここは、まだ『執筆中』なんだ。勝手に結末おわりを書くんじゃない」

歩花は、無言で俺を見つめ返した。 やがて、彼女の背後の魔方陣が静かに消えていく。 「……タイガ。貴方の言葉、今の私には理解できません。ですが……この世界の『ノイズ』がどこまで続くのか、見極めさせてもらいます」

彼女は、銀髪を翻して背を向けた。 「浄化は一時中断します。……ですが、貴方が彼らを真に絶望させたその時、私は再びこの世界を救い(消し)に来ます」

「……ああ。その時は、もっと面白い続編を用意して待ってるよ」

歩花の姿が光となって消え去る。 静寂が戻ったオークテリアで、俺は瓦礫の上にどっかと座り込んだ。

「……ふぅ。……死ぬかと思った。キュア、1+1は?」 「45だよ、おじさん!」 「……そうか、正解だ」

45歳のタイガ。 世界を否定する聖女を、屁理屈一つで追い返した男。 だが、物語はまだ始まったばかりだ。 この歪な世界を、どうやって完結させるのか。そのペンは、まだ俺の手の中にある。


第9章、お読みいただきありがとうございました。 圧倒的な「正義」を持つ聖女・歩花に対し、タイガが放ったのは「ノイズ」という名の人間賛歌でした。 完璧よりも、不完全なまま生きていくことの尊さ。45歳の彼だからこそ言える、重みのある(そして屁理屈な)反論を描けたと思います。 歩花は去りましたが、彼女との因縁はこれからも続きます。

【感想・高評価のお願い】 「タイガの屁理屈が最高!」「歩花の揺らぎが気になる」など、皆さまからの感想や高評価をぜひお聞かせください。 皆さまの応援こそが、この「ノイズだらけの物語」を動かすエネルギーです! (ぺこり)


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