第八章:救世の聖女、あるいは書き換えられる世界
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暴力ではなく言葉を選び、ようやくオークテリアに平穏な再建の槌音が響き始めました。不惑を過ぎて、ようやく「責任」という荷物の背負い方が分かってきた気がしてるタイガです。 しかし、運命は非情です。
1. 復興の槌音と、不穏な風
「……よし、そこだ。人族の若者も、オークの戦士も、力を合わせろ。重い石は魔力じゃなく、梃子の原理で動かすんだ」
俺は、オークテリアの広場にある崩れた時計塔の再建を指揮していた。 不殺を誓った俺は、創造主のチート魔法を「破壊」ではなく、資材の「切断」や「接合」に注ぎ込んでいる。45歳の身体には、現場監督という仕事は意外に馴染む。前世の修羅場(締め切り)で培った「段取り」の能力が、こんなところで役に立つとは皮肉なものだ。
「お兄ちゃん、今日も現場おじさんだね! 似合ってるよ、そのタオル巻き!」 キュアが、瓦礫の上でマシンガンを膝に置き、不敵な笑みを浮かべている。 「……これは日除けだ。それより、キュア。周辺の索敵はどうだ?」 「それがね、変なんだ。バグの影響はもう無いはずなのに、北の門の方から、この世界の魔素とは明らかに異なる『高純度すぎるエネルギー』が近づいてきてる」
スカルもランドセルを抱えて駆け寄ってきた。 「タイガさん……これ、マズいです。僕のいじったコアプログラムが、外からの干渉を感知して悲鳴を上げてます。この世界を『初期化』しようとする、強力な意思を感じます!」
その時だった。 雲ひとつない青空が、突如として眩い黄金色に染まった。 暴力的なまでの「清浄な気配」が街を満たし、作業をしていた住人たちが次々とその場に膝をつき、祈りを捧げ始めた。
2. 聖女・歩花の降臨
街の北門へと続く大通りの先に、一人の少女が立っていた。 年の頃は十七、八か。透き通るような銀髪をなびかせ、白銀の法衣を纏った彼女は、足を踏み出すごとに荒れ果てた石畳に花を咲かせ、崩れた建物を一瞬にして「あるべき形」へと修復していく。
だが、その光景は異常だった。 修復された建物は、元々のオークテリアの荒々しくも力強い建築ではなく、どこか無機質で、完璧すぎる「理想郷」のような姿に変貌していた。
「……何者だ、あの子は」 俺は、キュアとスカルを連れて彼女の前に立った。
少女は足を止め、慈愛に満ちた、だが感情の温度を感じさせない瞳で俺を見据えた。 「穢れた世界ですね。……悲しみと、争いと、未熟な創造の残骸に満ちている」
彼女は小さく首を振ると、涼やかな声で告げた。 「初めまして。私は歩花。迷える世界を救い、正しき理へと導く『救世の聖女』です」
「……救世、だと?」 俺は一歩前に出た。 「俺はこの街の……いや、この世界の責任者だ。勝手に人の街を自分好みの『理想郷』に書き換えてもらっちゃ困るんだが」
「責任者……。貴方が、この不完全なカオスを産み落とした『創造主』ですか」 歩花の瞳に、明確な蔑みの色が宿った。 「私は多くの世界を巡ってきました。どの世界の創造主も、自分たちの傲慢さで生命を弄び、苦しみを生み出している。……だから、私はそれらを取り除き、苦しみも争いもない『完璧な世界』へ再創造する使命を負っているのです」
3. 対立する二つの「正義」
歩花がその華奢な手を空にかざすと、彼女の背後に、この世のものとは思えない巨大な魔方陣が展開された。 「タイガ様。貴方の創ったこの世界は、あまりに不条理です。種族は反目し合い、バグという悲劇を生んだ。……私が今ここで、この世界の理を上書きし、平和な楽園へと変えてあげましょう」
「待て、歩花!」 俺は叫んだ。 「お前がやろうとしていることは、この世界に生きる連中の『意思』を無視した、ただの押し付けだ。苦しみや争いがあるのは事実だ。だが、それを乗り越えて、こいつらは今、自分たちの手で街を直そうとしているんだ!」
「それは無駄な足掻きです。不完全な根源からは、不完全な結果しか生まれない。……創造主タイガ。貴方は、生命を愛しているのではなく、自分の『作品』が愛おしいだけなのではありませんか?」
不惑を過ぎた俺の胸に、その言葉が鋭く刺さった。 作家として、俺は物語をコントロールしたくなる。だが、現実の世界は、俺のペンを離れて勝手に動き出している。それを「間違い」だと断じる権利は、果たしてあるのか。
「……かもしれないな。だがな、歩花。不完全だからこそ、こいつらは美しいんだ」 俺は、腰のポケットから最後の一本の『えびさビール』……ではない。 俺は、不殺を誓ったその手で、一冊の「白紙のノート」を取り出した。
「お前の『完璧』を、俺は認めない。俺が創ったこの欠陥だらけの世界には、お前の言う理想郷にはない『泥臭い希望』がある。……救世の聖女。お前の『上書き』、俺が不殺の物語で止めてやる」
「……残念です。理解し合えるとは思っていませんでしたが。……宣告します。この世界は、これより私が『救済』します」
歩花の身体から放たれた黄金の波動が、街の建物を、空を、そして住人たちの魂を「再創造」の名の下に侵食し始めた。
45歳のタイガ。 世界を創り直そうとする「聖女」と、世界を守り抜こうとする「おじさん」。 創造主の威信を懸けた、物語の書き換え戦争が幕を開けた。
第8章、いかがでしたでしょうか。 ついに現れた、タイガの「外敵」としての聖女・歩花。彼女は悪意ではなく、歪んだ「善意」と「使命感」を持って、タイガの世界を否定します。 不完全さを肯定するタイガと、完璧を求める聖女。 この価値観のぶつかり合いが、これからの旅の大きな軸となります。
【感想・高評価のお願い】 「歩花のキャラが強烈!」「45歳、聖女相手にどう立ち向かう!?」など、皆さまからの感想や高評価をぜひお聞かせください。 皆さまの応援が、タイガの「世界を守る執筆」を支える何よりの力となります! (ぺこり)




