第七章:言霊の街、あるいは創造主の執筆
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暴力ではなく言葉を選び、ようやくオークテリアに平穏な再建の槌音が響き始めました。不惑を過ぎて、ようやく「責任」という荷物の背負い方が分かってきた気がしてるタイガです。 しかし、運命は非情です。
1. 瓦礫の上の沈黙
「……ひどいもんだな」
俺の脳内にある数多の「物語」をシステムに流し込み、暴走するバグを強引に上書きした翌朝。オークテリアの街は、奇跡的に「形」を保っていた。 黒い泥に呑み込まれた人々は元の姿に戻り、広場や路地で力なく倒れ込んでいる。だが、街を包んでいるのは安堵ではなく、重苦しい沈黙と、壊れた建物から立ち昇る白煙だった。
「お兄ちゃん、お疲れさま。脳、焼き切れてない? 1+1はわかる?」 キュアが心配そうに覗き込んでくる。彼女のマシンガンは、俺の「不殺の誓い」に従って、今はセーフティが掛けられたまま大人しく肩に収まっていた。 「……ああ。1+1は、2だ。だが、この街の損害は、足し算じゃ追いつかないな」
俺は、ズキズキと痛む頭を押さえながら、瓦礫の山を歩いた。 スカルはランドセルを抱え、半泣きで住人たちの救護に回っている。 「ごめんなさい……本当にごめんなさい……」 彼が謝っても、住人たちは虚ろな目で彼を見るだけだ。一度バグに侵され、自分自身の「影」に食われた恐怖は、そう簡単には消えない。
「タイガ様……」 声に振り返ると、ガストン総支配人が、埃まみれの高級スーツを惨めに揺らして立っていた。 「街は壊滅的です。バルザス将軍を失い、オークの統治体制も崩壊しました。今、多種族の間で『誰がこの事態を招いたのか』という犯人探しが始まっています。……このままでは、内乱が起きますぞ」
45歳の独身作家、斉木大河。 これまで数々の「修羅場」を描いてきたが、現実の群衆が放つ負のエネルギーを前に、足が震える。だが、逃げるわけにはいかない。
2. 演説台という名の修羅場
広場には、不安と怒りに駆られた数千の住人が集まっていた。 人族、獣人、ドルフ……。彼らの視線は、高台に立つ俺たちに向けられている。 「あいつらだ! あの三人が来てから、街がおかしくなったんだ!」 「バルザス将軍を殺したのは誰だ!? オークの誇りを返せ!」
怒号が飛び交う。石が投げられ、キュアが瞬時にバリアを張る。 「お兄ちゃん、やっぱり一発デカいの撃ち込まないと静まらないよ!」 「ダメだ。暴力で黙らせれば、それはまた新しい『バグ』の種になる」
俺は、一歩前に出た。 マイクはない。だが、創造主としての「権能」を無意識に使い、俺の声は街の隅々まで、まるで心に直接響くように響き渡った。
「静かにしろ!……いや、静かにしてくれ」
俺の声に、広場が静まり返る。 「俺は、斉木大河。この異世界を……この街を、不器用ながらも愛している、ただの作家だ。今回の惨状、その元凶は俺たちにある。それは否定しない。……謝って済む問題ではないことも、わかっている」
俺は、瓦礫の山から一本の鉄パイプを拾い上げ、それを地面に突き立てた。 「俺は昨日、誓いを立てた。二度と武器を持たない、誰も殺さないと。……皆、見てくれ。俺には力がある。この街を消し飛ばすことも、お前たちをひれ伏させることも、容易だ。だが、そんなことはしたくない」
俺は、45年の人生で培った「言葉」のすべてを、魂に乗せた。
「この街は、多種族が共存する奇跡の街だったはずだ。オークの武力、人族の知恵、エルフの技……。それらが混ざり合って、この鉄壁の城を支えていた。……バグに呑まれた時、お前たちは何を見た? 隣人の恐怖か? それとも、自分自身の心の弱さか?」
「俺が描きたい物語は、誰かが誰かを支配する話じゃない。それぞれが、自分の足で立ち、隣人と笑い合える……そんな、ありふれた、だけど最も難しい物語だ。……頼む。俺に、その『続き』を書かせてくれないか。武器を捨て、瓦礫を拾い、この街をもう一度創り直す……その物語の、一員になってくれないか」
3. ペンは剣よりも……
沈黙が流れた。 永遠とも思える時間のあと、一人の老オークが、折れた槍を地面に捨てた。 「……バルザスが死に際、貴様に微笑んだという噂を聞いた。……ならば、我らも一度だけ、貴様の『物語』を信じてみようじゃないか」
一人、また一人と、武器を置く音が広場に響く。 45歳の俺は、全身の力が抜けるのを感じ、その場に膝をついた。 「……ふぅ。……胃が、死ぬほど痛い」
「お兄ちゃん、かっこよかったよ! 100点満点中、45点!」 キュアが、皮肉めいた、だが温かい言葉をかけてくれる。 「……45歳だからか?」 「当たり前でしょ!」
スカルが、ランドセルから何かを取り出した。 「タイガさん……これ。街の再建プログラムに、僕の『反省』を込めて、新しいアルゴリズムを組み込みました。もう、バグは起きさせません」
俺は、瓦礫の上に座り、懐からぬるくなった『えびさビール』を取り出した。 「……さて。再建の物語、第一章といこうか」
不殺の創造主、斉木大河。 暴力という近道を捨てた男の、果てしなく遠回りな、だが確かな歩みが、ここから始まる。
第7章、いかがでしたでしょうか。 「不殺」を貫くための、言葉による対決。45歳のタイガが、作家としての矜持をかけて群衆と向き合う姿を描きました。 力でねじ伏せるのは簡単ですが、心を通わせるのはこれほどまでに難しい。それでも、彼はその道を選びました。
次章、オークテリアの再建と、さらなる「異世界」の深淵へ。 武器を持たない神様が、次に何に出会うのか。
【感想・高評価のお願い】 「タイガの演説にしびれた」「キュアの45点評価が絶妙」など、皆さまからの感想や高評価をぜひお聞かせください。 皆さまの応援が、タイガの「言霊の旅」を支える何よりの糧となります! (ぺこり)




