表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第六章:不殺の残響、あるいは創造主の贖罪

皆さま、お越しいただきありがとうございます。

バルザス将軍の死。あの掌に残った忌まわしい感触が、自分が生み出した命を、自分の都合で摘み取る傲慢さだけは、もう二度と繰り返したくない。男の「言葉の力」、どうぞ見守ってください。


1. 狂乱の黒泥クロドロ

「お兄ちゃん、右から来るよ! 薙ぎ払え!」

キュアの叫びと共に、彼女のマシンガンから放たれた極彩色の光線が、迎賓館のバルコニーに這い上がってきた「人型の泥」を消し飛ばした。 ズギャァァァァンッ!! 光線が通過した後は、石造りの手すりさえも蒸発し、夜空に白い煙がたなびく。

「……はぁ、はぁ……」 俺の手には、いつの間にかキュアから渡された護身用の魔導短銃が握られていた。 引き金を引くたびに、泥の怪物が弾け、黒い液体を撒き散らす。それは命と呼ぶにはあまりに無機質で、だが、飲み込まれた人々の「絶望」だけが混じり合っているように感じられた。

「タイガさん、ダメです! リセットプログラムが走らない! この泥、街の住人の『負の感情』を燃料にして増殖を続けてます!」 ランドセルを抱えたスカルが、半泣きで叫ぶ。 「お前の改ざんのせいで、住人の心までデータ化されてるってことか!?」 「そうです……! 彼らの怒りや悲しみが、バグと結びついて実体化してるんです!」

街を見下ろせば、さっきまで交易に励んでいた商人や、誇り高いオークの兵士たちが、自分の「影」に食い尽くされ、異形の怪物となって仲間を襲っていた。 それは、凄惨な共食いの風景だった。

2. 引き金の重みと、あるオークの死

「タイガ殿……逃げ、ろ……」

足元で声がした。見れば、バルザス将軍が、下半身を黒い泥に侵食されながら剣を杖にして立っていた。 「将軍! 今助ける、キュア!」 「無駄だ、お兄ちゃん。彼の精神データはもう汚染されてる。あと数分で、あの化け物の一部になるよ」

バルザスの瞳から、知性の光が消えかかっている。代わりに、どろりとした漆黒の殺意がその眼窩を埋め尽くそうとしていた。 「……頼む。武人として、誇りを……持ったまま……逝かせてくれ……」 彼は、俺の持つ短銃を指差した。

俺は、銃口を彼に向けた。 指が、鉄のように重い。45年、ペンを握るためにあった指だ。誰かの命を終わらせるために鍛えたわけじゃない。 「……っ!」 目をつむり、引き金を引いた。

光の弾丸がバルザスの眉間を貫く。 彼は満足げに微かに微笑み、そのまま灰となって崩れ落ちた。 その瞬間、俺の掌に伝わった反動。それは、単なる物理的な振動ではなかった。一人の男の人生、家族への想い、この街への誇り。それらすべてを「無」に帰してしまったという、取り返しのつかない罪悪感が、津波のように俺を襲った。

「……俺は、何をしているんだ」

周りを見れば、キュアが楽しげにバグを掃射している。スカルは恐怖に震えながらコードを叩いている。 だが、俺が殺したのはバグじゃない。俺が創ったはずの、この世界を懸命に生きていた「人」だ。たとえバグに侵されていたとしても、俺の手でそれを断ち切る権利が、果たして創造主にあるのか。

3. 不殺の誓い:えびさビールの誓約

「……もう、やめだ」

俺は、手にしていた短銃を床に投げ捨てた。 「お兄ちゃん!? 何してるの、まだ化け物はたくさんいるよ!」 「キュア、掃射をやめろ。スカル、リセットじゃない。プログラムを『上書き』するんだ」

俺は、投げ捨てた銃の代わりに、ポケットから最後の一本の『えびさビール』を取り出した。 冷たさはもうない。だが、俺はこのぬるい液体を口に含み、虚空に向かって言い放った。

「いいか、世界のシステム。俺はこの世界の『創造主』、斉木大河だ。不惑を過ぎて、ようやくわかったよ。力で解決する事象に、本当の救いなんてない。誰かを殺して得る平和は、ただの『死の静寂』に過ぎないんだ」

俺はスカルのランドセルを掴み、その通信ポートに自分の手をかざした。 「スカル、俺の脳内にある『物語』をスキャンしろ。俺が45年、空想の中で描き続けてきた、どんな不条理も最後には誰かが笑えるような、甘っちょろいハッピーエンドのイメージを……全部、このバグに流し込むんだ!」

「そんな、無茶ですよ! データの負荷でタイガさんの脳が焼き切れちゃいます!」 「焼き切れるなら、作家冥利に尽きるさ。……キュア、俺を守れ。一歩も通すな。俺は、もう二度と、誰も殺さない。たとえこの世界が滅びるとしても、俺の手は血を拭うためにだけ使う」

それが、俺の**「不殺の誓い」**だった。 45歳の独身作家、斉木大河。 人生の後半戦を、武力ではなく、言葉と、想いと、そして「物語」だけで救うと決めた瞬間だった。

俺の脳から溢れ出した眩いばかりの「物語の奔流」が、スカルのランドセルを経由して街全体へと広がっていく。 泥の怪物たちが、その光に触れた瞬間、動きを止めた。 彼らの内にあった「負の感情」が、タイガが描く優しい物語に上書きされ、消えていく。

「……ふぅ。やれやれ、胃が痛いな」

俺はぬるくなったビールを飲み干した。 視界が白く霞む中で、俺は誓った。 これから先、どんな困難があろうとも、俺はペン(想い)を剣には変えない。 それが、バルザス将軍と、この街のすべての人々への、俺なりの贖罪だ。


第6章、いかがでしたでしょうか。 バルザス将軍の死、そして自らの手で命を奪った瞬間の痛みが、タイガに「不殺」を選ばせました。45歳という、命の重みを実感し始める年齢だからこそ辿り着いた、泥臭い誓いです。 これから先、武器を持たない創造主が、どうやってこのカオスな世界を導いていくのか。

【感想・高評価のお願い】 「タイガの不殺の決意が重い」「45歳、かっこいいじゃないか」など、皆さまからの感想や高評価をお待ちしております。 皆さまの応援が、タイガの「不殺の旅」を支える何よりの力となります。 (ぺこり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生, チート, ざまぁ 不殺, 既婚者ヒロイン, おばあちゃん) ディープステート, 暗殺, SNS
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ