第三章:死屍累々の平野、あるいは理想の墓場
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欠陥だらけの異世界に、ランドセルを背負った元凶と、毒舌な美少女AIと共に放り出された45歳の俺。 第3章では、拠点とした洞窟を離れ、さらに森の奥へと進みます。そこで我々を待ち受けていたのは、魔獣ではなく、人類同士が織りなす「地獄」でした。 不惑を過ぎてなお、血の臭いには慣れません。胃薬が恋しい俺の旅路、どうぞ見守ってください。
1. 「絶対領域」と匠の技
「ふぅ……久しぶりに人間らしい生活をした気がする」
俺は、キュアが創造主チート魔法「バーサタイルDIY(匠の技)」で作った、高級ホテルのスイートルーム並みのベッドから身を起こした。 崖の洞窟を改造した室内は、快適な温度に保たれ、微かにラベンダーの香りが漂っている。
「お兄ちゃん、おはよう! よく眠れたみたいだね、45歳のおじさんにしては!」 キュアが、朝から眩しい笑顔(目鼻はないが、雰囲気でわかる)で、俺に毒を吐く。 「……うるさい。それと『お兄ちゃん』はやめろと言ったはずだ」 「えへへ、でもキュアは妹属性だから、お兄ちゃんって呼ばなきゃ存在意義が……」 「なら、存在意義を見直せ」
俺は、ベッドの横に置かれた、これまたキュアが「ワールドフードオーダー(お取り寄せ)」で地球から取り寄せた、淹れたてのコーヒーを一口飲んだ。 「……うまい。やっぱり、朝はこれだな」 「ははは! タイガさん、地球の文化って、本当に素晴らしいですね!」 隣のベッドから、ランドセルを背負ったスカルが、これまた地球の高級羽毛布団を跳ね除けて起きてきた。
「……スカル。お前、ランドセルは下ろせ。ここは学校じゃない」 「えっ、でもこれ、僕のアイデンティティなんです! 中には、僕の夢と希望が……」 「入ってるのは、昨日飲み残した『えびさビール』の空き缶だろ」
俺たちは、とりあえずこの拠点を離れ、この森を抜けることにした。 「キュア、防壁魔法は?」 「もちろん! 『パーフェクトバリア(絶対領域)』展開中! 魔物も魔獣も、このバリアは通れないよ!」 俺たちの周りには、半透明のドーム型のバリアが、音もなく展開されていた。 これなら、昨日みたいにキメラに襲われる心配もない。
「さて、行くか」 俺たちは、洞窟を出て、鬱蒼とした巨大な森を、東へと向かって歩き始めた。
2. 死の匂い、あるいは戦場の現実
森の中は、相変わらず薄暗く、巨大な樹木が日光を遮っている。 しかし、昨日とは何かが違っていた。 「……血の臭いだ」 45歳の俺は、かつて事件取材で嗅いだことのある、あの鉄錆のような、生臭い臭いを敏感に察知した。 「えっ、魔獣の殺し合いですか!?」 スカルが、不謹慎にも目を輝かせる。 「……違う。もっと、大勢の……」
森の切れ目が、前方に見えてきた。 明るい光が差し込んでいる。しかし、その光は、希望のものではなく、絶望の始まりだった。
森を抜けた俺たちの前に広がっていたのは、地平線まで続く、広大な平野だった。 だが、その平野は、草木ではなく、無数の人間の死体によって埋め尽くされていた。
「……な、なんだ、これは……」 俺は、言葉を失った。
死屍累々……。 その言葉は、まさにこの光景のためにあった。 あっちでも、こっちでも、死体が山を成し、血の河が流れている。 「今演算したら、死者1万487人だね。十数万人以上での戦闘だったらしいね」 キュアが、淡々と、そして高性能に、死者の数を弾き出した。
関ケ原の合戦と同規模……。 だが、ここは地球ではない。俺が、いや、俺たちが創った、異世界だ。
「ひどい……」 スカルが、顎が外れるかと思うほど口を開け、茫然として固まっていた。 「おいスカル、これが必然、当然の結果じゃないかと俺は思う」 俺は、スカルの顔を覗き込んだ。
「そんな、なんで? 僕はもっと多様な世界を……色どり鮮やかな文化が花開くようにしたのに」 「俺は思うんだが、地球の世界でなぜ人類がホモサピエンスだけになったのか、それは多種族を受け入れられなかったからさ。各々が自我を持った時点で、排除しなければならない対象となる。だから、同じ人類同士は互いに絶滅するまで争いは続いた……その結果だと思う」
「そんなこと……何の…誰の得にもなんないよ」 スカルが、泣きそうな声で呟く。 「得にはならない、確かにそうだが、それが現実だ。お前がリミッターを外した結果が、これだ」
俺たちは、屍がおい重なる戦場跡を、東へと向かって歩き始めた。 立ったまま槍が胸に突き刺さった者、首が無い者、顔が完全につぶれている者、泣きながら息絶えている者。 そして、その人種も、様々だった。 角がはえている者、牙爪が鋭い者、半人半獣、背中から翼を生やしている者。 「お兄ちゃん、これはほぼ全部の異種族が関係した大規模戦争らしいね」 「お互いが存亡を賭けた大決戦って訳か」
スカルは、うつむきながら、無言でついてきていた。 そして、無残な死体を数々見、そして通り過ぎ、とうとう泣き出していた。
3. 多種族のカオス、あるいは希望の光(?)
俺たちは、戦場跡を抜け、再び森の中へと入った。 「キュア、周辺の地図を出せないか?」 地図は目の前にホログラフィックのように半透明で浮かび上がる。 「東の方に結構大きい街、いや都市か?この規模だと」 「これは城塞都市国家オークテリアですね、名前の通りオーク族が支配しているはずですが」 いつの間にスカルが落ち着いたのか、タイガに話し掛けてくる。
「オーク?前世のゲームじゃ、どう猛な魔物だけどなあ」 「この世界では亜人も人種枠になっているから、知性はほかの種族とほぼ同等だし、それでいて戦うとなったらオークのそれだから強兵で厄介だけどね」
今度はキュアがオークテリアの情報を話してきた。 「意外と交易が盛んで、一番多種族が多く共存していることも、ほかの国とは違っている点だね。オークはメスが極端に少ないから多種族のメスと荒廃してでないと種族は増やせないからね、それで多種族との垣根が低いらしい。それが交易をしやすくさせて、今の都市の規模まで大きくなったようね」 「意外だな、オークが通商立国を保持しているなんて」 「でも、オーク族に商人は一人もいないらしいよ、まず全員が軍属で構成されている。あと、行政から外交まで多種族が運営しているらしいよ」
「……待て、という事は死体の脳を……」 俺は、キュアの言葉に、嫌な予感を抱いた。 「うん一度吸い出して、攪拌してそれをナノテクで新たに神経系統を再構築して脳を再生してから、色々聞きだしたんだ」 キュアの話を聞いてやっと落ち着いたスカルがうずくまって嗚咽を漏らしている。
「なんか聞き捨てならない事を聞いた気がするが、その脳に…聞いたって」 「うん、それぞれ機能する細胞を寄せ合わせる必要があったから、複数の脳みそを混ぜて攪拌したからね、聞き出す際には泣いたり、叫んだり、祈ったりでちょっと大変だったよ」 「キュア……今後それ禁止な」
俺たちは、とりあえずオークテリアに向かう事にした。 比較的、人間も多く住んでいるらしいし、さまざまの種族の情報も集められるし、R指定じゃない方法で……。
「……45歳。再就職先は、死体の山を越えて、オークの街へ向かう神様、か」 俺は、深くため息をついた。 この先に待っているのは、希望などではない。 もっとドロドロとした、人間の、そして亜人たちの「業」の深淵だという確信があった。
だが、それでも、俺はこの世界の創造に関わった以上、責任があると思っている。 それを取らないで、いつ終わるかわからない殺し合いの世界を変えたい。
「行こう。俺たちの創った、この世界の行く末を、見届けに」 俺は、キンキンに冷えた『えびさビール』を、一気に飲み干した。
第3章、いかがでしたでしょうか。 死屍累々の平野、そして多種族のカオス。 スカルの甘い理想が砕け散り、タイガが創造主としての重責を感じ始める、そんな章でした。 45歳という年齢は、理想と現実のギャップに悩み、そして、責任を取ることに重きを置く、そんな世代だと思います。
次章、一行はついに「城塞都市オークテリア」へと足を踏み入れます。 そこで彼らが見るものは、多種族が共存する、奇妙で、そして力強い、新しい社会です。
【感想・高評価のお願い】 「タイガの責任感が熱い」「キュアの脳攪拌がエグい」など、どんな些細なことでも構いません。皆さまからの感想や高評価が、私の執筆の唯一のガソリンです。 ぜひ、あなたの声を届けてください!(ぺこり)




