第二章:カオスの森と、ランドセルの死神
皆さま、お越しいただきありがとうございます。
この世界は、私が望んだ理想郷ではありません。バグまみれで、不条理で、それでいてひどく愛おしい「ノイズ」に溢れています。私はここで、二度と誰の命も奪わないと誓いました。代わりに私のペンで、悪意ある者たちに「新たな役割(家畜)」を与え、世界を豊穣へと導くつもりです。
一人の作家として、そしてこの世界の不器用な創造主として、最高に泥臭い「ハッピーエンド」を目指して筆を進めます。
どうぞ、最後までお付き合いいただければ幸いです。
. 創世主の第一歩、あるいは墜落
「いっけぇ〜! 異世界創造主、爆誕!!」
キュアの脳天気な叫びが鼓膜を震わせた直後、俺の視界は激しく回転した。 重力という概念が仕事放棄をしたかのような浮遊感。いや、正確には「自由落下」だ。 「ちょ、待て! キュア! 降り方が雑すぎるだろ!」 叫ぼうとした口に、冷たく、それでいてどこか芳しい湿った空気がなだれ込んでくる。 ドォォォォンッ!! 凄まじい衝撃と共に、俺の身体は地面……いや、腐葉土の山に叩きつけられた。
「……ぐ、ふっ……」 45歳の身体には、たとえそれが再構成された霊体に近いものだとしても、この衝撃はキツすぎる。肺から空気がすべて絞り出され、目の前で火花が散った。 「お兄ちゃ〜ん! 着地成功だね! 100点満点中、2点かな!」 「……減点対象を教えろ……殺すぞ……」 俺は泥まみれの顔を上げ、辺りを見渡した。
そこは、鬱蒼とした巨大な森だった。 だが、俺の知る「森」のスケールではない。一本一本の樹木が、都庁のビルほどもある。空を見上げようとしても、幾重にも重なった巨大な葉が日光を遮り、永遠の黄昏時のような薄暗い緑の世界が広がっていた。 「ここが……俺の創った世界か?」 「そうだよ! オート設定で選ばれた、惑星イースの原生林だよ!」
ふと、上空で羽ばたきのような音が聞こえた。 見上げると、そこには翼を広げたトカゲのような生物……いや、ワイバーンが数体、空中戦を繰り広げていた。一匹が猛然と火を噴き、もう一匹の翼を焼き払う。 「お、おい……あれは……」 「あはは、景気がいいね! さっそく魔獣同士の殺し合いだよ!」 火を吹かれた個体が、真っ逆さまにこちらへ落ちてくる。 「こっち来るぞ! 避けろ!」 俺は這いつくばるようにして茂みへと飛び込んだ。直後、凄まじい音と共に巨体が墜落し、辺りに焦げた肉の臭いが立ち込める。
そこへ、茂みを掻き分けて「それ」が現れた。 体長は五メートルはあるだろうか。虎の頭を持ち、尾が巨大な大蛇になっている魔獣……キメラだ。 「ひっ……」 不惑の作家は、情けなく短い悲鳴を上げた。 虎の目は爛々と輝き、蛇の尾はチロチロと舌を出して俺を値踏みしている。 死んだはずなのに、背筋を冷たい汗が伝うのがわかった。
2. マシンガン・美少女・メタフィジカル
「お兄ちゃん、危なーい!」 キュアが叫ぶと同時に、彼女の肩に担がれたマシンガンが火を噴いた。 いや、火ではない。放たれたのは、網膜を焼くような極彩色の光線だ。 ズギャァァァァンッ!! 光線はキメラの胸部を正確に貫き、背後の巨木ごと消し飛ばした。魔獣は断末魔の声すら上げられず、塵となって消えていく。
「ふ〜、やれやれ。やっぱり美少女にはマシンガンが必須だね」 「……お前、今の攻撃、何だ? 物理法則を無視してなかったか?」 「当たり前でしょ、対物センサー付きの環境順応型だよ。お兄ちゃん、ここはもう地球じゃないんだから」
俺は地面にへたり込んだまま、震える手でタバコを探したが、持っているはずもなかった。 「キュア、説明しろ。この世界、明らかに俺の意図と違う。オート設定ってのは、もっとこう、無難なファンタジーになるもんじゃないのか?」 キュアはマシンガンを担ぎ直し、真顔で言った。 「それがね、お兄ちゃん。このプロジェクトのコアプログラムに、何者かが外部から介入した形跡があるの」 「改ざん……だと?」 「そう。だから、この世界はエントロピーが極限まで増大した、カオスな地獄になっちゃってるの。で、その犯人はね……」
キュアが指差した先。 一本の巨木の影から、不釣り合いな「音」が聞こえてきた。 ズゾゾ……ズゾゾ……。 「助けてぇ……もう嫌だぁ……」 情けない泣き声と共に現れたのは、泥だらけの半ズボンを履き、なぜかランドセルを背負った一人の少年だった。
3. 前任者の懺悔と、えびさビール
「……ガキ?」 俺の言葉に、少年は顔を上げた。鼻水と涙でぐちゃぐちゃの顔。 「あ、あなた様は……もしや、後任の……創造主様ですか!?」 少年はいきなり俺の足にしがみついてきた。
「俺はスカル。このプロジェクトの……その、元・担当者です」 「スカルだと? 貴様がこの地獄を創りやがったのか!」 俺は思わず少年の胸ぐらを掴み上げた。 「違うんです! 僕はただ、もっと多様で、もっと刺激的な、類まれな世界を創ろうとしただけで! コアプログラムのリミッターを外したら、防衛システムに弾き飛ばされて、自分もこの世界に落ちちゃったんですぅ!」
聞けば、この少年「スカル」は、宇宙創造社ヤハの社員……もとい「創造の片鱗」でありながら、独断でプログラムを改造した不届き者だった。 「お前のせいで、俺は死後早々にキメラに食われかけたんだぞ!」 「すみません! でも、見てください! この弱肉強食の美しさ! 想像以上ですよ!」 「どこがだよ!」
俺たちは、とりあえず安全な場所を求めて移動を開始した。 キュアが「匠の技(バーサタイルDIY)」というチート魔法で、崖の洞窟を高級ホテルのスイートルーム並みに改造し、バリアを張る。 「ふぅ……ようやく一息つける」 俺は豪華なソファに深く沈み込んだ。
「スカル、お前、この世界の人類をどうした」 「あ、人類ですか? それはもう、気合を入れましたよ。種族のリミッターも外しました。人族、魔人、エルフ、獣人……全部で数十の種族が、殺し合いながら繁栄……じゃなくて、共存するように設定しました」 「……それ、絶対共存しねえだろ」
スカルは、申し訳なさそうに亜空間から「あるもの」を取り出した。 「これ、お近づきの印に。タイガさんの思考をスキャンして再現しました」 それは、キンキンに冷えた缶ビールだった。ラベルには『えびさビール』とある。 「……っ! 貴様、わかってるじゃないか」
プシュッ、という最高の音。 俺は喉を鳴らして、琥珀色の液体を流し込んだ。 「……くぅぅぅぅっ! 五臓六腑に染み渡る! 殺伐とした異世界で飲むビールが、こんなにうまいとは!」 「あ、僕も飲んでいいですか?」 「お前は子供だろ。……あ、でも中身は人外か。まあいい、飲め」
キュアも一緒に飲み始め、数分後。 「1+1は……うにゃにゃ……お兄ちゃん、好き……」 「ははは! 世界が回るよぉ〜!」 アルコール耐性のない人外二人が、ベッドの上で絡まり合って爆睡を始めた。
俺は一人、窓の外(といってもバリア越しだが)の、不気味に光る森を眺めた。 「……45歳。再就職先は、欠陥だらけの世界の神様、か」 俺は最後の一口を飲み干し、深くため息をついた。 この先に待っているのは、希望などではない。 もっとドロドロとした、人間の、そして亜人たちの「業」の深淵だという確信があった。
第2章、いかがでしたでしょうか。 ビールを片手に、少しずつ「創造主」としての自覚(と諦め)を持ち始めたタイガ。年齢は、不条理を受け入れるには十分すぎるほど枯れており、それでいて怒るべき時には怒る熱量も残っている、そんな過渡期だと思います。
次章、一行はついに「戦場」へと足を踏み入れます。 そこで彼らが見るものは、スカルの甘い理想を粉砕する残酷な現実です。
【感想・高評価のお願い】 「タイガ頑張れ」「キュアの毒舌が足りない」など、どんな些細なことでも構いません。皆さまからの感想や高評価が、私の執筆の唯一のガソリンです。 ぜひ、あなたの声を届けてください!(ぺこり)




