第5話 後談
『お疲れさま。バレなくて良かった』
調査団を見送って基地に戻ると、デックスから伝達魔法で連絡が入った。彼の声はいつも淡々としており感情が読み取りにくいが、今日は流石に安堵の色が滲んでいる様子が聞いてとれた。
「あいつが来ること知ってた?」
『知ってた。でも言わなかった、ごめんね』
「いや、むしろ助かった。ありがとう」
アンミは演劇の芸者ではない。もし事前に知っていたらあんな上手に驚くことは出来なかっただろう。彼の判断は賢明だった。
いやはや、あの女の訪問には肝を冷やされた。一歩違えばアンミは首を跳ばされていた。鎌を掛けられていると気付き、自分の変身術の技量を信じて正解だった。
「これからも監視頼むな」
『お安い御用だよ、任せて』
レベリオ唯一の情報収集担当であるデックスにしかこなせぬ仕事だ。彼の負担をあまり大きくしたくはないが、あれに関しては話が違う。
ハルウ・バリー。史上初の女騎士、かつ、砂漠の民出身者では初の国家騎士団団長。
生まれは砂漠の警備隊を担う一家の一人娘。父に憧れて女ながらに警備隊に入隊し、齢三十五という若さで隊長に就任。その十年後、王家直々の推薦で国家騎士団に入団。団長の地位まで上り詰めるのにそう時間もかからなかった。
そして現在、五十七歳――人生百五十年といわれる砂漠の民にとっての全盛期。あの自由奔放ぶりである。
それが許されるのも、彼女の実績があまりにも大きいからだろう。
負けなしとも言われるほど並々ならない武術の腕。同時に魔術にも長け、戦闘時に併用するともう誰も敵いっこなし。その上、裏表のない闊達な性格で、実直で、義理堅い。こんな逸材が他にいるものか。
だが、敵側からしたら厄介以外の何者でもない。
馬鹿単純で、正義感が強くて、常識なんて通用しない力技で戦って生きているくせに、そのパワーが強すぎる。
アンミには到底理解できないバケモノ。
「けど、もし俺があいつに敗れることがあっても、デックスのせいじゃないから」
『不吉なこと言わないで。アンミくんはハルウなんかに負けないよ。今回だって勝ち抜いたでしょ』
はは、と渇いた笑いを返す。
確かに、今回はなんとかやり過ごした。だからといって次も出し抜ける保証はどこにもない。かの刃はレベリオを滅ぼさんと常に研ぎ澄まされている。いつこの喉を掻っ切りにくるか、いつこの身は真二つに千切られてしまうか。考えたくもない。
『でも、そうだね。もし今回君がハルウに敗れていたら、間違いなく君の判断ミスだった』
「おっと、急に厳しいこと言うね」
『だって、アンミくん』
束の間の沈黙に残った、自分の名前を呼ばれた余韻が、カンの声を再生した。それでもう、通話先の彼が何を言わんとしているのか察してしまった。
「そうだよな、わかってる。前線に出るのはしばらく控えるよ」
『そうして。みんな不安そうにするから』
悪うございました、リーダーとして未熟なもので。
自分が放った言葉が、喉まで出かかって止まる。本当は、不安にさせることなく組員の安全を確保する選択が最善だ。わかっているけれど。
だって、仮にペウルがレベリオ側だと発覚していたら、本人や他の村人どころか拠点にも危険が及んでいたかもしれない。今回は不遇にもハルウとかいう危険物が来てしまったためアンミも危うかったが、むしろハルウ相手にペウルがやり通せただろうか。やはり自分の判断が正解だったように思える。
もちろん言われた通り、振る舞いにはもう少し気をつける。でも、仲間の心象より損害回避の方を優先すべきだ、そうだろう?




