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この心臓に愛を  作者: 竜花
裁断の剣 -崩壊-
31/38

第31話 出立前夜

「――なぁ」

「何? マダム」

「アンタは、輪廻についてどう思う?」

「どうって……」

「輪廻は救いだと思うか? それとも、苦だと思うか?」

「……どちらかというと、救いだと思う」

「理由は?」

「うーん。生のありがたみを実感できるから、かな。俺たちは実質的に永遠を生きている。でもその中で世界に降り立つ時間はあまりにも短い。だからこそ、魔族はこの世界に生きることを祝福とするんだろ」

「なるほどな」

「マダムはどうなんだ? たまに、自分はさっさと輪廻に還るんだとか言っているが」

「基本はアンタに共感するよ。輪廻は救いだと思う。でも、危うさみたいなものもある」

「というのは?」

「輪廻のおかげで、あたしたちは日常的に死に近い場所にいる。眠りと死って、どちらも魂が魔界にいるということ、言ってみれば同じ状態だろ。それによって、生に対する意欲が低くなる可能性が高い」

「そうか?」

「だって、眠りは安らぎの時間だろ。断然、死んでいるより生きている方が苦しい」

「まぁ、そうか……」

「死への恐怖を克服することで、生きる喜びを感じられるって点では救いなんだけどね。そこに辿り着くまでが苦しいんだよ」

「……マダムも、そうだった?」

「もちろんさ。いかんせんこっちは生かしてきた側でもあり、死なせてきた側でもあるからね」

「死なせたこともあったのか」

「おや、覚えてないかい? まぁ、アンタらは小さかったからねぇ。むしろ、あたしが生かせたのはアンミ一人だけさ」

「そんなことないだろ。蘇生だけが全てじゃない、マダムは多くの人を救ってきた」

「そう思っておくことにするよ」

「ああ、忘れないでくれ。……ところで、どうしたんだ、急にこんな話をするなんて」

「明日からアンミたちと旅に出るって言ったろ。きっと、ゆっくり話ができるのは最後になるから」

「最後って……」

「アンタに、話したいことがあるんだよ」

「……何?」

「一回だけ、アンタを叩いたことがあった。覚えてるかい?」

「……タスカがいなくなったあと、か?」

「そう。アンタは、代われるものなら自分が代わりたかったって、そう言った。それを聞いて思わず叩いちまった」

「それを気にしてるのか? いいよ。痛くなかったし、俺は気にしていない」

「気にしてないのは困るな。あたしゃ今だってあの発言を許しちゃいないんだから」

「えぇ?」

「当たり前だろ。命を懸けてレベリオを守ったタスカに失礼だ」

「それは、そうか」

「そうさ。きっとタスカだってアンタを殴ってただろうね」

「そう、だろうな。で、それがどうした?」

「忘れるなよって、言いたかったんだよ。アンタのその様子じゃ、同じことを繰り返しかねない」

「……」

「なんだかんだ、アンタもタスカとよく似てんだよ。自己犠牲精神っていうのかねぇ。あたしなんかは自分の救える範囲しか救ってこなかったけど、アンタらはあたしより強くて優しいから」

「……間近で見てきたからこそ、あいつの在り方の美しさをよく知っているんだ」

「ああ」

「知らず知らずうつっていた部分もあるだろうし、自覚がある部分もある」

「ああ。だから言いたかったんだ。アンタにはアンタにしかできないことがあるってさ」

「……それで、輪廻の話がどう繋がるんだ?」

「それはまぁ、導入みたいなものさ。何にせよ、アンタも大概にしなよ」

「努力する」

「努力じゃない。約束しろ」

「……わかった。もう、あんなことは言わない」

「よし。じゃあ、元気にしてるんだよ」

「マダム」

「何だい?」

「……どうか、良い旅を」

「ああ。ありがとな」

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