第31話 出立前夜
「――なぁ」
「何? マダム」
「アンタは、輪廻についてどう思う?」
「どうって……」
「輪廻は救いだと思うか? それとも、苦だと思うか?」
「……どちらかというと、救いだと思う」
「理由は?」
「うーん。生のありがたみを実感できるから、かな。俺たちは実質的に永遠を生きている。でもその中で世界に降り立つ時間はあまりにも短い。だからこそ、魔族はこの世界に生きることを祝福とするんだろ」
「なるほどな」
「マダムはどうなんだ? たまに、自分はさっさと輪廻に還るんだとか言っているが」
「基本はアンタに共感するよ。輪廻は救いだと思う。でも、危うさみたいなものもある」
「というのは?」
「輪廻のおかげで、あたしたちは日常的に死に近い場所にいる。眠りと死って、どちらも魂が魔界にいるということ、言ってみれば同じ状態だろ。それによって、生に対する意欲が低くなる可能性が高い」
「そうか?」
「だって、眠りは安らぎの時間だろ。断然、死んでいるより生きている方が苦しい」
「まぁ、そうか……」
「死への恐怖を克服することで、生きる喜びを感じられるって点では救いなんだけどね。そこに辿り着くまでが苦しいんだよ」
「……マダムも、そうだった?」
「もちろんさ。いかんせんこっちは生かしてきた側でもあり、死なせてきた側でもあるからね」
「死なせたこともあったのか」
「おや、覚えてないかい? まぁ、アンタらは小さかったからねぇ。むしろ、あたしが生かせたのはアンミ一人だけさ」
「そんなことないだろ。蘇生だけが全てじゃない、マダムは多くの人を救ってきた」
「そう思っておくことにするよ」
「ああ、忘れないでくれ。……ところで、どうしたんだ、急にこんな話をするなんて」
「明日からアンミたちと旅に出るって言ったろ。きっと、ゆっくり話ができるのは最後になるから」
「最後って……」
「アンタに、話したいことがあるんだよ」
「……何?」
「一回だけ、アンタを叩いたことがあった。覚えてるかい?」
「……タスカがいなくなったあと、か?」
「そう。アンタは、代われるものなら自分が代わりたかったって、そう言った。それを聞いて思わず叩いちまった」
「それを気にしてるのか? いいよ。痛くなかったし、俺は気にしていない」
「気にしてないのは困るな。あたしゃ今だってあの発言を許しちゃいないんだから」
「えぇ?」
「当たり前だろ。命を懸けてレベリオを守ったタスカに失礼だ」
「それは、そうか」
「そうさ。きっとタスカだってアンタを殴ってただろうね」
「そう、だろうな。で、それがどうした?」
「忘れるなよって、言いたかったんだよ。アンタのその様子じゃ、同じことを繰り返しかねない」
「……」
「なんだかんだ、アンタもタスカとよく似てんだよ。自己犠牲精神っていうのかねぇ。あたしなんかは自分の救える範囲しか救ってこなかったけど、アンタらはあたしより強くて優しいから」
「……間近で見てきたからこそ、あいつの在り方の美しさをよく知っているんだ」
「ああ」
「知らず知らずうつっていた部分もあるだろうし、自覚がある部分もある」
「ああ。だから言いたかったんだ。アンタにはアンタにしかできないことがあるってさ」
「……それで、輪廻の話がどう繋がるんだ?」
「それはまぁ、導入みたいなものさ。何にせよ、アンタも大概にしなよ」
「努力する」
「努力じゃない。約束しろ」
「……わかった。もう、あんなことは言わない」
「よし。じゃあ、元気にしてるんだよ」
「マダム」
「何だい?」
「……どうか、良い旅を」
「ああ。ありがとな」




