第3話 春来
『アンミくんに報告。近日中に、国の調査員が来るよ』
脳内に伝達魔法が届く。地下深くに潜む我らが情報屋、デックスの声だ。
レベリオが拠点にしているのは、王国の北西、山奥にある僻地。世間一般には山峡村と呼ばれている集落だ。
「もうそんな季節か」
毎春の恒例行事。村の情勢を確認するだけの、ちょっとした調査。今年は例年と少しだけ状況が変わる。その対策を打たねばならない。
「――危険だろう、本当にやるのか?」
アンミの案を聞いて、仲間のカンは顔を曇らせた。
「わざわざお前がペウルを演じなくても。何のための村長だよ」
ペウル、というのもレベリオの団員の一人だ。地上で村人役として暮らしている彼には、ひと月ほど前から「山峡村の村長」になってもらっていた。
「前村長が急逝してまだ業務の引継ぎが完了できていないんだよね」
「状況は国側だって理解しているはず。ペウルが多少手間取ったって疑われるほどではないだろう」
「村の運営にレベリオが携わってるのを隠さなきゃならない。でもペウルはまだ誤魔化し方を知らない」
そこで編み出した策がこれだ。アンミが変身魔法で彼の姿を被り、ペウルを演じる。アンミなら村について何か聞かれても答えられるし、演技もそこそこ上手い自信がある。
「だが、偽物だと見破られたら村全体がこっち側だとバレる」
「申し訳ないけどペウルは一時的に村の外に監禁しておいて。見つかっても俺が一人で潜伏してただけってことにする」
「アンミ」
カンが嗜めるように名を呼ぶ。
それでも彼は、名前を呼ぶに留まることしかできない。彼ならわかるはずだ。不安定なまま部下に事を託す恐怖。託されるペウル側の気持ちだって。
「大丈夫だよ、変身術はまだ得意な方だから」
国と対立している身分柄、外で本当の顔を出すことは許されない。幼い頃に父から変身術を叩き込まれ、上級の魔術師にも見破られない程度には極めた。
「レベリオに所属しているのはお前だけじゃない、もっと人を頼れ」
「十分頼ってるよ。カンがいればレベリオは安泰だ」
「しらじらしい」
「はは、本当だって」
カンは冗談だと受け取ったようだが、からかったつもりはなかった。
レベリオを一番に支えているのは自分だ。その自負はある。でも、自分が崩れてもまだ、大丈夫。マダムもカンもいるし、デックスもいる。他に幾らでも、組織の崩壊を防げる人はいる。総長だけで成り立つレベリオじゃない。
だからこそ、アンミは自分を捧げて使命を全うできるのだ。
「頼るのは俺じゃなくてもいいが、リーダーならもう少し人のこと使えるようになったほうがいい」
「悪うございました、リーダーとして未熟なもので」
「アンミ」
もう一度、カンが名を呼ぶ。
わかっている。
「でも、俺をリーダーに持ち上げたのは仲間の方だよ」
信じ委ねたのは仲間の方だ。自分は責任を持って引き受けただけ。
だから、アンミが正しいと思うようにさせてもらう。組織がより円滑に柔軟に回るように、仲間たちがより不便なく安全に過ごせるように。
「お前のそういう生意気なところ、憎らしいよ」
「自信なくヘコヘコしてるよりはマシだろ。さ、そろそろ訓練の時間だろ、ほら行った行った」
確かに、アンミはリーダーとしては不十分かもしれない。
でも、自己評価するなら、レベリオ総長としてはなかなか上手くやっていると思う。立ち回りには自信がある。きっと過信などではない。
訓練場へ向かったカンの背を見届けて、アンミはふっと小さく息を吐いた。




