第29話 操獣
「アンミくん、来て来て」
タキに手を引かれるまま、広間に赴く。出迎えたのは、シーモンという名の猿の魔獣数匹と、カンと、その腕の中で眠る一人の赤子。艶やかな黒髪に、潤った大きな涅色の目。
「何、この状況。てかこの子、誰の子供?」
「それがね、アンミくん、見てて」
言われた通りに赤子を見ていると、カンの腕の中でその子の姿が変化していく。幻影のように形が歪んで、次に現れたのは、じっとこちらを見つめるシーモンの子供だった。
「え、これ」
「すごいでしょ? 私とカンさんの組み合わせでここまで擬態させられるようになったの」
まさか。アンミがカンの顔を見上げると、彼は誇らしげに笑って見せた。
「抱いてみるか?」
再び人間になった赤子をおそるおそる受け取る。触れると、赤子に込められた魔力が揺らめいて見えた。しかし姿形には全く異常はなく、どこからどう見ても人間の子供だ。
「……大人しいな」
「操獣で抑えてるからね。故意に笑わせることもできるけど、不自然よね。それに、今まだ赤ちゃんっぽく泣かせることができないのよ」
「できるようになる可能性はどれくらい?」
「他の操獣術師と組み合わせればできるはずよ。でも、あまり何重にも術を掛けると、魔力を隠せなくなっちゃう」
確かに。今の時点でも、アンミが触れれば術が掛けられているとはっきりわかってしまう。全く何の術も掛けられていないかのように見せなければならないのに。あまり凝りすぎるのも厳しいか。長い時間は騙せないかもしれないな。
「だがその辺りは、魔術の基礎的な部分だろう。鍛えれば改善できる」
そう話すカンに赤子を返すと、タキも隣に来て赤子の顔を覗き込んだ。
「ひとまずこれで作戦を成立させることはできるでしょうけど、今まだ不確定要素が多いのよね。その時にならないと分からないことが多いというか」
「ああ。色んな可能性を考慮して作戦を詰めていかなければならない」
「うん。ただいずれにしろ、カンとタキには作戦の要になってもらうことになると思う」
アンミの言葉に、タキは口を噤んで俯いた。その表情には、どこか不安げな色が浮かんでいた。
「何が不安? タキ」
「色々。責任重大で失敗が許されない感じとか、期限までになんとかしなきゃっていう焦りとか、そういうのがね」
そうだろうな。一世一代の魔王復活、失敗したらどうなるかもわからない。先の見えない闇の中で手を伸ばす感覚。アンミだって不安だ。
でも、これが一番マシな方法なのだ。犠牲も身代わりの魔獣一匹で済むし、責任の重さだってこれでも分散させているつもりだ。あとはアンミが作戦を練って、実行の指示を出すだけ。
「……技量に不安があるなら、できるだけそこを解消できるように作戦立てるから、言って」
この計画において、アンミが直接手を下す場所は少ない。ならせめて、裏方として。
「作戦面は俺が責任取って考えるから。悪いけど、実行はよろしく頼む」
アンミは二人に頭を下げる。アンミが留守の間にここまで鍛えてくれた二人への感謝の念も込めて。
すると、頭上から溜息が聞こえ、カンの声が降り注いだ。
「アンミ。魔王様の問題は、アンミだけが背負っているわけではない」
その言葉に顔をあげるとカンは、真っ直ぐにこちらを見据えていた。
「俺らも無関係じゃない。一緒に、どうにかしていこう」
彼の横で、タキも不安げながら笑ってみせた。
その様子にほっと息をついて、アンミも頷いた。




