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この心臓に愛を  作者: 竜花
循環の海 -晩夏-
23/30

第23話 蘇生術師

 ――五年前の、あの時。次々と運ばれてくる怪我人に手当を施しながら、()()()を待っていた。

 頭の中がとにかくうるさかった。戦況を告げる声、痛みに呻く声、耳の中を囂々と揺らしては、頭を振って走り回る。余計なことを考える暇などない、今は目の前の怪我人を助けることだけ考えろ。きっと誰かが状況を変えてくれる。総長か、その相棒か、はたまた次期総長か。

 誰でもいいから、誰か。


「みんな聞いてくれ!」


 マダムの声が、混沌と化した空間を切り裂いた。そのたった一声が喧騒を貫き、静寂を呼んだ。後に残った彼女の息遣いだけが、やけに響いて聞こえた。


「この中で魔力を持ってる奴は、今すぐ出せるだけ私に分けてくれ」


 そうする意味など、誰も知らなかった。誰も知ろうとしなかった。それどころではなかったから。彼女が必要とするのなら。次々と彼女のもとに人が集まり、力を託していく。その流れに身を任せて、ラードも彼女の下へ近寄る。

 ゆっくり話す余裕などなかった。だから魔力を渡せるだけ渡したら、さっさと引き揚げて手当の続きをするつもりだった。でも。


「マダム、大丈夫ですか?」


 魔力を渡そうとして掴んだ彼女の手が、冷たく震えていた。それを見て、声を掛けずにはいられなかった。

 こちらに気付いたマダムは、か細い声で「ラード」と名前を呼んで、ぎこちない笑みを浮かべてみせた。


「心配するな。あたしが何とかするからね」

「何かあったんですか?」

「……アンミがやられた」


 やや低い声で発されたその一言に、背筋が凍る。ぎゅ、と心臓を掴まれたような感覚に襲われる。音が、世界が遠くなる。ぐらついたラードを、即座に「大丈夫だ」と力強い声が引き戻す。


「大丈夫だ、ラード。アンミは必ず生かす」


 瑠璃の瞳がこちらを見つめていた。その目に迷いはなかった。だから信じられた。きっとみんなもそうだった。


「アンミさんを、お願いします」


 ――そして、彼女は言葉を事実にし、アンミは生き延びられた。

 ただ。今思い返せば、彼女はひどく震えていた。アンミやタスカを失うことへの恐怖から来るものもあっただろうが、なんとなく、それだけじゃなかった気がする。

 理由を聞く勇気は、今はまだない。

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